新しい出会いはいかがですか?③
とりあえず、近くの宿屋兼酒場に行って食事をとることになった。
クレイはオレの服を大事そうに抱えて、ヒューと話をしている。
オレに殴られて地面に倒れても服を決して汚さなかったのは見上げた根性だ。
「ところでヒュー、あんた、従者はいないのか?騎士には従者が付くの普通だろう」
クレイが不思議そうに尋ねた。
「いえ、気ままな一人旅です。諸処のことを自分で行うのも修行の内ですから」
「ふ~ん。あんたぐらい有名なら、お供を何人も連れていると思ってたよ」
え、そうなの?
「ヒューって、有名人なの?」
思わず聞き直した。
「リデル、知らないのか。白銀の騎士『ルーウィック』、騎士の中の騎士。都じゃ女はその美貌に、男はその技量に惚れ込むって有名だぞ」
またしても馬鹿にした顔付きでオレを見る。
「それは買い被りですよ。尾ひれのついた噂話に過ぎません」
ヒューは恐縮して言うが、噂半分にしてもクレイまで知っているのだから凄いことだ。
う~っ、さっきの闘い、やっぱり続けたかったなぁ。
ヒューが馬の仕度をするために離れた隙に、クレイが近づき耳元で囁いた。
「いいか、お前が男から女になったことは秘密だからな」
「なんで?」
別にいいじゃん、すぐばれるし。
「変異した事を説明するには、聖石の話をする必要がある。そうでなけりゃ誰も納得しない……だが、それはマズイ」
真剣な表情でクレイが言う。
「どうして?」
いつもこうだと、かっこいいのに……と思いながら、オレは理由を確認した。
「まさか聖石の願いが一度で打ち止めだなんて、誰も思わないからな。お前が願いを叶える聖石を持っていると思われて、いらぬ面倒に巻き込まれることは間違いないぞ」
むぅっ、確かにそれは面倒だ……。
「ただでさえ、今のお前は目立つんだから、少しは大人しくしてろ」
そ、そうなのか?
「ん……わかった」
クレイの言うことに疑問を感じつつも渋々頷く。
「それと、スカートをだな……」
「やだ!」
クレイは再び涙目になった。
村に一軒だけある宿屋『蒼竜亭』でオレ達は食事をとることにした。大それた名前の宿屋だが、一階は食堂兼酒場、二階は宿屋というシンプルな作りだ。
もっとも名所旧跡がないこの辺りに来る旅行者は少ないらしく、宿屋の方は開店休業中らしい。
オレ達が入ると店の主人は、驚いた顔付きで応対した。
「親父!何か適当に食べるものを頼む。それと俺にはヴォド酒を……ヒュー、あんたはどうする?」
「では私にはダラム酒をお願いします」
「お、騎士様、いける口だな」
「いえ、酒宴で見苦しいところを見せぬのも、騎士のたしなみですから」
ヴォド酒もダラム酒も強いことで有名な酒の種類だ。
「じゃ、オレもダラム酒を……」
オレが言いかけると、
「ダメだ!お前はシードル(リンゴ酒)にしとけ、弱いんだから」
クレイに駄目出しされた。
「え~っ、いいじゃん。体質、変わったかもしれないし」
「お前、酔っ払うと、どこでもすぐ寝るだろう。だから駄目」
「寝て悪いか?」
オレは開き直って反論した。
「今のお前が、無防備にその辺で寝たら危険だろ。襲われたらどうする?」
「一番、危険なのはお前じゃないか」
オレは皮肉を込めて冗談を言った。
「…………」
「ちょっ……そこで黙ると洒落にならんから」
「……お茶目な冗談なのに」
クレイは洒落のわからんヤツだという顔をしたが、そんなもんわかるかい!
有りうるって思わせたお前が悪いだろ?
オレはクレイに何も言う気をなくして、ヒューに話しかけた。
「ヒュー、外に行ってヒューの馬、見てきていい?」
どうせ酒盛りには参加できないし、食事も時間かかるみたいだし……。
「構いませんよ。馬が好きなんですか?」
「うん」
「ナヴァロンは賢い馬なので、めったなことはしないと思いますが、優しくしてあげて下さいね」
「わかった!じゃ、行くね」
「リデル、外へ行くのか?気をつけろよ」
二杯目に手を出しながらクレイが忠告してきた。
「酔っ払いといるよりは安全さ」
オレは捨て台詞を残して店を出た。




