邪神……②
誤字報告ありがとうございます。
とても助かっています。
今後も、よろしくお願いいたします。
「企んだなどと人聞きの悪い。最初からの計画通り、事が進んでいるだけだ。ただ、時間を有することなので、並行して行っていたに過ぎない」
オレの追及にアイル皇子は淡々とした表情で答える。
「いったい、何を……してる?」
嫌な予感がしてならない。
どうやらオレの不安は的中しそうだ。
「愚か者が漏らしたように、わしの復活はまだ不完全なのだよ。君の身体を得て完全体となると言ってよい……しかし、そのためには、ほんの少しだけ生贄が……恐怖に絶望する人間の心や新鮮な血肉が足りなかったということだな」
「あ、あれだけ宮廷の人達を犠牲にしても、まだ不足と言うのか!」
あまりの話にオレは声を荒げるが、アイル皇子は平然としている。
「ああ、足りぬな……せっかく再び内戦を引き起こしたというのに、早々に停戦となるとは予想外であったわ。長期化すれば、わしの復活も容易であったというのに、全く口惜しくてならぬ。皇宮の使用人ごときを贄にしても全然足りぬのに決まっておろう。なので、我が信徒達に命を下した。皇宮を中心にした円の中に住む者どもの生命を全て復活の贄として差し出せ、とな」
何だと……。
「じゃあ、今この瞬間に人が殺されてるのか?」
「殺す……などと言う無粋な表現は止めたまえ。至高神復活の糧となると言い改めて欲しいな」
「そんな戯言はどうでもいい。知りたいのは、あんたの復活のために罪もない帝都の人達が無差別に殺されてるってことなのか!」
「ふむ、無粋な表現をとるなら、そういうことになろうな」
ぶちっ。
オレの頭の中で何かが切れる音がした。
皇女になってからは、あまり出歩くことは出来なかったけど、皇女候補時代には十二班のみんなと、よく皇宮周りを散策したものだ。
だから、近くのお店や道行く人など顔なじみになった人達も数多くいた。脳裏に、その人達の顔が次々と浮かんでは消える。中には変な人もいたけど、大半は気のいい住民達だった。断じて、こいつのために無造作に殺されていい人間などでは決してなかった。
「アイル皇子、あんた……」
「アリシア」
オレがアイル皇子に怒りをぶつけようとすると、不意にオレの名を呼ぶ声が耳に入る。声の方に視線を巡らすと、エクシィを介抱しているイーディスと目が合った。
彼女の瞳には強い決意が込められているように見えた。
「イーディス?」
「アリシア皇女よ。このような暴挙、帝国において決して許されてはならぬことだ。故に皇帝たる私が命じる。この邪悪なる存在を打倒せ……私の身のことは考慮せずともよい」
私が死んでも構わないから邪神を倒せ……イーディスは視線を逸らさず、そう訴えかけてくる。
「……わかった」
イーディス、君の強い決意は受け取った。必ず、こいつを倒して見せるよ。
オレはイーディスに頷いて見せると、アイル皇子に向き直った。
「アイル皇子、どうやら交渉の余地は無さそうだ。これ以上罪のない人々の命が失われないためにもオレはあんたを倒す」
「リデル、俺も手を貸すぜ。いいように操られたってのも気に食わないし、どう見てもこいつが元凶のようだしな」
「僕も、もちろん助力しますよ。危うく捨て駒にされそうでしたし、働いてきた分で今までの借りも返せたと思いますから」
オレがアイル皇子に戦闘を宣言すると、クレイとイクスがオレを挟んで両隣に立つ。
「二人とも……」
クレイは壊れた黒鎧を脱ぎ捨て鎧下(下着)だけになり、イクスは拘束から抜け出した時のままの平服なので、両者ともほとんど防具の無い状態だ。
武器もクレイはヴァンダインが持っていた大剣を拾い、イクスは侍女達が持っていた短剣で二刀流をしている。二人とも得意の武器とは言い難い。
加えて、クレイは生気を吸い取られて疲労困憊だし、イクスも拘束魔法具から無理やり脱出してきたせいで同様の状態だ。
そんな状態なのにオレと共に戦ってくれるつもりなんだ。
ちょっと感激していると、二人はオレを真ん中にして言い合いを始める。
「おや、クレイ君。足元がふらついているようじゃないですか。黒鎧の呪縛から解けたばかりなんですから、ここは僕に任せて無理しない方がいいのではないですか」
「お前こそ、拘束の跡が残ってる腕がプルプル震えてるぞ。よっぽど、無理したんだな。まあ、ここはリデルの相棒の俺に任せておけ。それに、そもそもお前、敵側だろ。向こうへ行けよ」
「何、言ってるんですか。物語の最後でヒロインとの愛に目覚めて寝返るなんて、定番中の定番じゃないですか」
「これは現実の話で物語じゃないんでね。大体俺はな、リデルの親父さんから『よろしく頼む』と言われてるんだぞ。言わば親公認の仲だ。お前の入り込む余地なんて全く無いからな」
「親は関係ないでしょ。あくまで本人同士の意思が大切で……」
「だあああああっ! 二人とも、いい加減にしろ。敵の親玉の前で何やってんだ。それに、こうしてる間にも何人もの人の命が失われてるかもしれないんだぞ!」
「すまん……」「ごめんなさい……」
オレが声を荒げて怒鳴りつけると二人ともシュンとする。
もうっ……せっかく見直したのに、最悪だよ。オレの感動を返して欲しい。
「…………でも、力を貸してくれる気持ちは嬉しかった……ありがとう」
「リデル」「愛しい君」
オレがぼそりと呟くと、二人とも喜色満面になる。
ホント、単純なんだから。
「おや、修羅場は終わったのかね」
「断じて修羅場では無い!」
アイル皇子の揶揄にオレは断固として抗議した。
今回は短めで申し訳ありません。
月末、月初めはリアルが忙しいので……(>_<)
それにしても、もう10月ですねぇ。
早くないですか?
きっと、あっという間に今年も終わっちゃうんでしょうねw
あと、新作候補の一つを断念しました。
検索したら、似た内容の作品(それも書籍化済み)があったためです。
後は①SF(宇宙もの)②ファンタジー(ロボットもの)③ラブコメ(現代学園もの)
に絞られてきました。
どれ、書こうかなぁ(-_-;)