邪神……⑧
どうやら楔のように相手の体内に残り、麻痺させて動けなくする魔法のようだ。幸い、影矢を撃ち込まれた肩の一部は麻痺しているが、剣はしっかり握ることができ、そこまで甚大な被害とは言えなかった。
うん、これならまだ、十分戦える。
「安心したまえ。一本ほどでは恐らく突き立った周辺箇所の麻痺ぐらいにしかならぬよ。けれど、当たる場所次第では致命傷となりえるから用心することだ。君が部下たちを身を挺して庇ったのは賢明な策とも言えるな。もっとも、君に対しては当たりどころが悪くても、せいぜい行動不能にするのが関の山であろうが……」
つまり、オレ以外の人間にとっては胸や頭などの急所に命中した場合は麻痺だけで済まされないと言いたいようだ。とっさにトルペン達を庇ったのは正解だったらしい。
「間違えるな。トルペンとヒューは部下じゃない、仲間だからな。それにオレにとってこのくらいの麻痺、全く問題ない。このままでも十分、あんたを叩きのめせる」
「それは楽しみだ。ぜひとも頑張って欲しいものだね。わしの方も何本で君を沈黙させられるか興味が尽きぬよ」
「だからと言って、トルペン達を狙うのは卑怯だぞ」
オレとの会話で機嫌を直したらしい(?)ゾルダートに念のため予防線を張っておく。先ほどのような真似をされたら、オレがまた身代わりにならざる得ないからだ。
「勿論だとも。わしと君の楽しい時間に無粋な者が加わることなど我慢ならぬことだからね」
よし、言質は取った。これでトルペン達から手を出さなければ彼らが狙われることは無いだろう。
「トルペン、助力ありがとう。けど、今は自分とヒューの身を守ることに専念してくれると嬉しい」
「……わかりマシタ、リデルがそう言うのナラバ」
不承不承という雰囲気でトルペンが納得する。
絶対障壁が簡単に撃ちぬかれて、さすがに意気消沈しているようだ。それだけトルペンのダメージが大きく、能力や権能が下がっている証拠なので、無理は禁物と思ってもらおう。
とは言ってもトルペンの援護を受けられなくなったのは、かなりの痛手だ。上手く連携すれば、力押しでも勝てたかもしれない。だから、あんなにも早くゾルダートは手を打ってきたとも考えられなくもない。
さて、この状況で何か現状を打破する良い手は……あれ、何だろう、変な感じがする?
次の善後策を考えようとゾルダートと奴の影達を見ていると何か妙な違和感を覚えた。けど、どうしてもその違和感の正体が分からない。
くそっ、ここまで出かかっているのに何だろう……もやもやする!
とにかく、打開策が浮かばない限りやることは、さっきと同じだ。無駄かもしれないけど、何かの拍子で逆転の機会が訪れるかもしれない。そう思い、オレが再び地道な努力として影達に攻撃を仕掛けようとした矢先のことだ。
不意に、今度は左手の外側にいた影が、いきなり両断され消滅した。
「え?」
「ぬぅ?」
オレとゾルダートが同時に声を上げ、倒した相手に目を向ける。
「おま……いったい何してんだ!」
影を切り捨てたのはイクスと共に左側の壁にいたはずのクレイだった。
「ク、クレイもさっきのトルペンとのやり取り聞いてただろ」
せっかく手を出さなければ攻撃しないって言質を取ったっていうのに……何、やってんだよ、クレイ。
「あれだな、リデル。『不殺の剣』でもぶっ叩けば、ちゃんと相手を倒せるんだな」
オレの問いかけに敢えて答えず、クレイは目を丸くして、自分の握っている『不殺の剣』を見つめていた。
『不殺の剣』は、ゾルダート(アイル皇子)に操られて黒鎧の騎士となっていたクレイが使用していた剣で、名刀工ベリューモントの手によるものとされている。その特殊能力は相手にダメージを与えた際に付加効果として相手に麻痺を与えるものだ。
不死のオレに対する切り札としてゾルダートが用意した剣だが、普通の相手に対してオーバーキルのダメージを与えたなら当然、相手は死んでしまう。なので、クレイが剛剣を振るえば影が倒されるのは必然と言えた。
「ば、馬鹿クレイ! 何、アホなこと言ってんだ。手を出すなって言っただろ……ゾルダート、待ってくれ。クレイは聞き逃していたみたいだから……」
許してやって欲しい、と言おうとして、ごくりと唾を呑み込んだ。
デスマスク越しにもわかるほど、ゾルダートが激高していたからだ。その剣幕は思わずオレが退くほどだった。
「き、貴様! わしの話していたことを聞いておらなんだのか! 脇からつまらぬ横やりを入れるなと散々申したであろう……それを貴様は……」
「ゾ、ゾルダート。神様なんだから少し落ち着こうぜ」
ちょ……神様って、こんなにキレやすいの? あ、邪神だからか。
「クレイ、お前もだな……」
「ゾルダート、ずっとあんたに言いたかったんだ。あんた神様ってわりに、やることがいちいちセコイんだよ。謀略好きかもしれんけど裏から、ちまちま……ちまちまと性格暗すぎるぜ」
あ、馬鹿。煽ってどうすんだよ。大体、お前だってどちらかって言えば策士の方だし、他人のこと言えないんじゃないか?
「し、死ねぃ! この痴れ者めが!」
オレが心の中で両者に突っ込みを入れていると、口から唾を飛ばすほど怒り心頭に発したゾルダートが影達に命令を下す。すると、影達はそれぞれが一斉に飛び上がると、先ほどのトルペンの時と同じように黒い槍のようになってクレイに殺到した。
やばっ!
場所が少し離れていたのとタイミングが合わないせいで、さっきのように割り込むことができない。
「クレイ――!」
オレの目の前で影達がクレイに次々と突き刺さった。
すみません。短くてごめんなさい。
検診でバリウム飲んだせいで、ずっとお腹の調子が良くない上に
インフルエンザの予防接種を打ったので、体調が絶不調です(>_<)
ちなみに家族は私だけ残して、お出かけなので今日は早めに寝ようと思ってます。
このペースだと、どうやら年内完結は無理そうですねw