狂宴のあと……⑥
「じゃ、オレ皇帝にならなくていいの?」
思わず、お祖母様との約束も忘れて男言葉で聞き返す。
「そうですね。正確には『なれなくなる』が正しいですが」
「やっ……」
「では、2年以内にイーディス皇帝陛下を退位させ、アリシア殿下に即位していただかなくてはならない、そういうことになりますね」
やったぁ――! と叫びながら右手拳を天に突き上げる姿を心の中で想像していたオレに対し、ネヴィア聖神官が真逆な結論を述べる。
「アリシア皇女殿下に皇帝の座を望むなら、そういう段取りが必要となるでしょうね」
「う……む」
あのう、ネヴィア聖神官。無理に考え込まなくて良いんですよ?
オレ、このままで全然構わないですから。
って言うか、このままがいいんです。
オレの痛切な心の叫びは聖神官に伝わる筈もなく、難しい顔付きで彼は口を開く。
「ケルヴィン宰相。確認なのだが、御名返上の件を反故にすることは可能なのかね。幸い、皇帝陣営の代表は君なのだから、君さえ目を瞑れば何とでもなるのでは……」
「残念ながら、それには応じられません。先ほど、誓紙も交わしましたし、何よりもアリシア皇女殿下と手を組む前のお話ですので。それに私もイーディス皇帝を無理に説得してきた手前、不首尾に終わったでは私の信用を落としかねません」
「む、それはそうだが……」
露骨に残念そうな表情になるネヴィア聖神官にケルヴィン宰相が悪そうな笑みを浮かべながら囁きかける。
「ですが、聖神官。帝位継承権がある内にアリシア殿下を即位させるという話を伏せ、神託文の話だけをライノニア・カイロニア陣営と交渉すれば、2年後皇女同様に帝位継承権を失う彼らを味方につけることが可能だとは思いませんか?」
「……なるほど。イーディス皇帝が退位すれば、神託文によって自分たちの公子が皇帝になれる目が出てくることを示唆する訳か」
「ええ、必ずやイーディス皇帝を引きずり落とす策略に協力を惜しむことはないことでしょう」
「ふむ、悪くない」
ネヴィア聖神官もケルヴィン同様、悪い笑みを浮かべる。
何、この二人。意外と話が合うんじゃないのか?
これだから、政治って苦手なんだよ。
「あの……ケルヴィン宰相」
でも……オレにも言いたいことはあるんだ。
「何でしょう、アリシア殿下」
「オ……私にも提案があるのですが……」
「ほう? お聞かせ願えますか」
オレからの提案があるとは思ってもいなかったらしく、ケルヴィン宰相だけでなくネヴィア聖神官も驚いた顔でオレを見つめる。
どうせ、頭が悪くて政治向きの話なんて出来ないと思ってるだろ……まあ、間違いではないけど。
「ケルヴィン宰相。先ほど、貴方はイーディスが『怪しげな連中と手を切って、皇帝として正しい道を歩むなら、この先も盛り立てていける』とお話しされてましたよね」
「ええ、確かにそう申しましたけれど、それが何か?」
オレの質問の意図を図りかねてケルヴィン宰相は怪訝そうな表情を見せる。
「ではイーディスがそのような状況になれば、ケルヴィン宰相は今まで通り彼女を支えていく気持ちがあるわけですね」
「はい? もちろん、そのような心変わりをイーディス陛下がなされば……ですが」
「アリシア殿下、突然何を?」
オレの思わぬ発言にネヴィア聖神官が戸惑いを隠せない様子で聞いてくる。
「ごめん、聖神官。わがまま言って悪いけど、やっぱりオレには皇帝なんて向いてないと思うんだ。むしろ、イーディスの方が適任だと感じてる。だから、このまま彼女が皇帝を続けた方が上手くいくんじゃないかって考えてる」
「そ、そんなことはございません。アリシア殿下も皇帝としての優れた資質をお持ちです。それは、私が自信をもって保証します。決して、現皇帝に引けを取るものではありません」
オレの言葉が素に戻ったことに気付かないほど、ネヴィア聖神官は顔を青くして否定する。
「ありがとう、聖神官。オレのこと認めてくれて……でも自分のことは自分が一番よくわかってるんだ。あ……けど、だからと言って皇女という役目を投げ出すつもりは無いよ。皇帝の座は譲るけど、皇女としての自分の責務は出来る限り果たしたいと思う」
「ご立派なお考えと存じますが、現実問題イーディス陛下がアイル皇子と手切れなさるとは、とうてい考え難いのですが……」
疑問を呈するケルヴィン宰相に視線を移してオレは言った。
「大丈夫だよ、皇宮に巣食う邪神もどきのアイル皇子はオレが必ず倒す」
どちらにせよ、クレイを助け出すためにはアイル皇子と敵対するしかないんだ。
実際、双子戦争を陰から扇動していたのも奴だと聞いたしね。
なので、アイル皇子を倒さない限り、真の意味で帝国の安定は望めないに違いない。
それに逃げたフェルナトウも気懸りだ。
あいつのせいで、親しくは無いが顔見知りの人間が何人も殺された。
敵討ちって訳じゃないけど、このまま野放しには出来ない。
「アイル皇子を倒す……ですか。確かに手切れとはなるでしょうが、イーディス陛下の憎しみを一身に受けることなるのではありませんか。つまり、父親を殺した罪人として皇帝陛下と敵対することになるでしょう。帝国内に居場所が無くなりますよ」
知ってる。一時期、追っ手から逃れ隠れて生きてたから、よくわかってるさ。
「そうなった時は……外国にでも逃げるさ」
クレイと一緒にね。
後書きって、何を書くのが正しいのかなぁ。
最近は作品のことではなく私の近況ばかり書いているようなw
日記ならぬ週記です(>_<)
読み返すと、なかなか面白いです。
これ書いてたころ、こんなことがあったんだとかw
ご、ごめんなさい、私物化してm(__)m
最近はヤフオクに目覚めて入札ばかりしています♪
(ちゃんと上限は決めてます)
あと、コミカライズ版12話が発売中です!