ゾルダートの闇……①
3月26日訂正。階段を降りる順番にシンシアを加えました。申し訳ありません
下へと向かう階段は二人並ぶのがやっとの幅な上、かなりの急こう配だった。オレは先に降りるイーディスに追いつくように足を早める。
左右の壁には先ほどの宝物庫のような謎の光が、うっすらと灯り足元を照らしていた。
イーディスに並ぶと彼女は立ち止まってオレをちらりと見たが、何も言わずに一歩一歩慎重に階段を降り始める。オレもイーディスに歩調を合わせながら、ふと後ろ振り返って見ると、エクシィとヒュー、ハーマリーナとトルペン、ソフィアとシンシアの順でペアになり、最後尾にネフィリカがオレ達に続いて降りてくるのが見えた。ちょっと面白い組み合わせだが、オレとイーディス陣営の組み合わせを考えたら、順当かもしれない。
「それにしても、イーディス皇帝陛下。皇宮にこんな場所があるとは知らなかったよ」
「あって当然であろう。権力者というのは常に叛乱や暗殺に備えるものだ。クーデターも初動を凌げれば何とかなることも多い。代々の皇帝はそのような事態に備えて、様々な手段を講じている。ここもそうした備えの一つだ」
珍しいことにイーディスが会話してくれる気になっているようで、びっくりした。
まあ、長い階段を黙って降りるのもつまらないからね。
「初めから知ってたの?」
「お父様がご存じだったのだ。お祖父様から直接教えていただいたとの話だ。帝位継承一位で皇太子でもあったから当然だな。逆に言えば、お前の父親を後継者と認めていなかった証拠でもある」
デュラント神帝はオレの親父が本当の息子とは知らなかったのだから、それも当然だろう。実際は双子の兄弟だったのだけど。
「その……アイル皇子って、どんな感じなの?」
ちょっと気になって聞いてみる。
本当ならオレの親父の真の姿にそっくりな人物の筈だ。
まあ、子供としては興味がないってのは嘘になる。
「……印象はともかく、お姿はよくわからぬ」
「え?」
驚きのあまり、隣を歩くイーディスの顔を窺ってしまうが、彼女は視線を落として暗い表情をしていた。
「お声をかけて下さるだけで、姿は見せてくれぬのだ」
「うん、あたしも見たことないよ」
すぐ後ろにいるエクシィもイーディスに同調する。
「確か、祭壇の後ろにある棺で眠っていて復活の時を待ってるってフェルナトウが言ってたよ。意識体だけで活動は出来るみたいだけど」
そういや、一度殺されそうになったけど、なんとか生き延びて復活の機会を狙ってるって聞いたっけ。そのために、オレの身体が必要だとフェルナトウがファニラ神殿で言っていたような気もする。
「ごめん、変なこと聞いて。気を悪くしたら謝るよ」
「埒もない。お前に気を遣われる方が気分が悪くなる」
「そりゃ、どうも」
なんとなく切なそうな顔をしてると思ったから、慰めようと考えたけど余計なお世話だったみたい。
それきり会話がぷつりと切れて、黙々と階段を降りることになった。
「そうそう、リデル。この下にある皇帝の隠し部屋って、けっこう広いんだよ」
無言の雰囲気が嫌だったのかエクシィが後ろからオレに話しかけてくる。
「そうなの?」
「うん、真ん中に大剣を振り回せるぐらいの広さの小ホールがあって、左右にはいくつもの部屋があるんだ。簡単な厨房や籠城に耐えられる貯蔵庫だって完備してて、何か月も快適に潜伏出来るようになっているんだって」
「それは凄いね」
何か月も快適に籠城出来るなんて、普通じゃ考えられない。貯蔵にだって限界はあるし、閉ざされた空間に籠るのは精神的にも厳しい。きっと、何か魔法的な絡繰りがあるのだろう。
さっきの宝物庫もそうだけど、些細なところまで魔法具が使われていて、帝国最高権力者の力の凄さをを見せつけられる想いがした。
「もっとも、そのホールにはさっき話したゾルダート教の祭壇がでんと鎮座ましましていて、さすがに大立ち回りは無理そうだけどね」
エクシィって、基本が戦闘脳なんだよね。いちいち、例えが戦うこと前提だもの。
ま、オレも他人のことは言えないけどさ。
とにかく、やはりここが最終目的地なことは決定した。敵の首魁であるアイル皇子はここにいる。
きっと、クレイもここに……ん?
「ちょっと待ってくれ、イーディス!」
オレは隣を歩くイーディスを呼び止める。
不機嫌そうな表情だが、一応足を止めてくれた。
「何か変だ」
オレの人間離れした嗅覚が異変を訴えている。オレ達の向かっている階段下から、わずかではあるが不快な臭気が漂って来ていた。
「この匂い……」
戦場で嗅ぎなれた嫌な匂い。
「……血の匂いと死臭だ」
オレの言葉にイーディスは目を見開き、次に険しい表情になる。
「エクシィ、急ぐぞ」
イーディスはそう声をかけると、階段を駆け降り始める。
オレも負けじと速度を上げる。
そして身体能力の差で、オレの方が先に階段下にたどり着いた。
目の前には閉じられた頑丈な鉄の扉があり、わずかな隙間からあの不快な臭気が漏れ出している。
その匂いにオレが顔を顰めていると、後続が次々と階段下へと到着した。
「リデル、これは……」
ここまで来ると皆、事情が呑み込めたようでヒューが厳しい顔でオレを見つめた。
「イーディス、開けていい?」
ヒューに頷いて見せてからイーディスに確認を取る。
「構わぬ、開けてくれ」
「わかった」
オレは両扉の取っ手を掴むと、ゆっくりと開いた。
そのとたん、もわっとした鼻を突く臭気がオレを襲う。
「……っ」
思わず吐き気を催すが構わず開ききった。
部屋の中は薄暗く、良く見えない。
けど、人外なオレの目は大きな祭壇の前に誰か立っているのが見えた。
ごめんなさいm(__)m
やはり年度末完結は夢に終わりました(汗)
それどころかゴールデンウイーク完結も怪しくなってきました。
…………いつか必ず完結します(←開き直ったぞ、こいつ)
ちなみに章題は「仮」です。ちょっと展開が読めなくて……w