黒鎧の騎士……②
誤字報告ありがとうございます。
とても助かっています。
これからも、よろしくお願いします。
それと、現在第一話から読み直しておりまして、訂正箇所を直す可能性があります。
更新報告が頻発したら、ごめんなさいです。
「何をしておる、ヴァンダイン。よもや、手を抜いてはおらぬだろうな」
オレが謎の既視感に悩まされていると、真剣に戦っているヴァンダインに対しアイル皇子は侮蔑の言葉を浴びせかけた。
真面目が鎧を着ているようなヴァンダインに何てことを……。
オレがカチンと来ていると、返答する代わりにヴァンダインの剣の鋭さが増した。少し驚いたがオレは冷静に対応し、ヴァンダインの猛攻撃を悉くいなす。気迫は伝わるが対処できない攻撃では無かった。
実際の話、ヴァンダインに見せていない手の内でも無ければ、オレに勝つのは難しいように思えた。ヒューの弁にもあったように、確かにヴァンダインは強い。だが、それは人間の戦士としての強さだ。武闘大会や実戦においても、ここまでの手練れはそうはいないので、オレ以外の相手だったら勝ちは揺るぎなかったに違いない。
けど、オレはあの武闘王でさえ倒す人外の化け物なのだ。いくら、彼が強いと言ってもそれは人間相手のもので人外が相手では、さすがの彼にも分が悪い戦いと言えた。なので、ヴァンダインが勝ちを拾うにはオレの意表を突くような策が必要だろう。
一方でオレの方には、この手詰まりの状態を打開する一手があった。
それは『不殺の剣』のダメージを受ける覚悟で接近戦を挑むという案だ。一撃離脱ではなく腰を据えた打撃を至近距離で放てば、いかにヴァンダインの黒鎧が強固でも無傷では済まないだろう。ましてや防具の中身の被害は甚大なものとなるに違いない。
まさしく勝利への一手だが、問題はオレがどのくらい『不殺の剣』を食らっても立っていられるかが鍵になる。
ホーンベアが三撃で沈むのなら、何撃耐えられるか? そこは賭けと言っていい。
それに……。
戦いの最中、視線をちらりと布を被った男に向ける。
仮にヴァンダインを倒したとしても、不利な現状は変わらないのだ。今回の武闘大会もどきはエクシィが言い出しアイル皇子が許した座興に過ぎず、オレが勝ったからと言ってもアイル皇子が負けを認めることはない。
クレイという人質がいる限り、逆転を望める状況では無いのだ。
頼みの綱だったトルペンも万全と言えず、空間転移しクレイを解放できるような状態では無いし、ヒューも満身創痍だ。とても彼らの助力は期待できない。
かと言って、イーディスに協力を願ったとしても自分の命が握られているので、やはり協力は期待できない。そもそも、エクシィもハーマリーナも戦闘不能の状態だ。
この状況を何とか出来るのはオレしかいない。
目の前のヴァンダインとの戦闘に集中しながら、オレはこの状況を打開する手立てを必死に考えていた。
「小さき武神よ、何を考えておる?」
「え?」
つばぜり合いの後、互いに間合いを取ったところで、ヴァンダインが唐突に尋ねてくる。
「我の至らぬ故とはわかっているが、戦いの最中に考え事とは些か口惜しいの」
「あ、ごめん。でも、ちゃんと集中してるから」
心の内を見透かされ、慌てて言い逃れをする。
「それはそうであろう。でなければ、我の立つ瀬が無いというもの……ふむ、布袋を被った御仁が気になると見えるが、相違ないか」
「うん、そうだよ。クレイのためにここまで来たんだ」
隠すこともなくオレは正直に答えた。
もちろん、帝国のために邪神を倒したいという気持ちもあるけど、優先するのはクレイだ。
「考え込むほど気になるのなら……我も力を貸さぬでもないぞ」
「え?」
ヴァンダインの突然の申し出にオレは一瞬、呆気に取られる。
無防備な姿を晒すことになったが、ヴァンダインは追撃してこなかった。
「どういうこと?」
「戦いながら話そう」
アイル皇子に気取られぬようにするためか、戦闘再開をヴァンダインが促した。
◇
「つまり、あんたの攻撃をまともに食らったように見せて、クレイのところまで吹っ飛ばされようっていう魂胆なんだな」
剣戟を何度か繰り返し、言葉を交わしたところ、ヴァンダインの提案はそのようなものだった。
オレが攻撃をわざと受けて、クレイのところまで飛ばされ、周りの侍女達を倒してクレイを解放する。この上もなく良い案だけれど、そんなにも上手くいくものだろうか。
ヴァンダインの膂力ならオレを吹き飛ばすなんて朝飯前だろうか、当然リスクもあるし懸念点もある。
ひとつは『不殺の剣』の麻痺ダメージを一回は食らうということだ。まさか、一撃で動けなくなること無いと思うけど、全く可能性が無い訳でもない。そんな羽目になったら目も当てられないが、こればかりは仕方がない。オレの身体の頑丈さに賭けるしかないところだ。
もう一つの懸念点は、あそこに囚われているのが本当にクレイなのかということに尽きる。
顔がわからないのだから、偽物の可能性は捨てきれない。ただ、もし万が一偽物なら逆に人質がこの場にいなくなるので、オレとしては弱点が無くなることになる。つまり、思う存分アイル皇子と戦えることになるわけだ。
うん、不安材料はあるけど、今の状況を打開するにはこれ以上の案はないだろう。
「ヴァンダイン、あんたの力を借りたい」
オレは決意を込めてヴァンダインに申し出る。
「心得た。助力しよう。まずは戦いながら、今少しあの者の近くに移動した方がよかろう」
「わかった」
「そして、近づいたところで、我が頃合いを見計らって剣の平で攻撃しよう。君は剣で受けて、かの者のところへ跳べばよい」
「そうか、剣で受ければ『不殺の剣』の効果は及ばないもんね」
密かに打合せすると、戦いながら布を被った男のいる場所にゆっくりと近づいた。
ただし、あまり近づくとアイル皇子に勘づかれる恐れがあったので、ほどほどの位置となるように調整する。
そして、その瞬間が来る。
ヴァンダインが軽く頷いたので、オレは不用意に彼の剣の間合いに入ってみせた。
今年の夏はホントに暑くて死にそうですね(>_<)
私の部屋だけにクーラーが無いので、寝苦しくて夜寝られない日が続いてます。
今は少し楽になりましたが、お盆休みは実家に避難してましたw
まだまだ暑さは続くんだろうなぁ。
黒鎧の騎士の章、早く終わりそうな気がしてきましたw