狂宴のあと……③
誤字報告ありがとうございます。
助かります!
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「ご無沙汰しております、リデル皇女殿下」
悪びれもせずオレの前に座ったのは皇帝陣営の代表として現れたケルヴィン宰相だ。
「本当に久しぶりだね。手のひら返しされた血統裁判以来じゃないか」
「過去において多少の行き違いはありましたが、親しくしていただいていた殿下にこうして再びお会いする機会に恵まれましたことを大変感謝申し上げます」
ケルヴィン宰相はオレの皮肉にも動せず、にこやかに返答した。
相変わらず、食えない男だ。
ネヴィア聖神官達との話し合いの結果、オレは皇女として停戦交渉を進めることに決まったが、教皇側が停戦交渉を進める大前提として皇帝側と歩調を合わせる必要があった。
元々、教皇陣営は停戦の調停役として参加しているので、停戦を決める決定権がない。あくまで当事者である皇帝陣営と反皇帝陣営双方が停戦を受諾し初めて停戦が成立するのであり、教皇陣営はそれを促す立場でしかないのだ。
しかも、今回起こったファニラ神殿での惨劇により、今後の展開については全く不透明としか言い様がなく、皇帝を含め代表部が健在である皇帝陣営がどのような選択をするかによって情勢が大きく変わることが予想された。
そのため、オレがカイロニアやライノニア陣営等と停戦交渉を行う前に、どうしても皇帝陣営との事前の擦り合わせが急務であったのだ。
早速、ネヴィア聖神官が皇帝陣営に打ち合わせを行いたい旨を申し入れたところ、向こうからも同様の申し出を考えていたとの返答があった。
協議の内容は、喫緊の課題である一触即発の戦況だけでなく、今後の帝国運営……すなわちオレとアリシア皇帝の関係についても話し合いたいとの意向だ。
協議場所はファニラ神殿の談話室を借り受け、少人数の代表者のみで行われることになり、教皇陣営からはオレとネヴィア聖神官、皇帝陣営からはケルヴィン宰相が参加することになった。
ただ、オレが参加するというので、レリオネラ太皇太后が自分も絶対に参加するのだと譲らずネヴィア聖神官を困らせる事態が発生したが、「事前交渉に君のような立場の者が参加することは有り得ない」と懇々と諭され、ようやく翻意を促した。
まあ、決め手となったのはオレが上目遣いでしおらしくお願いしたことにあるらしく、難攻不落だったお祖母様もオレのお願いであっさり陥落したという訳だ。
案外、ちょろ……いや、お祖母様は純真なのだ。
でも、その時のネヴィア聖神官の目が「リデル様、ナイスです!」と輝いていたのをオレは見逃さなかった。実際の話、お祖母様が参加されたら、纏まる話も纏まらくなる可能性も多分にあったからね。
申し訳ないが、今回は我慢してもらおう。
それはさておき。
オレは目の前のケルヴィン宰相をさりげなく観察する。
いつもと変わらぬ様子に見せているが、顔色が悪いのか若干、化粧が濃いようだ。(外交官や大商人が大きな交渉や商談を行う際に印象を良くするために化粧して臨むことはよく知られた事実だ)
おそらく、皇帝陣営……アリシア皇帝との話し合いに手こずって、よく寝られていないのかもしれない。
伏し目がちな目も充血しているように窺えた。
けど、だからと言って同情する気は更々ない。
何しろ、ケルヴィンはオレを切り捨ててイーディス側に付いた裏切者なのだから。
根に持つ訳ではないが、多少の恨みつらみもある。
大体、オレを無理やり皇女にしたのはケルヴィンなんだからな。
最後まで責任取って欲しかったよ。
ホント、二階に上がって梯子を下ろされる気分って、きっとこんな感じに違いないと思う。
「ケルヴィン宰相、時間が惜しい。早速だが、話し合いを始めよう」
「ええ、異存はございません」
ケルヴィンはオレからネヴィア聖神官に視線を移し、政治家の顔になる。
彼流の戦闘モードといったところか。
「まず始めに確認いたしますが、ケルヴィン宰相は先ほどこちらのリデル皇女を『皇女殿下』とお呼びしましたね。では皇帝陣営は、この御方を『皇女』とお認めになると受け取って構いませんか」
「聖神官猊下の仰る通りにございます。レリオネラ太皇太后の証言もありますし、この御方が皇女であることは間違いないと皇帝陛下もお認めです。そもそも、先の皇女選定でも選ばれていらっしゃるのですから当然とは言えましょうが」
よく言うよ。ケルヴィンの奴、あの時でっちあげる気満々だったくせに。
「と言うことは?」
「はい、アイル皇子の娘であるイーディス様、デイル皇子の娘であるリデル様の二人とも皇女であるという認識をしております」
なるほど、デュラント三世の御子の件は無視して、あくまでアイル皇子の娘と言い張るつもりなんだ。
まあ、オレやオレの親父のことをちゃんと認めただけでも前進とは言えるか……でも、オレのことはともかく親父のことを『偽皇帝』とか他にもいろいろ侮蔑の言葉を吐いたことは決して忘れないからな。
いつか、絶対に謝罪させてやる。
「そちらの見解は理解しました。ですが、その内容ですとリデル皇女の方が一歳年上で長子となりますが……」
「はい、ネヴィア聖神官猊下の御指摘の通りです」
「それでは現皇帝陛下は『帝室典範』に抵触することになりませんか?」
あれ、ネヴィア聖神官、皇帝問題は後回しにするって言ってなかったっけ。
ネヴィア聖神官の問いかけに、ケルヴィン宰相は余裕めいた表情を見せ、口を開く。
「それもご指摘の通りと存じます。しかしながら、それに関連して皇帝陛下より一つご提案がございます」
「提案ですと?」
この期に及んで何の提案が、そんな表情でネヴィア聖神官はケルヴィン宰相を訝し気に見る。
「はい、現皇帝陛下は『アリシア』の名前をリデル殿下にお返しし、ご自分はアイル皇子よりいただいた『イーディス』を御名乗りになりたいというご提案でございます」
「そ、それはリデル殿下にとって願ってもないご提案と思われますが、それが何の意味が……」
「『アリシア』の御名は、デュラント三世陛下が四世陛下すなわちリデル殿下のお父様の娘にと贈られた御名です。リデル殿下が名乗られるのが正統と言えましょう」
「確かに異論はない……」
ネヴィア聖神官は素直に納得しかねる様子だけど、レリオネラ太皇太后はきっと大喜びするに違いない。アリシアちゃんはオレしかないと断言してたからなぁ。
「では、この提案は受けていただけると考えてよろしいですか? リデル殿下も反対はされませんね?」
「オレはどっちでもいいけど」
実際、お祖母様には悪いけど、アリシアって名前にあんまりこだわりないし。
強いて言えば、ソフィア・アリシア・シンシアって姉妹っぽくて良いなと思うくらいで……。
「いや、即答はいたしかねる。少し考える時間をいただきたい」
「構いませんよ。よくお考えになってください。ただ、皇帝陣営といたしましては『イーディス皇帝』が『アリシア皇女』と協力して国難に対し向き合っていく未来を考えております。どうか、そのことを念頭にご考慮願いたい」
ケルヴィン宰相は、オレたちに深々と頭を下げた。
プライベートでいろいろあって忙しい一週間でした(>_<)
何とか更新できました。文量も多めです♪
あと最近、毎日のアクセス数がかなり増えていて謎です('◇')?
(当社比4倍くらい)
コミカライズの影響でしょうか?
とにかく更新頑張ります!
よろしくお願いします。