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S級昇格

「そんな、馬鹿な……俺たちが、たったひとりの戦闘員にッ」

「弱すぎる……所詮は五人揃って二流ヒーローか」


 仁王立ちする俺の前で、赤いマスクをかぶった五人戦隊のリーダーががっくりと膝をついていた。残りの四人はあちこちに倒れていて、ぴくりとも動かない。


 五人戦隊のヒーロー『バクハツダー・エックス』

 懐かしい戦隊もののお約束を踏襲した演出満載で、全国のちびっこたちだけでなくお父さん達にも大人気。最初のバクハツダーは普通の特撮番組だったが、現実でクズラーの怪人たちが暴れ始めてから放送も兼ねたリアルヒーローとして生まれ変わった。イケメン俳優からリアルヒーロー志望者を募り、肉体改造を施してクズラーの怪人を撃退する……はずだったのだが、改造手術のできが良くなかったせいか、イケメン俳優の身体能力があまり高くなかったせいか、五人がかりでも怪人に負けてしまうことが多かった。


 しかし特撮スタッフが、本物の爆薬を大量にロケ地に仕込んで戦うことを思い付く。怪人をおびき寄せて爆発で瀕死にしてからとどめを刺すという……正義のヒーローらしからぬ卑怯な戦法を使い始めた。もちろん、全国のちびっこたちの夢を壊さないよう秘密。


 バクハツダー討伐任務を受けた俺は、爆弾処理に長けた戦闘員のグループと共にロケ地へと向かった。さすがの俺も大爆発を喰らってはたまらない。他の戦闘員たちと上手く連携をとって爆弾を無効化しつつ、五人戦隊を一気に蹴散らした。

 怪人は爆発に強いイワガメ男を連れてきたが、動きが遅くてほとんど役に立たなかった。


「この前のクマの方が強かったな」

「ティーガを倒したのはおまえか……ぐっ……無念……」


 力尽きたリーダーはがっくりと岩地に伏せた。


「ご苦労……さすがはサンマルサンだ」


 聴きなれた低い重みのある声が背後から聴こえ、俺はおやっと振り向いた。


「ゲズ将軍! こんなところまで……見学ですか?」

「きみの活躍を生で見たことがなかったのでな」

「お、お疲れ様っす!」

「サンマルサン、遅すぎた昇格かもしれんが、きみを明日からS級戦闘員に任命する」

「はっ! ありがとうございます!」

「ティーガを倒した時点で決まっていたのだが、いろいろ事務処理に手間取ってな」


 255人いる戦闘員のうち、S級戦闘員はまだ三人しかいない。

 明日からは俺を入れて四人になるわけだ。


「S級戦闘員チームはクズラーの切り札のひとつ……どいつも一癖も二癖もある、きみに劣らぬ実力者だ。近いうちにまた作戦会議がある。その時に顔合わせをしたまえ」

「了解です! ところでゲズ将軍、ひとつお願いがあるのですが……」

「なにかね」

「休暇ってとれるんでしょうか」

「ん? 規約を読んでいないのかね」

「す、すいません……帰って確認します」

「休暇は申請式だ。週休二日までは休める。夏期休暇と年末年始休暇は別途用意されている。休日分を返上して勤務すれば特別手当がつく」


 意外とホワイトだ……悪の組織なのに。


「では一日だけ休暇を……実家に用があるので」

「妹さんの様子が気になるかね」

「まあ、そんなとこです。クズラーに入ったら家には帰らないと決めてたんですが、妹にちゃんと言ってなかったんで」

「家族は大事にした方が良い」

「勿体ないお言葉……でも、いいんです。復讐を決意した時から、すべてを捨てる覚悟です」

「そうか……」


 俺とグズ将軍が立ち話をしている後ろでは、戦闘員たちが気絶している五人のヒーローを担いでバンに乗せていた。


「将軍、ずっと気になってたんですけど」

「なにかね」

「捕まえたヒーローは地下牢に閉じ込めてるらしいですけど、どうして殺さないで生かしておくんです? 人質として使う為っすか?」


「ククク……知りたいかね」

 いつになく卑屈な笑いを、仮面の下から漏らすグズ将軍。

「まあS級に昇格したとなれば、何れ知ることになる」

 普段の穏やかな声質とは違う。

 裏の一面を垣間見たような気がして、俺の背筋がゾクリと震えた。


「……人体実験にでも使ってるんでしょうか」

「惜しいな。過去にそういうモルモット的な扱いもしたのは事実だが、一般人より強靭なヒーローの肉体を実験で使い捨てるのは少々勿体ない」

「…………」

「用途は主にふたつだ。まずは洗脳で忠実な配下にする。かつての仲間が敵として現れたらヒーローは戸惑うだろう。共倒れになってくれればベストだな」

「わぁ、悪の組織っぽい」

「だが洗脳は失敗のリスクが大きい。ヒーローは肉体だけでなく精神も強靭な者がいる。洗脳が解かれて逃げられたことは一度や二度ではないのだ」

「う~ん、それもベタな展開ですねぇ」

「もうひとつの用途は、怪人の素体だ」

「ヒーローを怪人に?」

「原形を留めぬほど改造を施すので元の精神を取り戻すことはまずない。その分手間はかかるが、元がヒーローだからな、強い怪人ができあがることが多いのだよ」

「な、なるほど……」


 なかなか恐ろしい。ということはヒーローたちは、時にかつての仲間を素体とした怪人と戦うこともあるわけだ。


「それってヒーローどもは知ってるんですか?」

「ヒーロー協会の上層部は知っているだろう。だが戦意に影響するので秘匿されているのではないかな」

「でしょうねぇ」

「ハイマスター・ドーラも知っている。あやつはクズラーの本拠地に侵入した唯一のヒーローだ」


 ハイマスター・ドーラ……二十年以上戦い続けているという伝説のヒーローだ。ハイランダー・レオの師匠でもある。テレビで見た時は小学校低学年くらいの幼女の姿に見えた。七歳の時から肉体の成長が止まり老いることもないという……。最近はほとんど目撃されていないようだが、健在であるならその実力は未だトップだろうと噂されている。最強の幼女ヒーロー。


「かつての本拠地はドーラに襲撃されて再起不能なほどに破壊された。場所も割れてしまった以上、別の拠点を作るしか選択はなかった」

「ようじょつよい……レオってドーラの次に強いんでしたっけ?」

「そう言われている……私の手応えとしては両者劣らずといった感じだったが」

「ん? ゲズ将軍ってレオと戦ったことあるんすか!」

「軽く追い払っただけだがな」


 ゲズ将軍の強さはクズラー内部でも秘密にされている。レイバルン将軍に聞いたところ『私より強いのは間違いない』と言っていた。ヒーローの中で最強とされるドーラやレオを相手にしたのだから、やはりそうとうな実力がありそうだ。


「さすがっすねぇ」

「きみも目覚ましい活躍を続けていれば、幹部候補も夢ではないぞ」

「クズラーの幹部か……まあ俺は、復讐が果たせればそれで」

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