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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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血塗られたファニラ神殿……②

 不審げな目、怯える目、敵意の目……様々な視線を一同に浴び、フェルナトウは満足そうに口角を上げる。 


「実に素敵な反応ですね。これなら説明のしがいがあるというものです」


「フェルナトウ宰相補……もし許していただけるなら、イフネル正神官の亡骸に布か何かを掛けてやってもよろしいかな。そのまままでは、あまりに……」


 倒れたままの状態のイフネル正神官を気遣って、ネヴィア聖神官がフェルナトウの機嫌を損ねないよう恐る恐る尋ねる。


「それには及びません。直にそんな心配する余裕など無くなるでしょうから。それとも私が親切にも説明しようとするのを邪魔するおつもりですか?」


 フェルナトウの目が細くなるのを見て、オレは即座にネヴィア聖神官を庇うように立った。

 どんな魔法かは分からないけれど、不死身のオレなら一撃で死ぬことはないだろう。


「リ、リデル様。私などより貴女様のお命の方が……」


「ネヴィア聖神官、オレの役目は貴方の護衛ですから」


「それは、あくまでこの場に入る口実で、本当になさらなくても……」


「あ~、話してるところ申し訳ないですが、私は他人に無視されるのが一番嫌いなのですよ」


 能面のような表情に微かに苛立ちが透けて見える。

 オレはネヴィア聖神官が諦めるように目配せすると、聖神官は残念そうに頷いた。


「承知しました、フェルナトウ宰相補。説明をお続けください」


「……全く手間をかけさせないでいただきたいものです。それとリデル様、貴女様は我々にとっても大事な御方です。みだりに命を粗末にするような真似はお控えください」


 えっ、そいつは良いこと聞いたぞ。

 どうやら、オレの存在は向こうにとっても重要のようだ。それなら簡単に殺したりしないだろうから、戦いようがある。

 もしかしたら、こちらに配下を振り分けなかったのも、そのせいかもしれない。


「とんだ横槍が入りましたが、説明を続けましょう。では、まずアイル皇子殿下の生き死に関してですが……」


 フェルナトウはレリオネラお祖母様をちらりと見てから続けた。


「レリオネラ太皇太后がさきほど言った通りですね。まさに貴女が死を看取ったのアイル皇子殿下に間違いありません」


 そ、それじゃガートルード(イーディス)は、やっぱりアイル皇子の娘じゃないってこと?


「フェルナトウ! 貴様、何を馬鹿げたことを言っている。私がここにいることが、アイル皇子が生き延びた証拠ではないか!」


 珍しく取り乱したイーディスがフェルナトウに詰め寄ると、彼は憐れむような表情で彼女を見下ろした。


「そう思うのは当然ですし、そう仕向けたのも事実ですからね。信じ込むのは仕方ありません」


「な、何だと……」


 そう言ったきりイーディスは顔面を蒼白にして黙り込んだ。


「しかしながら、皆さん。アイル皇子殿下は本当の意味で死んではいません。肉体は失いましたが、ゾルダート教の奇跡により復活を遂げられたのです。そして、今もなお生き続けておいでです。我々の新たなるゾルタード神として……」


 両手を広げ天を仰ぐような仕草でフェルナトウは恍惚の面持ちで叫んだ。


「この世の森羅万象を司るのはゾルタード神であり、決してイオラートなどではありません。また、今の世のようにイオラートを信ずる偽善と欺瞞に満ちた下賤な連中が世界を牛耳っていることも見逃せません。我々ゾルダートの忠実なる(しもべ)は、この世界の安寧のためにも変革を目指さねばならないのです!」




「き、君が……亡くなったアイル皇子が邪神になったという妄執に囚われているだけではないのか」


 自分の死をも恐れずネヴィア聖神官が言及する。


「妄執……笑わせてくれますね。私だけの妄執なわけありません。我が主の呼びかけに応じて多くの信徒が我が主の現世復活に力を注いできました。私もその一人に過ぎません。実際、過去に復活の儀式は何度となく行われ、あと一歩というところまで成功した事実もあるのです」


 フェルナトウは忌々しそうにネヴィア聖神官を睨む。


「本来であれば、我が主の復活は確定していたのです。ところが、現世への復活に不可欠な現身(うつしみ)が、ある事情で手に入らなくなってしまったため、復活の儀式が儘ならない事態となりました。そこで代案として出てきたのが、皇帝の血を引く人間……しかも変生人(かわなりびと)(神界や異界からの生まれ変わって来た者たちの総称)だという娘を現身として使うというものでした」


 皆の視線が自分に集まるのを感じたのかイーディスは、その表情を強張らせた。


「けれど、それはあと一歩というところで失敗してしまったのです。融合はかなりの段階まで成功していたのですが、最後の最後で我が主の御心を移し替えるには至りませんでした。それ以上、強引に行えば、現身自体が壊れてしまう……我々は断腸の思いで儀式を中止しました。そして……」


 フェルナトウは呆然としているイーディスを見下すように吐き捨てた。


「その失敗作がそこにいる娘というわけです」


 フェルナトウの思いがけない発言に場が静まり返った。


「しかし、失敗作はやはり失敗作でしたね。帝国を破滅に導くべく皇帝にしたというのに、帝国の安定や改革を目指すなどと、身の程知らないというか、勘違いも甚だしい。我が主も期待外れと思ったことでしょう」


「お父様が……そんなことを」


「お父様、ですか。所詮、道具のお前が我が主を父親呼びとは不遜窮まりない話です。ずっと我慢していましたが、これで清々しました。この、役立たずめ!」


 あまりの言い様にオレの方が頭に来たが、当のイーディスの方はあまりに衝撃を受けたせいか、力なく座り込んだ。


 会場の誰もが、思ってもいない成り行きに固唾をのんで見守るしかなかった。


「なるほど、だからなのか……」


 そんな中、アエルの横にいる元中央大神殿正神官ギルコークの呟きが妙にはっきりと響いた。

 ネヴィア聖神官の視線に気付くとギルコークは戸惑いながら説明する。 


「断定はできませんが、おそらく復活の儀式とやらのせいで血の構成要素がアイル皇子殿下のものと混在したと考えられます。だとしたら、アエル血統裁定官が親子と見誤るのは有り得ないことではありません」


 そうか……それなら血統裁判でアイル皇子と親子と言われるのもわかる。

 やっと、もやもやしていたことがはっきりした。


 けど、待てよ。

 何でフェルナトウは、こんな重要なことを、さっきからペラペラとしゃべってくれるんだ?


「さて、質問にはお答えました。皆さん、もう思い残すことはありませんね。実のところ、もうすぐ最後の復活の儀式が行われる予定なのです。ところが、復活が成功するには世界が混沌でなければならないのです。それにはもっと多くの血が流れないといけない」


 フェルナトウは一同を見渡して目を細めた。


「そのためには帝国が……いえ世界がさらに混乱する必要があるのです。幸い、ここには帝国の主要な人間が全て集まっています。真にもって都合が良いと言えるでしょう」


 フェルナトウは三人の配下に目配せしながら、残忍な笑みを浮かべる。


「とりあえず、この場にいる者は全員死んでいただきましょうか」


キリの良いところまで書いたので、今回はいつもより長めですw

まだまだ、フェルナトウのターンが続きます。


さて、黒幕が相手が死ぬことを前提に、ペラペラと自分の悪事をバラす展開に近いですが、果たしてどうなりますか(-_-;)


あと、まじめに液タブ使おうと思って、クリスタの公式入門本を購入しました!

いつかお披露目できるよう頑張ります。


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― 新着の感想 ―
[一言] この殺伐とした展開以上にガートルードの落ち込みようが心配だったり。。
[一言] 何に死んで何人生き残るのか…… イラストがんば!
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