皇宮へ……⑥
申し訳ありません。後半部分を修正いたしました(R5.1.29)
「リデル様、さすがにこれ以上待つのは計画に支障をきたしますが……」
ソフィアが申し訳なさそうに言ってくる。
「ごめん、ソフィアの言う通りだね。これ上は待てないし、そもそも連絡なしに合流しようとしたのが虫が良すぎたんだ」
イクスのこと、信用してるわけでは無いけど、何となくずっと嘘は言わない気がしてた。
だから、オレが皇宮に乗り込むときには必ず現れると疑っていなかったのだ。
我ながら、無茶な期待だったと反省する。
「リデル様がお謝りになられることはありません。約束を破ったあの男が悪いのです!」
誰に対しても優しく悪口など言わないソフィアだけど、イクスは別らしい。
よほど、ダノン邸での(第一部参照)悪印象が尾を引いているのだろう。
まあ、それもわからないでも無い。
オレだって、あの時のことは未だに悪夢として見るくらいなのだから。
「いや、擁護するつもりはないけど、イクスは悪くない。勝手に期待したオレが悪かったんだ。それより無駄な時間を費やして、ごめん。すぐに行動に移ろう」
「承知いたしました」
「こちらは、すぐにでも動けますよ」
オレの言葉にソフィアとヒューが頷く。
「じゃあ、もう一度確認しておくけど……」
事前に決めていたことを繰り返し口にする。
「今回の第一目的は『クレイの救出』だ。それを最優先とする。もし、そのためにアイル皇子を倒さなければならないのなら躊躇しないし、余力があって可能なら帝国の今後のためにアイル皇子の打倒も視野にいれる。それで良いね?」
「問題ありません、リデル様」
「加えて、ゾルダート教を皇宮から一掃したいところですね」
「吾輩に任せろ、デス」
三者三葉の答えに満足するとオレは続ける。
「それと、皇宮では出来る限り殺生は避けたい。どうしてもの場合や不可抗力なら仕方がないけど、それ以外は殺さずに済ませてほしい。近衛軍皇宮警備隊や皇帝義勇軍も今は敵対しているけど味方になる可能性は低くない。だから、禍根は残したくないんだ」
特に構成人員の多くが『流浪の民』の一族である皇帝義勇軍には、ソフィアが持参するレオポルドの主命状は、かなりの効果が期待できるだろう。
なので極力、命のやり取りは回避したいところだ。
「つまり、全力で当たるのはゾルダート教信者のみということですね」
「そうなるだろう。けど非戦闘員は出来る限り拘束だけで済ませて欲しい」
「リデル様。お言葉ですが、戦いの局面において戦闘員・非戦闘員の区別はつきません。そのご命令はいささか難しいかと……」
「無理を言ってるとオレも思う。だから、可能な限りで構わない」
オレが重ねて頼んだので、ソフィアは黙り込んだ。
「ソフィア殿、リデルも可能な限りと言っています。そう真剣に悩まずとも、その場に応じた対応を取れば良いと思いますよ」
ヒューがソフィアの心配を和らげるように助言する。
「それより、リデル。もし、イクスが敵対してきたら、もちろん倒しても良いのですよね」
ヒューは、にこやかな笑顔で宣言した。
◇◆◇◆◇◆
オレたちは導師達の使い魔の監視する正門を避け、先日下見した際にあたりを付けた皇宮の外壁の前に立っていた。
「確か、この辺だったよな」
「ええ、そうですね」
ヒューと二人で外壁を見上げる。
前回と同じように壁上回廊に歩哨の姿は見えない。
「定期的に見回りはしているでしょうが、さすがにこの時間は手薄のようですね」
「こちらとしては有難いけどね」
「いくらなんでも、この壁を魔法も無しの人力で越えてくるとは思わないでしょうから」
「それもそうか」
オレは知らなかったがソフィアの話によると、どうやら各壁塔と壁塔の間に魔法結界が張られていて飛行魔法の類は妨害されて侵入が叶わないらしい。
じゃあ、前回のイクス(悪魔形態)の飛行魔法や今回のトルペンの転移魔法はどうなのかと言えば、彼らの魔法レベルの方が高いため有効に働かないのだそうだ。
しかも、イクスの能力をもってしても侵入を阻んでいた皇宮自体の上位魔法結界をユクが壊したため(第二部参照)、皇宮そのものへの侵入も自由自在になっていると、イクスが自慢気に語っていたっけ。
考えてみれば、イクスの破壊工作が無ければ、そもそもゾルダートの連中が皇宮に巣食うことは不可能だったのかもしれない。
ちなみに、トルペンが自由に往来できるのは、宰相補に任じられた時に結界の対象外に設定されたためらしい。
イーディスがトルペンを危険視したのは、あながち間違いではなかったのかもしれない。
「それでは、一足お先ニ」
そう言った次の瞬間、トルペンは外壁の上に立っていた。
そして、そろりそろりとロープを下ろしてくる。
わかっていても驚くレベルの転移魔法だ。
「では、まず私が……」
ソフィアがロープを握ると軽業師のようにするすると登っていった。
「じゃ、次はオレが行くね」
そう言って、オレはヒューに目を向ける。
ヒューはいつもの銀の甲冑の上に黒いサーコートを羽織り、少しでも目立たなくするように工夫していた。特殊な造りで甲冑特有の大きな音はしなかったけれど、やはり潜入には不向きと言えた。けど、それを補うほどヒューの戦力はこれからの戦闘には必須だったのだ。
そして、イクスを伴った前回の下見で問題となった塀を越える算段については、オレが先に登ってオレの怪力でヒューを持ち上げるという頭の悪い力技で解決することとなった。
さすがに、天隷の騎士の威光があったとしても夜半過ぎに正門を通るのは難しいだろう。
「リデル。もし、イクスが現れたら、私にお任せください。必ずや、決着をつけますので……」
また、ヒューがこの銀の鎧をあえて持ち込む理由はイクス対策のためでもあるようだ。詳細については教えてくれなかったけど、どうやら勝算があるらしい。なんでもイクスの化け物じみた身体能力に対抗する術があるとか。あんまり無理しないで欲しいのだけど。
決意の表情を見せるヒューに頷いて見せてから、オレはするするとロープを伝った。
正直、イクスの恐ろしいところは人間離れした身体能力ではなく、その得体の知れなさにあるとオレは思っている。
なので、ヒューの決意には素直に賛同できなかったけど、せっかくやる気になっているので、水を差すのは止めておくことにした。
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よろしくお願いします。
気が付けば12月も半分終わり、はや年末ですね。
無事、年を越したいものです。
現在、不意の花粉症でダウンしてます。
皆様も御身体、大切にしてくださいね!