謁見の間にて……⑥
誤字報告ありがとうございます。
とても助かってますm(__)m
6月18日、後半部分修正(イーディスの状況を追加しました)
「次は我輩の番ですネ」
トルペンはヒューの命に別状が無いことを確認すると、オレに一礼してから謁見の間の中央に向かう。
「トルペン、無理するなよ」
「もちろんデス。けれど、我輩もやられっぱなしは性に合いまセン。必ず、リベンジさせてもらいますカラ」
ハーマリーナに顔を向けたまま、トルペンは背中で答える。
オレの母親に一騎打ちで敗れて従属を要望した逸話からも、トルペンって意外と勝ち負けに拘る性格のようだ。
オレのことを主と決めたのだって、母との約束を守るという理由だけでなく最終試練の戦いでオレに負けそうになったことが大きいと思う。
まあ、オレもそういうの嫌いじゃないけどね。
トルペンとハーマリーナは謁見の間の中央に十分な間合いを取って向き合った。
魔法使いの戦いに間合いも何も無いような気もするけど、あくまで武闘大会の形式に則って始めるらしい。
「リデル、お手数ですが開始の合図をいただけますカ?」
「開始の合図? ああ、わかった」
オレは大きく息を吸い込むと大声で叫んだ。
「トルペン対ハーマリーナ戦、ただ今より……始め!」
オレの武闘大会風の掛け声と同時に両者は瞬時に動いた。
トルペンは人間離れした跳躍力で後退しハーマリーナは短距離転移で、互いに遠くへ離れる。
魔法を打ち合う距離を稼ぐための準備だろう。剣の間合いならぬ魔法の射程限界と言ったところか。
「せいッ!」
いきなりトルペンは無詠唱で極大の火球を頭上に生み出すと、ハーマリーナに向けて投げ放った。
「なっ……!」
ト、トルペンの馬鹿野郎。室内で火球なんて使う奴があるか。
放たれた火球はハーマリーナのいる場所に直撃し大爆発が起きる。
次の瞬間、熱気と爆風がオレと抱きかえているヒューに襲いかかった。
とっさにヒューの頭を抱え込んで守るのが精一杯だった。
「あち、あちち……」
一応、それでもトルペンの奴も手加減したらしく焼け死ぬほどの威力ではなかったけれど、髪の先がちりちり燃えたような感じがする。
文句を言ってやろうと身構えて爆炎が治まるのを待つと、見えてきたのは謁見の間の惨状だった。
ハーマリーナのいた場所を中心に大きく円を描くように床石が破壊され、床下の下地が剥き出しになっていた。さらに爆風で飛散した床石の破片は、周辺の壁や天井の装飾品をことごとく粉砕していて、荘厳華麗だった謁見の間は見るも無残な有様だ。
だが、中心にいるハーマリーナとその周辺の床石は全く無傷の状態を保っていた。おそらくファニラ神殿で皇帝陣営を守り切った例の防御結界を展開したのだろう。
「ふむ、威力を落とした魔法では、やはり効果が望めないようですネ」
得心したように考え込むトルペンに対し、ハーマリーナが反撃する。
こちらも無詠唱で雷撃系の魔法を放ってきた。
どう見ても、自然界の雷を凌駕する大きさで、街に落ちれば被害甚大が決定的なレベルの雷だ。しかし、トルペンは先ほどの魔法の検証に夢中なのか、うわの空で六角形の防御障壁を無造作にいくつも展開する。けれど、それだけでハーマリーナの天災級の雷を難なく防ぎ切って見せた。
相変わらず、すごい防御障壁だ。
オレ自身も、あの障壁には最終試練でトルペンと戦った際に手こずった覚えがあるのでわかるが、相当に厄介な代物と言えるだろう。
アレを何とかしないとトルペンに勝利するのは難しいとオレは思っている。
「それでは、これならどうデス」
トルペンは、またも見覚えのある光の矢を十数本、頭上に展開させた。
最終試練の時にトルペンが使った魔法の矢で、通常の矢より何倍も威力があり命中精度も高いと聞いている。
あの時のオレはかろうじて何とかなったけど、本気のトルペンが展開している矢の数は、その時よりもずっと多い。
以前のオレなら確実に串刺しだが、ユーリス師匠との特訓で腕を上げたオレなら何とかなるかもしれない。
果たして、ハーマリーナはどうだろう。ハーマリーナの魔法結界もトルペンの防御障壁に負けず劣らない強度があるように思えるけど。
「行ケ!」
トルペンの号令と同時に頭上にあった全ての光の矢が放たれる。
一瞬の間も置かず、それはハーマリーナ目がけて殺到するが、彼女の張った魔法結界に阻止され消滅し、ハーマリーナ本体には一本たりとも届かなかった。
やはり、ハーマリーナの防御力も一筋縄ではいかないようだ。
トルペンだから戦えているが、接近戦しか無いオレやヒューが戦ったら相当、分が悪い戦いになったかもしれない。
「なかなか、やりますネ。今度はどうデス」
トルペンが頭上に手をかざすと、再び十数本の光の矢が現れる。
何故、同じ攻撃を? オレが疑問に感じていると、トルペンが先ほど同様に矢を放った。
けれど、今度は一斉ではなく、ほんの少し時差を付けて順繰りにハーマリーナへと向かう。そして、その目標は結界の一点のみを狙ったもので、どうやら全ての矢を一点に集中して貫通力を高めるつもりのようだ。
立て続けに着弾した光の矢はトルペンの思惑通りハーマリーナの結界を突き破る。
「っ……」
が、ハーマリーナは結界が消し飛んだと同時に、瞬時に転移して攻撃を回避する。残りの光の矢は素通りしてハーマリーナのいた場所の背後の壁に突き刺さって爆散した。
「逃がしませんヨ」
転移したハーマリーナを追って、トルペンが三度光の矢を放とうとすると、転移した先で彼女は両腕をトルペンに向ける。すると、ハーマリーナの手の甲から眩いほどの赤い光線が射出された。
トルペンはとっさに光の矢を消し去ると間一髪、防御障壁を展開し赤い光線を遮る。障壁に軌道を変えられた光線は壁や天井に当たり、その軌跡を焼き払った。
「ふ、二人ともいい加減にしろ! このままじゃ謁見の間が壊れちまうぞ」
ヒューを必死に護りながらトルペン達に叫ぶと、エクシィに無理やりお姫様だっこされ二人の攻撃を回避したらしいイーディスも憮然とした顔で同意する。
「不本意だが、アリシアの意見に同意だ。もう少し周りのことも考えろ、ハーマリーナ」
同様にアイル皇子を護るように立ちはだかっていたヴァンダインも苦言を呈した。
「飛び道具では決着が着かぬように思われるな。ハーマリーナ殿は接近戦も得意と聞いた。それで勝負してはどうか?」
ヴァンダインの提案にハーマリーナが頷くのを見てトルペンも了承する。
「我輩も近接戦闘は嫌いではありまセン。望むところデス」
そう言うと仮面を外しローブを脱ぎ捨てると、いつぞや見た腰巻姿の竜男のスタイルになった。
「これで思う存分戦えマス。掛かってきなサイ」
本気なのはわかった、トルペン。
だが、何で半裸になる必要がある? 一歩間違うと全裸だぞ。
トルペンVSハーマリーナ戦……続くとは思わなかったw
意外と良い勝負です(>_<)
どちらが勝つのか……その前に謁見の間が持つのか?
そろそろ本気で新作書かなきゃいけない時期なのに、短編のアイデアばかり思い浮かびますw
気分転換に何本か書くかも、です。