血塗られたファニラ神殿……⑨
急に思いついて「いつまでも可愛くしてると思うなよ!」のSS集を公開しました。今回はリデルさんお誕生日記念SSです。よろしければお読みいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
奴の言うオレの『力』っていうのは、例の毒や負傷から回復する不思議な白い光のことだろう。
それが『聖石』に関係があるって言うのか?
「フェルナトウ、それはどういう意味だ!」
オレは内心の動揺を隠してフェルナトウに問い質す。
「お、やはり食いつきましたね。本当は情報の対価をいただきたいところですが、時間がありません」
棒人間達とエクシィを含む近衛騎士達の戦闘の様子を横目で窺いながらフェルナトウは苦笑する。
「無償でお教えするのは、我々ゾルダート教が貴女様に含むところが無いことを証明するためですので、そこのところをよくご理解いただきたいものです」
フェルナトウは恩着せがましく念を押すと話を続けた。
「それと率直に言わせてもらえば、貴女様はご自分の置かれた状況がまったくおわかりになっておりません。信じられない無茶ばかりなさいますので、こちらとしても肝を冷やす場面が多すぎるのですよ。ぜひとも、ご自分の御命を大切にしていただきたく存じます」
敵であるフェルナトウに命の心配をされるなんて何か変な気分だ。
「さんざん、オレを襲ってきたのによく言うよな! 何回か死にそうになったぞ」
「あれは一部の者が暴走したに過ぎません。それについては謝罪いたしましょう。決して我々の真意ではありませんので……けれど、もし貴女様が天落人の血を引いていると裏社会に知られることになれば貴女様の御命を付け狙う輩の数は膨大なものとなるでしょう」
この間、イクスからオレの母親のロニーナ后妃が『天落人』だとは聞かされた。しかも、その能力は自分が死ぬことで子に引き継がれるとも。
それに、オレの母親がその数々の偉業から『女神の化身』ではないかという噂が帝国貴族の一部で囁かれているのも承知している。
今度こそオレが本当の皇女であることが確定すれば、その型破りの行動からも、その『女神の化身』の血を色濃く継いでいると考えるのは当然だろう。
そうなれば、フェルナトウの言う裏社会とやらにもその情報は広がるに違いない。
けど、それが何故狙われる原因に?
「どうやら疑問に感じているようですね。では、それについて今説明を……ん、待てよ。そうか、そういうことだったのですね」
話の途中でフェルナトウが何かに気付き、急に得心した表情を浮かべる。
「フェルナトウ?」
「いえ、申し訳ありません、こちらの話ですので、お気になさらず。ただ単に、クレオーネ導師が何故、私の命令に逆らったのか理由が判明しただけですので……いやいや、なるほどそういう訳だったのですね。確かに彼女には年の離れた不治の病の弟がいましたねぇ……」
「フェルナトウ!」
オレを無視して一人納得するフェルナトウにムッとする。
「ああ、すみません……では、話を続けますね。ところで、貴女様は『聖石の奇跡』とはいったいどんな力だとお考えですか?」
「え?」
いきなりの質問にオレが戸惑うと、フェルナトウは得意げに語る。
「『聖石の奇跡』はまさしく『神の御業』と言ってよいでしょう。一方、『天落人』は一説では落ちてきた神とも呼ばれています。そのことから導き出れる答えは――――」
「ま、まさか……」
「ええ、『天落人』は殺されると『聖石』を残すのです」
「何だって……」
フェルナトウの言葉にオレは衝撃を受ける。
その言葉が本当なら、今まであった『聖石』って、オレと同じ『天落人』が残したものなのか……。
オレの表情を読んだフェルナトウは、にこやかに続ける。
「ええ、『聖石』とは過去に殺された『天落人』のなれの果てという訳ですね。正確には『天落人』の心臓なのですが……と言うのも原理はよくわかりませんが、『天落人』は殺されると心臓を残して身体は光となって消え失せ、残された心臓は結晶化して『聖石』となるのです」
じゃあ、オレが迷宮で使った『聖石』も過去に殺された『天落人』の誰かの心臓だったんだ。
確かに拳大の大きさの球体で、そう言われればそう見えないことはない。
そんな大事なものを無駄に使ってしまったことを激しく後悔する。
「『聖石』が貴重である理由がこれでわかると思います。そもそも『天落人』自体が稀有な存在であり、しかも殺して手に入れるより他ないのですから。特に『天祖』と呼ばれる第一世代の凄まじさは貴女様の母上である『ロニーナ后妃』の例を見てもわかるように、殺すことが不可能に近い。また、『第一世代』は何らかの罪や目的で地上に落とされて来るケースが多いので、再び天に戻ることも多く『第一世代』の『聖石』を手に入れることはまさに奇跡としか言いようがありません。ただ、そのクラスの『聖石』の起こす奇跡は、手に入れるのが困難なだけに、まさに全能神の御業に等しいと評されています」
オレが自分の行いを悔いていると、フェルナトウは嬉々として説明を続ける。
「ところがここに一つ解決策があるのです。『天落人』のほとんどは何故か女性なのです。そして『天落人』は子を生すと世代替わりをして、能力を子に引き継ぎます。しかしこの時、全能力を引き継ぐのではなく、子を生した相手にも寄りますが能力が劣化するのが普通です。こうして世代を越えるごとに『天落人』としての能力は下がり、同様に『聖石』の力も下降します」
確かに、オレの謎記憶の中の母さんや伝えられる逸話の数々から、オレ以上の化け物だったことは疑いようないけど、劣化したオレの強さがこのレベルなら、母さんはどんだけ強かったんだろう。
まったく想像がつかない。
「『聖石』の力にバラツキがあるのは、こうした世代別に寄るものだと考えられています。けれど、世代が下がることで『聖石』の力が落ちるものの、倒して手に入れる可能性はずっと高くなるわけです」
現に第二世代となるオレはゾルダートの連中(イクスも含めて)に何度か殺されそうになったから、あながち見当はずれとは言えない。
「ただ、これにも限度があり第五世代ぐらいを越えると、ほぼ一般人と変わらなくなるようです」
「ずいぶん、詳しいんだな」
ずっと聞いていて思ったけど、フェルナトウの『聖石』の情報量には驚かされる。
「これもゾルダート教の長年の研究の成果です。主様の復活に必要と思われた研究でしたからね。もっとも私が会った第二世代の『天落人』は貴女様が初めてですが……」
そこでフェルナトウは言葉を切り、周囲の様子を窺い戦況を確認する。
どうやら最後の棒人間が倒され、決着が付いたようだ。
更新遅れてごめんなさい。
活動報告にも書きましたが、本日更新用に書いた文章が吹き飛びました(T_T)
急いで書き直しましたが、不備があったらすみません。
もしかしたら、書き直すかもしれません。
あと、新章は先送りにしました。
いろいろ不手際で申し訳ありません。