邪神……⑨
「クレイ……」
その光景にオレの頭の中は真っ白になり、全てを投げ捨ててクレイの下に駆け寄りたい衝動に駆られる。
「リデル……安心しろ。俺は大丈夫だ」
思わず走りだそうとしたオレを止めたのは苦し気なクレイの声だった。驚いて顔を上げ、クレイに目を向ける。
クレイはボロボロになりながらも倒れずに立っていた。
「さすがは『不殺の剣』。『特別宝物庫』にあったお宝だけのことはあるな。気休めのつもりだったが、あの攻撃に折れることなく耐えられるなんて驚きだ」
クレイは右手に持った『不殺の剣』を自分の正中線に沿って剣の平を相手に見せるように真っ直ぐ立て、左手で剣の上辺を支え、まるで細長い盾を構えるような恰好でゾルダートの黒い影矢を防ぎ切っていた。ちょうど、頭と胸を庇うような形となったため急所を正確に狙ったゾルダートの攻撃は、ことごとく失敗に終わる結果となった。
もちろん、全く無傷という訳でなく、クレイの左肩と両太ももには例の黒い矢が三本突き立っている。やはり、オレの時と同じように楔となって身体に残ったままになっているみたいだ。クレイの呼吸が苦しそうなのは恐らく身体が麻痺しているせいだろう。
「クレイ、ホントに大丈夫なのか?」
「ああ、何とか急所は外したからな」
「そうか……でも、なんでお前そんな無茶なことを……」
手を出さなければ、手傷を負うようなことは無かったのに。
心配で胸が張り裂けるかと思ったよ。ホント止めて欲しい。
「そいつは悪かった。けど、ちょっと確かめいことがあって……ぐっ」
そこまで言いかけてクレイは顔を蒼白にして、ゆっくりと膝から崩れ落ちる。
「クレイ!?」
「愚か者め。お前ごときがアリシアと同じである訳がなかろう。致命傷でなくとも、一本でも身体に受ければ行動不能になるに決まっておるわ」
オレが倒れ伏したクレイに悲鳴を上げるとゾルダートは吐き捨てるように言い放った。
ゾルダートの言い草に思わずカッとなったが、まずはクレイを助けるのが先だと考え、オレはゾルダートの暴言を無視し、クレイに近づこうと一歩踏み出す。すると、クレイが倒れたままの状態で「大丈夫だから、来るな」と言いたげに手を下に向けてひらひらさせた。そして、急速に意識が遠のいたのか最後の力を振り絞って一言、声にならない言葉を発すると意識を手放した。
ん、クレイの奴、今何て言った?
何か大事なことを伝えようとしたに違いないけど、声は聞こえないし遠すぎて口の動きも見えない。
(リデル様!)
その時、不意に頭の中で声が響いた。
この声、トルペンの心話か?
(はい、そうです。ゾルダートに気付かれぬよう願います)
うん、わかった。けど、急にどうした。
(クレイ殿の言葉、かろうじて読み取れましたので、お伝えしようかと……)
え、マジか。助かる……それでクレイは何て言ったんだ?
(ただ一言、『数』と……)
数? 何だ、そりゃ。もっと分かりやすいヒントくれればいいのに……。
とりあえずクレイのこと介抱しなきゃとオレが考えているうちに、ゾルダートが再び影達を召喚していた。
げっ、また振り出しに戻ったのかよ。
何か打つ手を考えないと永遠に堂々巡りだ……ん、待てよ? 何か変だぞ……さっきと何か違う気が…………あっ、そうか。わかったぞ! もしかしたら……。
さっきからモヤっていた正体がクレイのヒントでやっと判明する。まさか、そういうことだとは全く気付かなかった。いや、普通は絶対気付かないだろ。
とにかくクレイ、悪いけどしばらくそのまま眠っててくれ。お前のおかげで、何とかなったかもしれない。今からオレ、ゾルダートを倒してくるから。
トルペン!
(はい、何でございましょう)
危険が伴うけど、トルペンにお願いしたいことがあるんだ。
(貴女は私の主です。何なりとお申し付けください)
ありがと。助かるよ。
それじゃ悪いけど、オレが合図したら身代わり用に残ってるゾルダートの影を倒してくれるか?
(承知いたしました。ですが、今の私では複数体を倒しきる確実性がありません)
大丈夫だ、一体だけ狙ってくれればいい。
(それなら大丈夫です。確実に仕留めます)
うん、頼んだ。トルペンの攻撃がオレの作戦が成功するかの鍵だから。
(お任せください)
トルペンに指示を出したオレはテリオネシスの剣をぎゅっと握りしめ、ゾルダートを睨みつける。黒い楔のせいで肩は少し麻痺しているが戦闘には支障がない。この程度なら、何本食らったって根性で何とかなる……いや、何とかしてみせる。
「ゾルダート、勝負だ!」
オレは持てる力の全てを出し切る勢いでゾルダートに突進した。
「何度来ても同じだと思うのだが。アリシアも、そろそろ諦めたらどうかね」
ゾルダートは余裕を見せながら黒い影達を展開させる。案の定、一体は身代わり用に攻撃に参加させていない。
けれど、今までと違うオレの死に物狂いの攻勢にゾルダートは驚き、オレを止めるべく次々と影達に攻撃を命じる。そして、必中を期してクレイ達にしたのと同様に矢のような状態に変化させ、オレへと殺到させた。
それこそがオレの思うつぼだ。
「何!?」
オレはその影矢を、身を躱すでも剣で払うこともなく全弾をこの身で受け止める。一本は右肩、一本は腹部に、二本は両太もも、最後の一本は背中に突き立って黒い楔となった。
うぎゃぁぁ――めちゃくちゃ痛いんですけど、死にそうなんですけど。
全身の痛みで目が眩みそうになる。
けど、我慢だ。今が絶好のチャンスなのだ。
オレは痛みに耐えながら、勢いを落とさずゾルダートに肉薄する。
デスマスクのゾルダートが目を見張るのがわかった。
そりゃ、そうだろう。まさかオレが麻痺攻撃を、まるっきり避けないと思わなかったに違いない。けど、この方法が望むべく最良の一手なのだ。
何故なら、そのせいでゾルダートの影は残り一体のみとなったからだ。
最初に覚えた違和感の正体が、最初オレにはどうしてもわからなかった。けれど、クレイが無茶したおかげで、はっきりと気付くことが出来た。
どうやらゾルダートの影は黒い楔となって相手を麻痺させ続けると、影としての行動が出来なくなる仕様らしいのだ。つまり、最初にオレを麻痺させた後は九体しか出現していなかったわけだ。そして、クレイの頑張りで三体消費し残り六体、そのうち身代わりで一体残すので、攻撃してくるのは実質五体ということになる。
その五体全てをオレはこの身で受けた。正直、行動不能になるかは賭けだったが、一本目の感触から恐らく大丈夫だろうと判断した。
結果は何とかなった。オレは賭けに勝ったのだ。
もはや、残った一体以外に身代わりはいない。
「トルペン、今だ!!」
オレは麻痺した身体に鞭打って、全身全霊を込めてテリオネシスの剣でゾルダートを切り裂く…………。
だんだん、今年が終わりに近づいてきて恐れ慄いてます(>_<)
ちょっと11月さん、早く過ぎすぎじゃないですかね?
今期のアニメは豊作のようですが、時間が無くて全然見れていません。
ウマ娘もログインボーナスをもらうだけの毎日です。
いったい何をして一日が終わってるのだろうか?
疑問でなりません。
やりたいことが多すぎて時間が足りない(T_T)
更新だけは頑張りたいです!