それぞれの日々……⑧
本日2話投稿の1話目です。
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イーディスとの話し合いから、何だかんだで半年が過ぎた。
オレとしては、すぐにでも帝都から逃げ出す……もとい出立するつもりだったけど、周りの状況がそれを許してくれなかった。
と言うのも内戦を停戦に導いた救国の皇女として、被害を受けた帝都の復興事業やら各陣営での交渉の場に引っ張りだこで、のんびりする時間も持てないほどだったからだ。
イーディスはイーディスで皇帝としての立場で激務をこなしていたので、オレとしても自分の出来ることはやるのが当然と言う気持ちもあったし、自分のことだけを考えアリスリーゼへ逃げ出すことはオレの性格的にも、とうてい無理な選択だった。
それに心配された両公爵(元の両公子)からの求婚も、ほとんど無くオレは胸を撫でおろすこととなった。レオンもアルフレートもさすがに爵位を継いだばかりの上、前公爵の急死による公国の混乱を収めるべく取る物もとりあえず公都に帰国していたので、そうした心配は杞憂に終わったのだ。まあ、公国が落ち着きを取り戻し、二人が再び帝都に来る前に逃げ出しておけば大丈夫と言えるだろう。
とにかく、そうしたごたごたも何とか一段落し、ようやくオレはアリスリーゼに出立する日を迎えることができた。
「シンシア、ありがとう。ほとんど準備完了だよ」
「はい、リデル様。こちらも支度は終わりました。後はトルペン様がいらっしゃって『縮減回廊』(Ⅱ類神具:タペストリー間を行き来できる神具)を開いていただければ、一足飛びにアリスリーゼに移動できますね」
「そうだね……でもさシンシア。実を言うとオレ、朝から一回もトルペンの姿を見てないんだけど」
「確かにリデル様の仰る通りですね……では、私が探して参ります。リデル様は絶対に……絶対にここから動いてはなりませんよ。もう、あまり時間が無いのですから」
「わかってるって、信用無いなぁ」
「リデル様のいつもの行動を見て、どこを信用して良いのか、私には分かりませんが?」
「うるさいなぁ。ここから一歩も動かないから、早く行ってよね」
「畏まりました。すぐにトルペン様を見つけて戻って参ります」
シンシアは一礼すると足早に部屋から立ち去って行った。
も~シンシアったら、もう少しオレのこと信用してくれてもいいのに。離れ離れになっていた期間があったせいで、ことオレのことになると心配し過ぎのきらいがある。有難いけど、過保護のお母さんみたいだ。
さて、少し時間があるので、みんなの近況について少し整理しておこう。
まずは、今出て行ったシンシア。
再びオレ付の侍女となったシンシアは本当に良くしてくれている。気付かないでいると休みなくオレに仕えてくれるので、最近は無理やり休みを取らせるようにしている。その際はお姉さんのソフィアがその任に就いてくれるので、この姉妹には本当に頭が上がらない。休みの日は、どうやらゴルドー商会に入り浸って勉強してるようだ。将来はクレイの商会の手助けをしたいと考えていると前に言ってたから、その布石に違いない。
一方のソフィアはオレの侍女をしている時以外のことは良く知らないと言っていい。シンシアの話では、オレのために諜報組織を立ち上げたようで、その関係の仕事で忙しいらしい。本当に感謝の言葉しかない。
ヒューとは仲良くしているようだが、オレが思うような進展は期待できないようだ。婚期もあるので、少しは真剣に考えて欲しいところなのだけど。
そして、オレの護衛官をしているラドベルクは今回のアリスリーゼ行きには同行しないことが決定している。付いていきたい気持ちも強いようだが、最優先のイエナちゃんが中央大神殿に所属しているので帝都から離れられないそうだ。イエナちゃんは大神殿で良くしてもらっているので自分は大丈夫と同行を許可したのだけれど、ラドベルクが納得せず帝都に残ることを決意したらしい。オレとしても、イエナちゃん第一で考えてもらいたから、ラドベルクの申し出を即座に了承した。本当にあの親子には幸せになってもらいたい。
当面は今度、帝都に完成する闘技場の運営に助言者として関わる予定のようだ。
大神殿と言えば、パティオ大神官の聖神官就任が決定したらしい。先日、ネヴィア聖神官と会った時に聞いたから、ほぼ間違いないだろう。市民出身の聖神官は初ではないが、極めて稀なことなのだそうだ。いろいろお世話になっているので、喜ばしい限りだ。
また、呪われし血の一族アエルも血統裁定官として正式に中央大神殿に所属することとなったので、もう迫害される心配は無いので一安心と言えた。
後は12班のみんなの近況だが、ユクはオレと一緒にアリスリーゼへ付いて来てくれるようだ。ただ、最近は皇宮に棲みついてフラフラ遊んでいるイクスの世話を甲斐甲斐しく焼いているらしく、イクスがオレを追ってアリスリーゼに向かうことも理由の一つとオレは見ている。どうやら、イクスのことが好きなのは今も変わっていないらしい。
オレとしても、ぜひユクには頑張ってもらいイクスのオレへの執着心を失わせて欲しいと願っている。ユクをイクスに任せるのは正直少し納得できないけど、本人が望むことは否定できない。
もっとも、ユクのイクスへの接近については父親のトルペンが珍しく怒っていて、両者の関係は緊迫したものになっているようだ。どうでもいいけど、トルペンVSイクスの怪獣対決は断固止めてもらいたい。ちょっと見てみたい組み合わせだけど周りの被害を考えると、やはり避けたい事態と言えた。
アレイラは前に話した通り宰相補に就任予定でケルヴィン宰相の下で政務に励んでいる。帝国初の女性宰相への道は順調のようだ。あと意外な話だけど、アレイラはケルヴィンのことを好きでは無いが尊敬はしているそうで、ケルヴィンの方もアレイラの才能を認めているらしい。ひょっとすると……を密かに期待しているが、ちょっと難しいだろうか。
オーリエはオレの筆頭護衛官をしていたが、急遽職を辞して城塞都市カンディアのグレゴリ傭兵団に戻ることになった。何でもグビル団長が急に倒れて長期療養中のため団長代理を勤めることになったらしい。一人娘で実力もあるので仕方のない対応と言えた。聞いた話では、ずいぶん前から体調不良だったらしくルマの武闘大会にも自分の状態を再確認するために出場したのだそうだ。
せっかく二人とも良い雰囲気だったのに、デイブレイクも近衛騎士団司令になってしまって帝都を離れられないので、二人の今後が心配でならない。
一番心配なノルティは帝国図書館の空き室を利用して帝国神具研究所を立ち上げた。ちゃんと帝国から支援を受けた公的の機関との話だ。元々、帝国図書館で育っていたし、館長はノルティの父親なので実家に帰った感覚だろう。ちなみに顧問はトルペンだ。主に神具や聖石について研究する組織らしい。オレへの執着が透けて見えて何だか怖い。毎週、トルペンと一緒にアリスリーゼに来ると明言していて、会う頻度は今と変わらなくなりそうだ。
ヒューはイーディスのはからいで天隷の騎士のままオレの護衛騎士を拝命されアリスリーゼに赴くことになった。オレを甘やかす二大巨頭の一人で一緒にいると駄目になりそうなので、しっかり気を引き締めようと思っている。でも、いるだけでほっとするので頼れるお兄さんとして今後も傍にいて欲しいと願っている。あと、ソフィアとどうにかしてくっつかないか画策中でもある。
もう一人のオレを甘やかす二大巨頭のクレイは……おっと、誰か来たようだ。
今章の追加です。
主要キャラの近況報告となります。
次話がエピローグとなります。