謁見の間にて……⑨
「いやあ、嬉しいね。クソ兄貴から聞いた時から、ずっと戦ってみたかったんだ」
口にした台詞は穏やかではなかったが、エクシィは好物を目の前にした女の子のような満面の笑みを浮かべていた。
改めて見直すと彼女はとても魅力的だ。
元々、女の子顔だったイクスにそっくりな顔は、より女性らしい可愛らしさを強調していた。小顔のせいで円らな瞳は大きく可愛らしく見え、ツンと済ました鼻梁と常に毒舌と粗野な言葉を吐き散らすと思えない桃色の小ぶりな唇がエクシィの魅力を引き立てている。
身長はオレより少し高いくらいで、体型はイクス同様ほっそりしていた。違っているのは、そのシルエットだ。
その……出るとこが出ていて、いわゆるボンキュッボンというヤツだ、もげればいのに。
つまり、エクシィは誰もが認める正統派美少女剣士だったりするのである。知らずに見れば、いいとこのお嬢様にも見え、とても戦闘狂とは信じられないだろう。
その彼女が鎧も付けず平服のまま、手に短めのロングソードを握ってオレに向き合っていた。
「エクシィ、本当にその恰好でいいのか? 防具も付けてないようだし……準備するなら少し待ってもいいぞ」
そう言うオレも傭兵時代と同じ皮鎧のみの軽装備だったりするのだけど……まあ、違うのは手にしている剣が、名剣として名高いテリオネシスであることぐらいか。
「構わないさ。身軽に動ける方が、あたしの性に合ってるからね。それに防具なんて当たらなければ、どうってことない」
攻撃が当たらなければ防具の意味は無い。
凄いこと言ってる風だけど、それって逆に当たったら、大ダメージを受けることと同義だから。
いかにも脳筋らしいエクシィ(見た目はそう見えないが)の発言だとは思うけど、オレも同じコンセプトで防具を選んでいるから他人のことは、とやかく言えない。
「なら良いけど……じゃ、ぼちぼち始めるか」
オレもテリオネシスの剣を両手で構えるとエクシィに視線を定めた。
エクシィも同様に視線をオレに向ける。
と、同時に二人とも弧を描くように一斉に動き出した。
足元が悪いので、躓かないように気を配りながらも相手に視線を向けたまま、足を早める。
果たして、エクシィの技量はどの程度だろう?
彼女の動きに注目しながら、イクスのことを思い返す。
ルマで戦った時、認めたくないが間違いなくイクスの方がオレより上だった。あの頃のオレは突然手に入れた身体能力のおかげで実力以上の強さを見せているに過ぎず、技量自体は聖石を使う前と、さほど変わっていなかったと言っていい。
かろうじて、ラドベルクには勝てたけど、それだってこの身体の圧倒的なアドバンテージと運以外の何ものでもなかったように思う。
けど、今現在のオレはユーリス師匠の猛特訓で鍛えられ、あの頃に比べて格段の進歩していた。今のオレなら、あの頃のイクスにだって勝てるぐらいの力量を持ったと自負している。
もっとも、オレが成長したのと同様、イクスの奴も成長している可能性があるから、今イクスと戦っても勝てるとは限らなかったが……。
それと比較して、エクシィの戦闘力はどれぐらいか?
以前、エクシィが口を滑らした『あたしは兄貴みたいな化け物と違う』との発言。もし、それが本当ならイクスより強いということは、さすがに無いだろう。
なので、その理屈が正しいのならエクシィに勝てる公算は高いように思える。まあ、こればっかりは実際に戦ってみないとわからないけど……。
「それじゃ、お手並み拝見……」
オレは、エクシィへの観察を止めると、一気に肉薄した。
オレが矢継ぎ早にテリオネシスの剣で連続攻撃を加えると、エクシィはその全てを難なく受け流した。様子見の攻撃とはいえ、並みの戦士では防げないレベルの斬撃を、いとも簡単にしのいだところを見ると、やはり技量は相当あるらしい。
特に膂力は、ファニラ神殿でもゾルダート教導師の頭を引きちぎるという荒業を見せたことからも、十分注意する必要があるだろう。ひょっとしたら、力だけならイクスよりもあるようにさえ感じた。けど、その反面、瓦礫が転がり足場が悪いせいもあるが、敏捷性はイクスの方が勝っているように思える。ただ、バランス感覚はやはり流石としか言いようがなく、不安定な足場を全く感じさせない足運びを見せていた。
互いに剣の攻防を繰り返し一進一退を続けると、オレはようやくエクシィの戦力分析を終えた。
エクシィは素晴らしい剣士だ。それは間違いない。剣の技量も高く、身体も柔軟だし、動きも軽やかだ。特筆すべきはやはり膂力で、人外のオレにも引けを取らないぐらいだ……けど、そこまでだった。どう見積もって、ルマで対戦したイクスを超えることは無いように感じられた。
手加減無しで、思う存分に戦えるのは久しぶりのことで、とても楽しいものだったが、だらだらと続けるのは『そうじゃない』ように思えた。
なので、剣速や身体の動きを一段上げると戦いを決めるべく突進する。
「っ……」
連続攻撃の最後の一撃をぎりぎりで躱すと、エクシィは大きく後退した。
そして、驚嘆した表情で声を上げる。
「リデル、あんたすげえよ! 最高だな」
「ありがと、エクシィ。けど、そろそろ終わりにしないか? オレ、君を怪我させたくないんだ」
オレが暗に降参を促すと、エクシィはニヤリと笑った。
「何、言ってんだ。これからが本番じゃないか。やっと、あんたの剣の癖がわかってきたんだ。もう、当たらせないぜ」
「負け惜しみなら止めてくれ。どう考えても勝ち目が無いように思うよ」
無駄に勝負を長引かせたくなくて、オレは説得を試みる。
「くっ……はははは――!」
するとエクシィは、たまらず笑い出した。
「エクシィ?」
オレが怪訝な表情で見つめると、ようやくエクシィは笑いを収めた。
「いや、ごめん。リデルもさっきの攻撃以外、本気じゃ無かったみたいだけど、あたしも同じだったのさ」
「……エクシィも本気じゃなかった?」
「ああ、そうとも。せっかくのあんたとの戦いなんだ。存分に戦いたいじゃないか。それに……」
エクシィは片目を瞑って口角を上げた。
「もう二度と戦うことは無いだろうしね」
肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべるエクシィから、さきほどの可愛らしさは消えていた。
「……エクシィ、君が本気じゃ無かったとオレも信じたい……けど、無茶は良くないと思う」
エクシィの身体能力の限界は見切った。あれが偽りの姿にはとうてい思えなかったし、実力を隠しているとも思えない。
どうにか、エクシィの戦闘続行を翻意させようとするが、エクシィは身体をコキコキとほぐしながら愚痴を漏らす。
「剣ってのは、どうも苦手でいけないよ。さて、あたしの本来の戦い方に戻るとしようか」
そう言うとエクシィはロングソードを床に投げ捨てると、両拳を構えた。
「え?」
オレは素手で構えるエクシィを見て固まった。
謁見の間さんの受難は続きます……けど、耐久力は減らなさそうw
今日、午前中には草取りしてたら、熱中症気味になってしまいました(>_<)
身体を冷やしてベッドで横になっていたら、左手だけがブルブル震えてびっくりしました。
今は全然、平気です。皆様も気を付けましょう。(残りは除草剤君に任せました)
もう7月なんですね(;一_一)
確か3月に終わるとかGWに終わるとか、誰かがほざいていたような……。
ご、ごめんなさいm(__)m