告白……⑨
「レリィ、それではまさかアイル皇子の亡くなる場に君は居合わせたというのか」
ネヴィア聖神官は驚きを隠せず、お祖母様に確認する。
「ええ、そうです。アイルは私の目の前で息を引き取りました……そして、それは全て私のせいなのです」
「君のせい? 病状が悪化したからでは無いのかい」
「そうではありません。先ほどリシュエット全権大使が話していましたが、アイルは聖石の力で病気では死なない身体になっていました。それなのに命を落としたのは人為的な力が働いたからに間違いありません」
「人為的な力……つまり殺されたと言うのだね」
「仰る通りです。そして、それを阻止できなかったのは私の責任と言ってよいのです」
心配そうに見つめる兄にお祖母様は力のない笑みを浮かべながら当時を回想する。
「あの頃の私は幸せの絶頂でした。失われた息子が戻って来て皇帝に即位する……逆に大きな責務に圧し潰されそうだったもう一人の皇子も重圧から解放される……そんな状況に心より安堵していたのです。けれど、私が本当に為すべきだったのはエルスト(デュラント神帝)に全てを告白し、デイルを本物の皇子と認めることだったのです」
お祖母様は目を伏せ、声を絞り出すように言った。
「けれど、あの当時そんなことは出来はしなかったし、しようとも思わなかった……それが……その判断が、あんな結果を生むだなんて……」
「レリィ? 大丈夫か、顔色が真っ青だぞ」
「……私は、全てが上手くいっていると信じて疑わなかった。否、信じようとしていただけなのかもしれない。けど、それは思い違いだった。まさかエルスト(デュラント神帝)が身代わりが出来たことでアイルを不用品のように処分しようとするだなんて……思ってもみなかった」
ネヴィア聖神官が声をかけるが、お祖母様はそれすら気付かず話し続ける。
「私があの時、デイルが本物の皇子と明らかにさえしていれば、きっとアイルは死ななくて済んだ……ええ、きっとそうに違いないわ。だから、あれは私の……私の責任……」
「お祖母様の責任じゃない!」
思わずオレはお祖母様の手をぎゅっと握ると、お祖母様をオレに振り向かせて見つめながら断言する。
「アリシアちゃん……?」
「誰の責任でも無いよ。ただ、不幸な偶然が重なっただけさ」
所在無げな眼でオレを見つめるお祖母様を安心させるように優しく言ってあげる。
そう、お祖母様だけの責任じゃない。手を下すように命じたデュラント神帝だって悪いし、双子を忌避するアルセム王国の慣習だって良くない。
なんなら、活躍しすぎて皇帝になってしなったオレの親父にだって責任はある。
全ては複雑に絡み合った運命の糸が為せる業なのだ。
誰か一人の責任ってわけじゃない。
「だから、お祖母様の責任じゃないんだ。自分一人を責めないで欲しい。それにこうやって、お祖母様と再会できたのだって、過去のいろいろな出来事があったからだと思うし、決して悪いことばかりじゃないと思う」
オレが男前にニカッと笑うと、お祖母様は毒気を抜かれたように目を見開き、オレに釣られて笑みをこぼす。
「アリシアちゃん、貴女って本当に……」
「あ、ごめん。言葉遣い、悪かったよね。えっと……ごめんなさい、言葉遣いが良くありませんでしたわね。以後、気を付けますわ」
何か言いたげな表情のお祖母様を見て、オレは頭をかきながら平謝りをする。
「いえ、そうでは無くて……もうっ、アリシアちゃんには敵いませんわね」
「へ?」
よくわからないけど、孫娘大好きお祖母ちゃんに戻ったようなので、一先ず安心した。
お祖母様がオレの励まし(?)で、笑みを取り戻すのを見て、ネヴィア聖神官は安堵した様子で声をけてくる。
「いや、レリィ。本当にリデル皇女殿下の仰る通りだと思うよ。あまり気に病まないようにした方がいいね」
「そうそう、私も元気なお祖母様でいて欲しいですわ」
この際とばかりに妹の精神状態の向上に努めるネヴィア聖神官にオレも皇女口調で同意する。
「それより話は戻りますが、レリオネラ太皇太后陛下」
ネヴィア聖神官は、お兄様モードから聖神官モードへと襟を正し、お祖母様へ核心を突く質問をする。
「先ほどのお話で、アイル皇子の最期に立ち会ったとの話しですが……」
「ええ、デュラント四世が即位した日の夜遅く、私は極秘裏にウルリクと会いました。火急の要件とのことだったので」
「では、その折に?」
「はい、私が行った時にはアイルはもう事切れる寸前でした。まるで、それまで生き永らえさせられていたように……おそらく毒でも盛られたか血を抜かれたかでもしたのでしょう」
「なんと酷い」
「結局、駆けつけてすぐに言葉も交わすこともできないまま、アイルは逝ってしまいました。でも、ああして最期を看取るこが出来ただけでも本当に良かったと思っています。けれど、私はあの二人に母親らしいことは何一つ出来なかった愚かな母親と言えるでしょうね」
「そ、そんなことは……」
「良いのです、ネヴィア聖神官。ですが、これだけは断言します。アイル皇子はデュラント四世の即位式の日に亡くなりました……なので、皇女を生ませることなど不可能です」
お祖母様は自分を卑下しながらも冷ややかな視線でアリシア皇帝を見下ろす。
「ふむ、太皇太后の言いたいことは、それだけか?」
存在を否定されたアイル皇子の娘であるアリシア皇帝は落ち着いた表情で相対する。
「太皇太后は、どうでもアイル皇子に娘がいなかったことにしたいようだな。けれど、こういう仮定も考えられるぞ。ウルリク医師が貴女を欺いたという可能性だ。貴女は医師ではない、皇子が本当に死んだかどうか、わかる術を持ってはいないのではないか」
「亡くなったかどうかぐらいは医師でなくともわかります」
「本当にそうかな? それに血統裁判の裁定はどうなる。私はアイル皇子の娘だとそこにいる血統裁定官が裁定してくれたのだが……」
「それは……」
自信ありげだったお祖母様が口ごもる。
「し、しかしながら、陛下。リデル皇女の方が長子であることは陛下もお認めになりますね」
見かねたネヴィア聖神官が別の角度から攻め、助け舟を出す。
「…………」
泰然としていたアリシア皇帝の顔が初めて曇る。
アイル皇子が皇宮から姿を消した時、すでにオレが生まれていたのは事実だ。だから、その後に生まれたというガートルードは確実にオレより年下なのは間違いない。
皇女ならともかく、皇帝となると話は簡単ではなくなる。
アリシア皇帝が返答に窮していると、どこからか低い笑い声が聞こえた。
場にいる一同が、誰のものかと周囲を見渡していると、その声はどんどん大きくなり高笑いと転ずる。
「いったい、何のつもりだね。フェルナトウ宰相補?」
進行役のイフネル正神官が、アリシア皇帝の傍らで哄笑を続けるフェルナトウ宰相補を咎めると、参加者一同の目は彼に注がれた。
今回はちょっと長めです。
やっと会議、終わりました。次回、新章です。
今日、前から不調だったPCのディスプレイが壊れてしまったので、新しいディスプレイを買いました。しかもゲームしないのにゲーミングディスプレイですw
色調が鮮やかなせいか、目がシバシバします(;一_一)
ウマ娘熱も治まってきたので、そろそろ新作書かないと……。
候補①バンドBLもの ②SF宇宙軍もの ③ファンタジーロボットもの(!) ④現代TSアイドルもの ⑤現代探偵もの の5種類です。どれがいいかなぁ♪




