邪神……③
「そうなのかね。まあ、わしとしてはどうでもよいことだが……」
どうでもよくないぞ、主にオレの精神的に。
「とにかく君が言った通り、時間が経てば経つほどわしにとっては有難いのだが、さすがに下らぬ痴話げんかを延々と見せられるのは避けたいな」
どこが痴話げんかじゃ。あんたの眼は節穴か?
「どれ……そろそろ決着を付けるとしようか」
「決着? じゃあ、オレと本気で戦うつもりなんだな」
アイル皇子は最初見た時から玉座にずっと座ったままで、上半身しか動かしていなかった。なので、復活は果たしたけど未だ満足に動けない身体なのではと単純に思い込んでいたのだ。そんな状態でオレ達と戦うのは、いかに魔法が絶大だとしてもいくらなんでも無謀過ぎると思って疑問を呈したのだが、オレの発言にアイル皇子はわずかに口角を上げる。
「ふむ、君はわしが満足に戦えないとでも思っているかのようだね。復活したわしの力を甘く見ないことだ」
「そいつは悪かったね。でも、あんたが復活してどんなに強くなったとしても……」
ここまで力になってくれた人達のためにも……ひいては帝国のためにも。
「オレはあんたを必ず倒して見せる!」
オレの宣言にアイル皇子は怒りを見せるのではなく、逆に嬉し気に笑みを浮かべる。
「上等だよ、アリシア皇女。わしはな、幼少の頃よりずっと病床の床についていたので、健康で優れた人間を見ると虫唾が走るのだ。憎悪していると言ってもいい。そして、そのような者が惨めに屈服する姿を見ることに愉悦を覚えるのだよ。果たして、君がどんな姿を見せてくれるのか、楽しみでならぬわ」
何それ、悪趣味な……。
「もっとも、今のわしの身体では残念ながら、君に女性の喜びは教えてやれぬがな」
どういう意味だ? もしかしなくても性的な発言だろ。もげてしまえば良いのに……。
「え?」
前言撤回。
喜色を浮かべながら、ゆっくりと立ち上がったアイル皇子を見てオレは絶句する。
ちなみに『皇帝継承神具Ⅰ類』である皇帝御鎧については、オレは皇女時代に説明を受けたことがあった。と言うのも『Ⅰ類認許者』であるオレは皇帝御鎧を着ることができたからだ。その際、こんな大きな鎧、オレには着られないだろって宝物管理局の人に文句を言ったところ、装着者に合わせてサイズが変わるのだとの話だった。
男性皇帝を前提にしてるからだと思うけど、女性皇皇帝が着たら、出るところが出て何か恥ずかしいって感想を洩らしたらクレイに「お前、関係ないだろ」って突っ込まれたっけ。もちろん、あとでお仕置きしたけど。
なので、アイル皇子の鎧姿を見て、オレは自分の目を疑った。立ち上がったアイル皇子の体型は、ほっそりして華奢なシルエットで……まるで女性のそれだったからだ。
「ア、アイル皇子! あんた、その姿は?」
「おや、何を驚いているのだ」
デスマスクから覗くアイル皇子の目が訝し気にしている。
「って言うか、主さん女だったのか?」
「えっ、イクスも知らなかったの」
「いつも声だけだったしなぁ」
確かに身体はあんなだけど、声はしゃがれた男の声だ。
「二人とも、何言ってんだ。アイル皇子なんだから、男に決まってるだろ」
オレとイクスが混乱しているとクレイが冷静に突っ込む。
「でもさ、クレイ。どう見たって女じゃん」
「そうだな、お前より確実に胸があるな」
「あ、確かに」
ごすっ。ばきっ。
「あ、ごめん」
無意識にクレイとイクスを殴ってた。
「アイル皇子、可能なら説明してくれると嬉しいんだけど」
二人に謝ってからオレはアイル皇子を睨みつけて尋ねる。
どう考えても、酷い想像しか浮かばない。
「これか? 前に話したであろう。わしがお前の替わりに出来損ないを使って復活しようとしたことを」
「聞いたけど、イーディスは出来損ないなんかじゃない。訂正しろ」
「アリシア、私のことは聞き流せ。それより先を聞かせてくれ」
憤慨するオレを宥めてイーディスが真剣な表情で先を促す。
「ふむ……まあ良い。続けよう。わしの復活は、あと一歩のところで成功しなかった。こやつが不出来のせいでな。しかし、元の身体はすでに朽ち果ていて使用に耐えれなかったのだ。そこで、苦肉の策として代替えの部品を用意した」
「部品?」
「そうだ、ちょうど適材がおったのでな」
アイル皇子の言っている意味がわからずオレが疑問符を浮かべていると、イーディスはその意味に気付いたのか青褪めている。
「ま、まさか……」
「ほお、よく気が付いたな。その通り、この身体はお前の母『フォステーヌ』のものだ」
『フォステーヌ・メルトリューゼ』……デュラント神帝のフォルムス帝国外征の際、頑強に抵抗したメルトリューゼ子爵の一人娘で、降伏後にデュラント神帝に見染められ子を生したとされる女傑。イーディスの本当の母親と目される女性だ。
確かデュラント神帝が崩御した際、メルトリューゼ子爵領から母子と共に姿を消したと聞いている。イーディスがアイル皇子の元にいたことを考えるとフォスティーヌもアイル皇子に拉致されていたと考えるのが自然だろう。
「貴様、部品と言ったな!」
イーディスが怒りに震えた声でアイル皇子を問い詰める。
「うむ。首から下だけ、そっくりいただいた。お前の母の身体は具合が良いぞ。さすがは、『変生人』と言ったところか」
『変生人』と言うのは『稀人』の一種で神界や異界から生まれ変わって来た者たちの総称だ。オレの母親のロニーナのような『天落人』ほど無茶苦茶では無いが、やはり常人離れした身体能力を持っているらしい。
「き、貴様……母上を……」
イーディスは怒りのあまり言葉を失っている。
「娘の失敗を母親が補ったのだ感謝することだな。それに、このわしの一部として使役されたのだ。光栄なことと思うがよい」
「イーディス……」
アイル皇子の言い様に思わずイーディスに声をかけたが、この母子の哀しい人生にかける言葉が見つからなかった。
「アリシア…………すまぬ。帝国のためにではなく、私の母のためにも、この化け物を打倒してくれぬか」
「……わかった。任せてくれ」
オレはイーディスの悲痛な声を耳にしながら、決意を新たにしてアイル皇子に向き直った。
何だか気温の寒暖差が激しいですね。
体調も今一つです。
皆様もお気を付けくださいね。
秋アニメも始まりましたけど、見る時間がない(>_<)
夏アニメも見切れてないですw
ウマ娘もログインボーナスだけになってるし。
リアルが忙し過ぎる……(一一")
更新は頑張ります!