話さないといけませんね
目を覚ますと、クズラーの医療施設のベッドの上だった。
「ん……さすがに、ちょっとやばかったな……」
「やばかったではあるまい!」
起き上がろうとする俺の耳元で、レイバルン将軍の怒声が響いた。
「命令を無視するとはなにごとだ!」
「す、すいません……フヒィ」
「ギュラゴに大打撃を与えたとして今回は大目に見るが、次は許さんぞ」
「あの爆発の中で……信じられない……」
目尻を尖らせたレイバルン将軍の隣には、驚いた顔のミッソーがいた。
「おおっ、このシチュは……美女二人が付きっ切りで看病してくれたんですかねぇ?」
「そんなわけあるまい。ふざけてると懲罰房にぶち込むぞ」
「へ、へい……自重します」
「沿岸で倒れていたおまえを回収したのはミッソーだ。礼を言っておけ」
「ありがとうな、ミッソー」
「別に――私が助けなくても、あなたは生きてたでしょう」
「さあ、どうかな……おっ、そういや一晩付き合ってくれる約束だったっけ」
「そんな約束してないけど、考えておくわ――」
相変わらず冷ややかな表情だが、まんざらでもない様子のミッソー。
レイバルン将軍は決まり悪そうに目をそらした。
美女二人が退出した後、ゲズ将軍が病室にやってきた。
「無事かね? リッパー君」
「は、はい……将軍自ら見舞いに来てくださるとは、恐縮です」
「きみはもはや、クズラーの最重要戦力だ。大事にせぬわけにはいくまい。ギュラゴは逃がしてしまったが甚大なダメージを受けただろう。しばらく上陸はできぬ筈だ。命令違反はいただけないが、結果に免じて許そう。養生したまえ」
「寛大なお心遣い、感謝します!」
「ふむ、本当に無事なようだな――」
俺はゲズ将軍の見ている前で、腕に巻いてあった包帯を解いた。
どのぐらいの傷があったのかわからないが、完治していた。
「俺、全身血まみれでした?」
「流血はしていたが、さほどひどくはなかった」
「1日で完全に治っちまうとは、自分でもびっくりです。大爆発に巻き込まれて大丈夫かは、まだ試したことなかったんで……ははは……」
「やはりきみは、ただの人間ではないな。いや――すでに人間ではないのかね?」
ゲズ将軍は静かに、俺を見下ろした。
俺はしばし、無言の中で考え込む。
「将軍にはそろそろ、話さないといけませんね」
「話してくれるかね」
「その前に、俺の本当の姿をお見せします」
精神を集中し、血肉の芯に気力を送り込むようイメージする。
徐々に肌色が透明へと変わり、青く輝く骨の身体が露出した。
「ガイアメタル……どこで手に入れたのだ?」
「やっぱりガイアメタルなんですね、これ」
「ん?」
「ガイアメタルという言葉はリーマンマスクから初めて聞きました」
「ふむ……どこかで偶然、触れたということか」
「まあ、そんな感じです」
「では、私も本当の姿を見せるとしよう――」
ゲズ将軍が仮面を脱ぐと……人間の形状をしてはいるが、鉄のような銀色の肌に、赤く輝く瞳の素顔が曝け出された。
「将軍の素顔を見られるとは、光栄です。俺よりかっこいいですね」
「我々地底人メナグスは、ガイアメタルの恩恵を受けている。純血のメナグスはみな私のように、流体金属の肉体を持っているのだ」
「流体金属……そういやゲズ将軍以外のメナグスを見たことないです」
「多くは地下に潜伏している。強化手術を受けねば日光の下では身体能力が低下するのでな、死にはせんのだが。私はメナグス皇帝の勅命で日本制圧を任せられた。海外のクズラー支部でも同じようにメナグスの幹部が活躍している」
「なるほど……」
「ついでに教えておこう。ギュラゴは米軍の核実験の影響による突然変異で生まれたと表向きは言われているが、実はガイアメタルで覚醒した怪獣なのだ。これを知っているのはクズラー上位の幹部のみだ」
「うへぇ、そんな秘密を……いいんですか」
「ギュラゴと直にやりあった者などおらん。特別サービスだな。それにきみはガイアメタルの恩恵を受けた、おそらくは選ばれた人間なのだ。知る資格は、あるだろう――」
すでにヒトではない、
透明な骸と化した自身の手のひらを眺めながら――
俺は過去を思い出していた。
消し去りたい記憶、だが、消すわけにはいかない。
その怒りが、今の――
バケモノと化した俺の原動力なのだ。