狂宴のあと……⑧
カイロニアとの交渉が首尾よく終わり、次の交渉相手はライノニア陣営と決まった。その後にアルセム王国、フォルムス帝国との交渉の予定だ。
本来なら軍事的な取り決めもあるので、事前に皇帝直轄軍やアリスリーゼ討伐軍とも折衝を行いたかったのだけど、それらについては皇帝側が協議するので割愛となった。
疑心暗鬼になっている各軍を平和的に撤退させるには細かい配慮が必要なので少し心配だったが、オレの調停が上手く進めば、改めて各軍の代表が集まって具体的な手続きをしていく手筈になっているので、その点は大丈夫なのだそうだ。
ちなみに内通したケルヴィンの裏情報によると、実際はオレが皇女に復帰したことでアーキス将軍やデイブレイク近衛将軍がオレとの関係を密にするのではないかとイーディス皇帝が危険視したため、オレが皇帝軍に接触することを禁じたらしい。
まったく心配性なことだ。
二人の性格を考えれば、少なくとも彼らが皇帝軍に属している間はイーディスを裏切る可能性は皆無だとオレは考えている。
アーキスのおっさんもデイブレイクも頑固で堅物だから、そんな卑怯な真似は絶対に出来ないに違いない。
それなのにイーディスがオレと二人との接触を禁じるのは、彼らを信用していないのか、もしくは信用しきれていないからだろう。
よほど疑心暗鬼になっているのか、それとも心を許せる部下が少ないのかもしれない。
まあ、父親と慕うアイル皇子に裏切られたかもしれないと思うと、そういう精神状態になっても不思議ではないだろう。
とにかく当面の相手はライノニアだ。
オレとしても、今度はカイロニアのように順調に事が進むとは思っていなかった。
もとより、カイロニア陣営は前の皇女時代からオレに好意的だったし、オルベレス将軍もオレのファン(?)だったこともあり、とんとん拍子に話がまとまったけど、ライノニア陣営とは、そんな風に上手くはいかないと思っている。
何故なら皇女時代もライノニアとは少なからず距離を置いていたし、アルフレート公子とも良好な関係とは言い難がったからだ。
だって、あいつ俺様気質でホント面倒くさかったんだもん。
会うと疲れるし、腹が立つんで極力避けてたからなぁ。
絶対、印象悪かったと思う。
だからライノニア陣営のオレに対する好感度が低いのは間違いないだろう。
今にして思えば、イーディスがカイロニアと組んだのだって、元々オレのせいでカイロニアが皇女寄りだったことが一因と考えられる。
そう考えるとライノニアが皇帝に反乱を企てた遠因はオレにあるのかもしれない。
うん、やっぱり難しい交渉になりそうな気がする。
◆
「では、当方はそれで構いません。アリシア殿下」
目の前に座った一見すると文官に見える細面のライノニア公国軍副将のシャルダン将軍が了承の言葉を述べる。
前言撤回。
誰だ、ライノニア軍は脳筋ばっかりだって言った奴は…………あ、オレか。
いやあ、ホント。とてもこの方、武人には見えない。
鍛えられてはいそうだけど、体格もほっそりしているし、年齢も若く顔も整っている。
見るからに貴族出身と窺わせる身のこなしの美青年だ。
系統的にはケルヴィン宰相に近いか(あっちは嫌味が過ぎるけど)
まあ、亡くなったグルラン将軍やパロール将軍が、ああいう感じの人だったから、副将はこういう知将タイプじゃないとバランスが取れないのかもしれない。
それにしても交渉が順調に終わって良かった。
最初は心配していたが、こちらを敵視する素振りも見せず、終始なごやかに交渉が進んだので、オレとしてはとても意外だった。
もちろん、勝敗をはっきりしないことで賠償金の要求を皇帝陣営が取り下げたという要因があったにせよ、もう少しごねると思っていたんだ。
軍人は勝敗にこだわることが多いからね。
シャルダン将軍が話のわかる人で、助かったよ。
あと、公爵をはじめ殺害された方々については、公都に戻ってアルフレート公子と話し合って結論を出す予定だが、罪を負うべきはゾルダート教であり、皇帝陣営も教皇陣営も共に被害者であるという見解にも理解を示してくれていた。
もっとも、今回の惨劇が停戦会議を呼びかけた教皇陣営にも非があると認めて、各陣営に見舞金を出すことが決定していたので、それが功を奏した可能性もある。
兎にも角にも、一番の難事と考えていたライノニアとの交渉が無事に終わって、オレがほっとしていたのも事実だ。
ライノニアが停戦を受諾すれば、それに付随してアルセム王国・フォルムス帝国も受け入れる可能性が高かったから、少し気が緩んでいたのかもしれない。
「時にアリシア殿下。一つお願いがあるのですが……」
「何でしょうか、シャルダン将軍。私で出来ることなら良いのですが」
「ありがとうございます、殿下。これはライノニア公国軍副将としてのお願いではなく、シャルダン個人としてのお願いとなるのですが、よろしいでしょうか?」
「? ええ、伺いましょう」
突然の申し出にオレは戸惑いを覚えつつ、返答する。
「それでは、お言葉に甘えまして……これで停戦となった暁にはライノニアもカイロニアも当主交代となり、しばらくは皇帝陛下の治世となりましょう」
「ええ、そうなるでしょうね」
イーディス皇帝を退位させる陰謀があることをおくびにも出さずオレは頷いて見せる。
「そうなると当然、帝国の立て直しが急務となります。さすれば、宰相閣下の職が激務となるのは明らか」
「そうですね……?」
シャルダン将軍の言いたいことが、ますますわからない。
「ケルヴィン宰相には宰相補が必要と、お考えにはなりませんか。しばらく前にトルペン宰相補もお辞めになっていますし……」
「え?」
「ただでさえ、皇宮はカイロニア寄りに偏っています。皇帝軍のアーキス将軍も元カイロニア陣営です。宰相補をライノニア陣営から受け入れるのは両陣営の均衡を保つためにも有効な手立てだとはお思いになりませんか?」
ケルヴィン宰相に宰相補を推薦したいってこと?
ご、ごめなさい(>_<)
今章、終わりませんでしたw
次回で終わる予定です(←ホントです)
会議ばっかりで、つまんないですよね。
次章は動きがあるといいなぁ。
あと、ヤフオクにハマってヤバイことになってます(;一_一)
来月の引き落としが今から怖いw
しばらく自重します……。