告白……③
ネヴィア聖神官が、オレも不思議に思っていた至極真っ当な質問をぶつけるとレリオネラ太皇太后は首を傾げる。
「兄様が何を仰りたいか、よくわからないのですけど」
「いや、私の方こそ君の言っていることが、よくわからないのだ。確かに、その娘は良いお嬢さんだと思う。君が気に入るのはわかる。しかし、君のそれは度が過ぎていると思わないか。何か、特別な理由があるのだろう? それを聞かせて欲しいのだ」
ネヴィア聖神官の問いかけに『何を今さら』という表情でレリオネラ太皇太后は答える。
「兄様、何を仰っているの? この娘がアリシアちゃんだからに決まっているではありませんか」
「レ、レリィ……君は……」
妹の迷いのない瞳にネヴィア聖神官は絶句する。
「いいかげんに下らぬ問答は止めたらどうか、聖神官」
苛立ちのこもった声でアリシア皇帝が戸惑っている聖神官に向かって言い放つ。
「大変申し上げにくいが、太皇太后は心を病んでおられるようだ。一刻も早くこのような緊張を伴う場所から退席し、しかるべき治療を受けるのが賢明ではないかと思う」
「そ、それは……」
ネヴィア聖神官が声を詰まらせていると、レリオネラ太皇太后は初めてアリシア皇帝へと目を向ける。
「無礼なことを申す出ない。お前などに心配されるほど衰えてはおらぬわ。アリシアの名を騙る痴れ者が!」
「な……」
レリオネラ太皇太后の言い様に、皇帝の顔色が怒気に染まる。
「き、貴様。皇帝である私を愚弄するつもりか……いくら太皇太后と言えど、ただでは済まさぬぞ!」
「お、お待ちください、皇帝陛下。短慮はなりません。レリオネラ太皇太后陛下、貴女も言葉が過ぎますぞ」
ネヴィア聖神官が慌てて両者の間に入るが、もはや決裂は目に見えていた。
他の参加者も最上位に位置する二人の対立に声も出せず見守っている。
その緊迫した雰囲気を意に介せず、レリオネラ太皇太后はオレへと再び、顔を向ける。
「ごめんなさいね、アリシアちゃん。私がいながら、こんな目にあわせてしまって」
「いえ、そんな……それにこの状況は私が血統裁判に負けたのが原因なんで、お祖母様には責任はありません。どうか、ご自分をお責めにならないでください」
自分を責め、シュンとなるレリオネラ太皇太后に自然と労りの言葉が出る。
どう考えても、お祖母様は悪くなかったし、真剣に落ち込む姿が本当のお祖母ちゃんみたいに感じて何だか切なくなったのだ。
「けど、ありがとうございます、心配してくれて。孫じゃなくなったのは残念だけど、その気持ちだけで嬉しいです……だから、もう無理しないで休んでください」
お祖母様は気性が激しく面倒な性格で他人から誤解を受けやすい人だけど、根は純真で真っ直ぐな女性だとオレは知っている。
だから、場の参加者が彼女を『可哀そうな人』と見る空気に耐えられなくて、退席を促した。
「レリオネラ太皇太后、お気に入りのその娘も、そう申しておるではないか。この場から大人しく下がって療養したまえ」
オレの発言の尻馬に乗り、アリシア皇帝がレリオネラ太皇太后に対し高圧的に退出を提案すると、聖神官がやんわりとそれを制止する。
「皇帝陛下、しばしご猶予を。まだ、私の確認は終わっていません」
「この期に及んで何を確認すると言うのだ?」
ネヴィア聖神官が続行を提議したので、アリシア皇帝は訝し気な表情になる。
「ええ、もう少しだけお時間をいただきたければと存じます」
聖神官の目に一歩も引かない意志を感じたのか、アリシア皇帝は投げやりに顎をしゃくった。
ネヴィア聖神官はそれに対して丁寧に頭を下げると、再び上位者である妹に向き直る。
「レリオネラ太皇太后陛下。貴女様がその娘をアリシア皇女と信じていることは、大変よく理解しました。また、人伝ですがアリスリーゼで一目お会いになった時からアリシア皇女と疑いもしなかったとも聞き及んでいます」
聖神官に真正面から見つめられ、レリオネラ太皇太后はスッと視線を落とした。
「私自身も役目を離れ個人となれば、そうであったならと思うことは無くもありません。しかし、血統裁判やその他の事実から、その可能性を否定せざる得ません。もし、それを覆す何かが……貴女様がその娘をアリシア様と断ずる理由がお有りならば、ぜひご教授願いたいのです」
目を伏せている妹に向かって、ネヴィア聖神官は優しいけれど、はっきりとした口調で問いかける。
「帝国の……いや、君の身を案じるその優しい娘のためにも真実を明かしてほしい」
「待ってくれ、聖神官!」
気が付いたら、オレはネヴィア聖神官とレリオネラ太皇太后の間に割って入り、お祖母様を守るように立ちはだかっていた。
だって……。
あの誇り高いお祖母様が唇をかんで俯いていたんだ。
手だって、ぎゅっと強く握りしめている。
誰だって人に言いたくないことや秘密にしたいことがあるのは当たり前なんだ。
だから……オレは。
「聖神官、お祖母様を苦しませないでやってくれ。オレのことはどうだっていいんだ」
「リデル……君は……それでいいのか?」
「ああ、構わない。オレは今のままで十分だ。ただ……」
チラッとアリシア皇帝に目を向けてから続ける。
「友達や仲間に手を出さないでいてくれたら、オレとしては何も文句はない」
そう、アリシア皇帝。あんたが捕らえているクレイを返してくれれば、そもそもこの場にオレはいなかっただろう。
皇帝の地位なんて始めから望んじゃいない。
オレは自分の目の見える範囲の幸せがあれば、それで良かったんだ。
あんたと敵対したいなんて、これぽっちも思っていなかったさ。
ただ、ほうっておいてくれたら、何の問題もなかったのに。
ぶちまけたい言葉をぐっと堪えると、オレはお祖母様に――言いたくないことは言わなくていい――そう、言おうとした矢先、オレの背中越しに静かな声が聞こえた。
「全てをお話しますわ、ネヴィア聖神官……いえ、ネヴィ兄様」
ごめんなさい(>_<)
告白にたどり着きませんでしたw
真相解明は次回に持ち越しとなりました(←たぶん)
このペースなら今年中には完結しそうな気が……。
あ、でも今章を書くためにアリスりーせ編を読み返したけど、なんと3年も前でびっくりしました。あの時、折り返しって言ってたような……(;一_一)




