ゾルダートの闇……②
「いったい中の様子は、どうなっているのですか?」
部屋から漏れる臭気に鼻を押さえながらヒューが警戒心を露わにする。
「ん……ちょっと待ってくれ。中に誰かが……」
常人離れしたオレの視力は暗闇に慣れてくるとぼんやりと中の様子が見えてくる。
最初、祭壇の前に立っているのは凄く長身な人物かと思ったけど、どうやら先の尖がった長い帽子を付けて立っているらしい。
白っぽい服装は神官用のローブか何かだろうか。
さらに目を凝らすと、その人物の左右には何かよくわからない塊が堆く積まれているように見えた。
「尖がり帽子……いや頭巾みたなものを頭からずっぽり被った人がいて……左右にあるのは何だろう? 色とりどりのものが歪に積み上げられていて…………ソフィア、シンシアに中を見せるな!」
オレの後ろから部屋の中を覗き込もうとしている仲間に警告する。
折り重なって積まれているのは人間だった。おそらく行方のわからなくなっていた信者や皇宮使用人の人々に間違いない。
オレの警告の声に反応したのか、不意に部屋の中に薄明りが灯った。
「お待ちしておりました、アリシア殿下」
「貴様、バルニグだな」
オレに並ぶように部屋の入口に立ったイーディスが吐き捨てるように放った言葉から、目の部分だけ開いた白い円錐形の頭巾にローブを纏っているのがバルニグ導師だとわかった。
「いったい、何の真似だ、これは?」
部屋の外から左右の骸の山に目を向け、イーディスは嫌悪感を露わにバルニグ導師に詰問する。
「何の真似ですと?」
「そうだ、このような非道な行いをお父様が許す筈もない……お父様はどこだ?」
イーディスはバルニグを睨んでから奥の祭壇を見つめた。
確かに、バルニグ以外の気配は感じられない。
まあ、意識体とやらに存在感があるのかは不明だけど。
「はて? 非道な行いと糾弾されるのは、いささか心外ですね。彼らは崇高な儀式に参加することができた名誉ある信徒です。喜んでその身を捧げたのは言うまでもありません。したがって、称えられることはあっても憐れむ対象ではありませんよ」
バルニグは本当に残念そうな調子でイーディスに答える。
嘘つけ、信者以外の人たちが望んで邪神に命を捧げるなんてあり得ない。
信者だって、喜んで身を捧げたかどうかわからないから。
「それに、これは『我が主』のご意志に沿った儀式なのです。それを非道と貶めるのは『我が主』すなわち貴女の言うところの『お父様』への非難に他ならないと理解するべきでしょう」
「お、お父様がこんなことを命ずる訳がない。世迷言を申すな」
「どうにも不良品は理解力が足りぬようですな。まあ、仕方がないことでしょう。ところで、そんな所で話すも何ですので、中へ入ったら如何ですか、アリシア殿下。ついでに陛下も」
「き、貴様…………お前はどうする?」
「オレは構わないよ」
イーディスがオレをちらりと見たので、頷いて同意を示した。
「わかった。では、行こう……」
「おっと、先走ったらいけないよ、イーディス」
イーディスがオレと一緒に部屋へ入ろうとすると、後ろにいたエクシィが彼女を護るようにするりと前へ出る。
「エクシィ……」
「ここはあたしに任せなよ。あの減らず口を黙らせて来るからさ」
ウィンクして見せるエクシィにイーディスが何を言っても無駄だと悟り嘆息する。
「間違いを正してやってくれ」
「了解。じゃあリデル、お供するよ」
「うん、いいけど」
それにしてもエクシィ、男前過ぎないか? ちょっとかっこいいぞ。
「私も参ります」
エクシィがオレに並ぶのを見て、オレのすぐ後ろにいたヒューも強い調子で同行を主張する。
「わかった、ヒュー。じゃあトルペン、ソフィア達を頼む」
何があるか、わからないからヒューの助力は正直、有難い。
オレは後方に待機するようにトルペン達に指示すると、エクシィやヒュー達と共に隠し部屋へと慎重に入った。
足を踏み入れた部屋は隠し部屋とは思えない広さだった。まさしく小ホールに相応しい。
「何だ、この蒸し暑さは?」
入った瞬間にわかる暑さにオレは鼻白んだ。
「前に来たときは寒いくらいだったんだけどなぁ……空調、止まってるのかな?」
意味不明なことを口走る隣のエクシィもげんなりした様子だ。
3の月(太陽暦でいう7~9月)でも無いのに、この部屋の室温は洒落にならない。
考えてみれば、一昨日ぐらいから行方知れずだった亡骸のこの腐敗の進み具合は尋常ではなかった。この高温多湿と何らかの魔法的要因が絡んでいるのは間違いないだろう。
加えて、この腐敗臭だ。傭兵として戦場を経験しているオレでも心が折れそうになる環境と言えた。
「ようこそ、ゾルダート教総本山へ。もっとも『我が主』はもうここにはいらっしゃいませんが……それに我が教団が歓迎いたしますのはアリシア殿下のみで、その他は不要でございますがね」
この環境でも汗一つかかず平然としているゾルダート教導師は、やはり人間としてどこか壊れているように思えた。
「『邪神様』が、もうここにはいないってどういうことさ?」
エクシィが汗を拭いながら尋ねるとバルニグは汚らわしいを見るような目付きで彼女を睨んだ。
「お前に発言する権利などありません、慮外者め! 元からお前達兄弟は目障りだったのです。この場で始末できると思うと小躍りしたくなります」
「へえ、あんたがあたしを始末できるなんて笑わせる話だね」
「せいぜい大口を叩くがいいでしょう。後で吠え面をかくことになるに決まっています」
「オレも質問していい、バルニグさん」
「何なりとお尋ねください、アリシア殿下」
う~ん、何だろう、この待遇の差は?
「さっきのエクシィの質問と同じだけど、アイル皇子はどこに行ったんだ?」
「『我が主』は内戦で流された膨大な血と怨嗟の想いと、ここにいる者達を贄にして一時的に復活なされました。真の復活は貴女様がおいでになって初めて成就すると仰っておられましたが……」
「えっ、彼は復活したの?」
「はい、仮にでございますが……ですので、『我が主』は謁見の間で貴女様をお待ちになっておられます。どうか、速やかに足をお運びなられますように……」
バルニグは恭しくオレに頭を下げた。
いよいよ三月も終わりですね(白目)
おかしいなぁ。
どうして、こんなに予定通りいかないのだろう……。
そ、そういう訳で今年中に完結します(←完全に開き直ってるw)
頑張ります(>_<)
あと、次回作の候補が固まってきました。
初めて異世界転生物を書こうかなと思っています(←今さら?)
候補① 異世界転生ファンタジーロボットもの(え?)
候補② SF軍隊アイドルものw(何これ?)
候補③ 学園ラブコメ(王道過ぎ)
どれが読みたいですかw