皇の臥所にて……⑤
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「やあ、イーディス皇帝。この間振りだね。まさか、皇帝陛下さまが戻ってるとは思ってなかったよ」
皇の臥所でイーディスに会ったオレは開口一番、そう言ってのけた。
横にいたネフィリカは驚いた顔でオレを見る。
てっきり、顔を隠して皇帝義勇軍の一員の振りをするものだと思っていたらしい。それと皇帝陛下に対するぞんざいな口調にも驚いたようだ。
それに対しヒューは、やっぱりという顔をしていた。
いろいろ考えた結果、オレは正々堂々と名乗ることにしたのだ。
どちらにしろバレるのは必至だったし、あの場でジェームスさんと三人組を説得できれば良かっただけなので、その設定にこだわる必要は無いと開き直ることにした。
結果的に騙すような形になって申し訳なかったけど、二人を護るという約束は果たすつもりなので大目に見てもらおう。
「同じ言葉をそっくり返そう、アリシア皇女」
オレの顔を見て絶句していたイーディスは気を取り直すと、皮肉交じりに答えた。
「何故、お前が皇宮に、と問うまでもないか。でなければ、このタイミングで現れるはずもない……む、エクシィ少しうるさいぞ」
イーディスは眉間にしわを寄せて、横から顔を出そうとするエクシィを窘める。
エクシィはオレとイーディスの会話に混ざりたいらしくイーディスの横で大袈裟に身を乗り出して自分をアピールしていた。
見た目はイクスにそっくりだ。ほんの少し髪が長くて、出るところが出ているぐらいしか違いはない。本当に妹なんだと実感する。
「なあ、こいつがリデルだろ? 紹介してよ、イーディス」
「紹介も何もファニラ神殿で貴女も会ったでしょう?」
「あの時は戦いの最中だったし、チラ見した程度だもん。会話だってしてないし……それにあたしって、こう見えて割と人見知りなんだよ」
「は? 貴女みたいに厚かましいのが人見知りなんて笑わせてくれるわね」
「そりゃ、悪かったね。なあ、それより早く紹介してくれよ。リデルだって呆気に取られてるぞ」
エクシィ、君の言う通りです。実際、呆気に取られてます。
皇帝陛下の威厳も吹っ飛ぶ会話で、正直驚いてます。
イーディスって、いつも済まし顔で人を見下す、もっといけ好かない女だと思ってたけど、エクシィとの会話を見る限り、親しい友人とじゃれあう普通の女の子に見えた。
「その……アリシア、今さらだとは思うが紹介しよう。こちらは私の側近であり護衛役のエクシィだ」
「エクシィです、初めまして。あんたのことは兄貴から聞いてるよ、物凄く強いんだって? ねえ、後で勝負しようぜ」
何? この戦闘ジャンキー。ちょっと怖いんですけど。
え、他人のことは言えないって? 失敬な、さすがのオレも初対面の人間に勝負を挑んだりしないから。
「よ、よろしくお願いします。アリシア・プレジィス・イオ・デュラントです。けど、リデルって呼んでもらってもいいですか。その方が慣れてるんで」
「じゃ、よろしく、リデル。それと、こっちのちっこいのはハーマリーナ。一緒に仲良くしてやってくれ」
「ハーマリーナ、デス。以後オ見知リオキヲ」
小柄で華奢な体型で、見た目は小さい女の子のように見える。
ローブを目深に被って表情は見えないが、口元をきゅっと結び緊張してるようだ。
彼女の方こそ、人見知りのように感じた。
ちょっとノルティを思い出して優しい気持ちになる。
けど、ハーマリーナはトルペン以上の空間魔法の遣い手なのだ。油断してはいけない。
「紹介がすんだなら、話を進めてよいか、アリシア」
「ええ、オレの方は構いませんけど」
オレの返答に頷くとイーディスはアレイラ達に視線を向けた。
「アレイラ補佐官、急な用向きご苦労であった……が、呼びに行った皇帝義勇軍の人数が少しばかり少ないのではないかね。戦闘の可能性も示唆した筈だが」
「申し訳ございません。それは……」
「そのことについては私から説明いたします」
口ごもるアレイラを遮り、ネフィリカが口を挟む。
「ネフィリカ団長、旗下の義勇軍はどうした? 皇帝の命令を無視するのか」
「いえ、そのようなつもりは毛頭ございません。ですが、今まで奥回りは別の者達が陛下をお守りしていたと記憶しています。急な思し召し故、我が義勇軍もすぐに対応出来ず、取り急ぎ責任者である私とジェームスが参った次第でございます」
あらかじめジェームスと打合せしていた言い訳をネフィリカが答えるとイーディスは考え込む素振りを見せる。
皇の臥所をゾルダート教信者に任せていたイーディスは、おそらく皇帝義勇軍の体制を知らなかったのだろう。準備が整わないという理由に納得したのかしれない。
「そうか……確かに急な話ではあったな」
「はい、今しばらくお待ちいただければ、全皇帝義勇軍が参集できると思いますが」
「まあよい。事は急を要する。お前たちだけでも我に従ってくれればよい」
「畏まりました」
ネフィリカとジェームスが同時に頭を下げる。
「急を要するって、皇帝陛下様はいったい何をするつもりなんだ?」
言葉尻を捉えてオレはイーディスに問いかけてみる。
「お前には関係のない話だ」
オレに目もくれずイーディスは答える。
「そんなことないさ。オレだって、曲がりなりにも帝室の一員だし、皇宮内に巣食うゾルダート教の連中と一戦交えるって話なら他人事じゃないと思うけど」
「戦いを仕掛ける訳ではない。戦闘も辞さない覚悟があるというだけだ。私はあくまで話し合いに赴くつもりなのだ」
「話し合いねぇ……」
「そうだ、フェルナトウがファニラ神殿で話したことが真実なのか、確認せねばなるまい」
「もし、フェルナトウの言ったことが真実なら……あんたが騙されていたとしたら、どうするつもりなんだ?」
オレはイーディスがアイル皇子に騙されていると十中八九見ている。
彼女だって、薄々感づいているけど信じたくないのだと思う。
「…………どうするつもりもない。フェルナトウが嘘を吐いているだけだ」
イーディスは表情消して断言した。
「わかった……あんたのやることに文句はつけない。けど、一つだけ教えてほしいことがある」
「何だ?」
「クレイはどこにいる? オレは、あいつを助け出したいだけなんだ」
「クレイ?」
イーディスは不意打ちを食らったように、きょとんとする。
「そうだ、そこにいるハーマリーナが拉致して皇宮に監禁している筈だろう」
イーディスの反応に不安になったオレは重ねて問いかける。
「それは確かに間違いないが……ハーマリーナ、彼は今どうしている?」
「世話ハ、彼女ニ任セテイル。後ハ知ラナイ」
「彼女って……?」
オレがハーマリーナを問い詰めようとした時、部屋をノックする音が聞こえた。
「丁度イイ。タブン、彼女ダ。彼女ニ聞クノガ一番合理的ダ」
イーディスが許可するとハーマリーナが言う彼女が入って来た。
もう2月ですね。
時間が経つのが早いこと早いこと。
ちょっと怖くなります(>_<)
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どうなんでしょう?
短編なら良いけど長編だと意味があるのでしょうか。
疑問です。
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