皇の臥所にて……④
「揉めてるとこ悪いけど、オレから提案があるんだ。聞いてくれるかな?」
「時間もありませんし、手短にお願いできますか」
不意に会話へ割り込んできたオレをアレイラは不審げな目で見ながら発言を促す。
「まず確認したいんだけど、ジェームスさんとしては、皇帝義勇軍の立場上イーディス皇帝の命に背くことは出来ない、さりとて他の義勇軍の面々に危険が及ぶのは避けたい……だから、自分一人が義勇軍として参集すれば面子は保つことができる。その考えで合ってる?」
「概ね間違いではございません。けれど、決して義勇軍の面子や保身だけを考えたわけではありません。私なりのけじめのつけ方という意味もあるのです。なぜなら、ネフィリカ団長に皇帝義勇軍徴募を受けるよう勧めたのは、この私なのですから」
ジェームスの言葉を聞き、ネフィリカに視線を向けると彼女は困惑した表情で答える。
「確かにジェームス相談役には、今後の傭兵団の行く末を考えると申し出を受け入れた方が良いと勧められました……ですが決断したのは私です。それに……」
ネフィリカは断固とした口調で言った。
「皇帝義勇軍の指揮官は私です。命令を下すのも責任を負うのも私の務めです。相談役の進言は聞き入れますが、指図されることはありえません。ましてや、部下の我が儘など聞く耳持ちません」
「だってさ、みんな。指揮官の命令を蔑ろにするのは組織としてどうかと思うよ。それぞれが勝手な行動を取るとみんなが迷惑することになるしね」
あれ? 心なしかヒューとソフィアがオレをジト目で見てる気が……気のせいだな、きっと。
「ネフィリカ団長や皇女殿下の仰ることはもっともだと存じます。ですが、それでは団長の身の安全が……」
「そうですよ、殿下。団長と相談役だけじゃ戦力的にどうかと思うっす」
ジェームスも三人組も、未だ納得していなさそうだったので、オレは自身の提案を口にする。
「だから提案なんだけど、オレが二人を護るってのは、どうかな」
その場にいるオレ以外の全員が「は?」って顔になる。
「いや、確かオレの記憶だとカンディア城塞都市から出る時にアルサノーク傭兵団から除籍した覚えが無いんだよね。だから、書類上は今もオレはアルサノーク傭兵団の一員のはずなんだ。たぶん、ヒューも同じだと思う。なので、オレ達が皇帝義勇軍としてネフィリカを護るのには何の問題無いと思うんだよね」
オレの提言に一同は、「何言ってんだ、こいつは」や「問題大ありです」という表情を浮かべている。
「言っている意味が、訳がわからないのですけど」
代表してアレイラが皆の声を代弁する。
「え? 三方が丸く収まる良い案だと思うけど」
「全く貴女ときたら昔と変わらないですわね。その、すぐ思いついたことを考えなしに行動するのは、お止めなさい。周りが酷く迷惑します」
「え~いい案じゃん。どうせ、オレ達も『皇の臥所』に行かなきゃならないんだし、一石二鳥でしょ」
「それはそうですが……ネフィリカ団長、リデル……皇女殿下が言っていることは本当なのですか?」
アレイラはオレの提案に困惑しているネフィリカに視線を移した。
「はい、リデル様の仰せの通りです。カンディアから出立された後に私も気付いたのですが、意向も聞かずじまいだったこともあり、名誉団員として在籍したままとなっておりました。皇帝義勇軍もアルサノーク傭兵団がそっくり移籍する形でしたので名簿には残っています」
「なるほど、皇女殿下の提案も、あながち的外れなものではなかったということですね」
ふむ、と考え込んだアレイラは再度、皇帝義勇軍に向き直ると質問した。
「皇女殿下は、このように提案していますが、正直なところ貴女達はどうしたいですか?」
「私としては、恐れ多すぎて受け入れられません。カンディア時代は素性を知らなかったから参加をお願い出来た訳で、今の御身分の殿下にそんなことを頼むのは許されないことと思います。ただ、私個人としては再びリデル様と一緒に戦えるなら望外の幸せですけど」
「私としましても、『かの者』達と戦うことを考えれば、皇女殿下の武力を当てに出来るのは心強い限りです。願わくば、ぜひともご一緒していただきたいものですね」
「まあ確かに、リデルさんが出張るんなら俺達は足手まといかもしれないっすね」
「そうね、ちょっと癪だけど」
「自分は間近で、その雄姿を見たいところですが」
一応、三者三様に納得してくれてるようだ。
「じゃあ、そういうことでお願いを……」
「リデル、ちょっと待ってください」
オレが話をまとめようとするとヒューが横やりを入れる。
「ん? 何かあるの、ヒュー」
「いえ、些細なことですが、正確に申せば私はアルサノーク傭兵団に在籍しておりません。あくまで在籍しているのは傭兵の『キース・デュアル』なので……」
ああ、そうか。あの時ヒューは偽名で登録してたっけ。確かに、その理屈でいけば、ヒューはアルサノーク傭兵団、ひいては皇帝義勇軍に在籍していないことになる。
待てよ、それでいくと今のオレはアリシアで、リデル名で登録したアルサノーク傭兵団に在籍していないことになるのか?
「まあ、それはどうでも良いことでしょう。本人の気持ち次第のところもありますので。それよりも問題なのは、リデルが皇帝義勇軍に入るということは、イーディス皇帝の部下となり命令を受ける立場となってしまうということです。リデルはそれで大丈夫なのですか?」
全然、大丈夫じゃない。
全く、考えてなかった。
単にイーディスと面と向かって会うのも嫌だったんで、また変装して義勇軍の一員に紛れようかと思っていたけど、配下となって彼女の指図で動くのはちょっと不味い気がする。
大体、一緒にソフィアやトルペンもいるので、すぐにバレそうだし。
う~ん、アレイラの言う通り、思い付きを口にするのは良くないかも。
次からは気をつけなくちゃ。
けど、今回はせっかく話がまとまりかけてるし、ここは……。
「大丈夫! 全然、問題ない。オレに任せとけ」
心とは裏腹にオレは虚勢を張った。
「リデルがよければ、私は構いませんが」
ヒューが懐疑的な目でこちらを見たので、思わず目をそらした。
「わかりましたわ。皆がよろしければ、早速それで動きましょう。陛下が痺れを切らしている頃でしょうから」
ということで、アレイラ補佐官、皇帝義勇軍(ネフィリカ、ジェームス、リデル、キース)+その他で、『皇の臥所』へと向かうこととなった。
気が付けば1月も終わりですね(;一_一)
いや、月日が経つのは早い早い。
きっと、気が付いたら3月末だった――なんてことになりかねないです(>_<)
時間泥棒に気をつけなきゃw
知人にお勧めされた漫画「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」を一気読みました。
凄すぎです。最初、戦争もので、この絵?と思いましたが、この絵でないとダメだと感じました。
メイドインアビスと一緒で、この絵でないと読めません(T_T)
ホントにアニメ化するの?