告白……①
突然、名指しされて戸惑うオレに参加者全員の目が注目する。
「リデル様、こちらへおいで下さい」
ネヴィア聖神官はオレを促すと、誘導するように先へ立って満座の中央に進んだ。
一同の食い入るような視線に冷や汗をかきながら、オレはあたふたと聖神官の後ろに続く。
「リデル様、ベールをお上げになって尊顔を皆様へ」
言われるままにベールを上げ、素顔を晒す。
「おお、本当にあの娘だ」
「偽皇女が何故、この場に?」
「逃げたのではなかったのか」
出席者から驚きや戸惑いの声が上がる。
全くもって同感だ。
聖神官の爺さん、いったい何を考えているんだか。
こんな展開なんて予想外だし、どうすんだ、これ?
「ネヴィア聖神官、これはどういうことか?」
押し殺した怒りを滲ませながらアリシア皇帝が聖神官に理由を求める。
「お困りでいるところを我々が保護しましてな。親しくしていた知人の娘さんでもありましたから、ご助力差し上げるのは当然でございましょう。そして、陛下とも何かとご縁のある娘ですので、ここへお連れした次第で……」
ネヴィア聖神官がのらりくらりと質問を躱すと、アリシア皇帝はため息をつくとオレを睨んだ。
「お前、何故ここにいる?」
「いやあ、オレも何が何だか……」
「痴れたことを申すな!」
そう、殺さんばかりの目でオレを睨むなって。
オレだって訳わかんないんだから。
知りたいのなら、そのドヤ顔している爺さんに聞けよ。
「よくも私の前に、おめおめと顔を出せたな。あの場では見逃してやったものの今回は、そうはいかぬぞ」
そんな血相変えてまで怒らなくたっていいのに……。
オレだって出したくて出したわけじゃないんだからさ。
それにそんな風に息巻いても、この会議場にあんたの配下の兵なんてごく少数でしょ。
そもそも聖神官の保護下にあるオレに手を出すなんて、実際不可能だと思うけど。
けれど、血統裁判に参加した面々は皇帝の発言が口先だけで終わらないことを感じて、探るような視線をオレへと向ける。
「お初にお目にかかります、リデル様。お噂はかねがね伺っておりました。リシュエット・アールグレイスと申します。以後、お見知りおき願います」
そんな微妙な空気の中で、初見のリシュエットだけは、にこやかな表情で恭しくオレに頭を下げてきた。その様子が気に障ったのか皇帝はリシュエットにも鋭い言葉を浴びせかけた。
「リシュエット全権大使。よもや、このような下らぬ謀には関わっておられぬだろうな」
もし、そうならただでは置かないぞという言葉が言外に含まれているのを感じた。
「まさか、私は何も知りませんよ。ただ、偽皇女だったというリデル様に、かねてより興味があっただけですので……」
そう言ってオレを見てにこりと笑ったので、オレも同じように笑顔を返す。
「初めまして、噂のリデルです。こちらこそ、よろしく……って、もう会わない可能性が高いけどね」
「そんなことはありません。もし、イオステリアに安息の場がないなら、フォルムスが歓迎いたします。ぜひ、おいでになってください」
こほんと咳払いしてネヴィア聖神官が困ったような顔をして言った。
「リシュエット全権大使、リデル様の勧誘はご遠慮ください。その方はイオステリアのとって大事なお方なのですから」
イオステリアのとって大事なお方……その表現に参加者の何人かがネヴィア聖神官に訝し気な視線を投げかける。
「お、お待ちください。アリシア陛下!」
と、そこにイフネル正神官の焦った声が響く。
目を向けるとアリシア皇帝が不機嫌そうに席を立つのが見えた。
明らかに退席しようとしているのがわかる。
「何だね、イフネル正神官。私はこんな茶番に付き合わされるのは、うんざりなのだ。そもそもこの場は停戦を話し合う場のはずであろう。信憑性の乏しい暴露合戦を聞くためのものではない」
「仰ることはもっともなれど、今しばらくこの場に……まだ停戦交渉が終わっておりません」
「停戦交渉は決裂で構わぬ。我が方はもとより継戦でも良かったのだ。あくまでも教皇庁の顔を立てたに過ぎない。それを聖神官自らご破算にするなど言語道断ではないか。責任は教皇庁にあると言っても差し支えあるまい」
イフネルの制止を振り切って、退出しようとするアリシア皇帝にネヴィア聖神官が残念そうな口調で声をかける。
「陛下、ご退席するのは構いませんが、きっとご後悔なされますよ。今より、イオステリア帝国の将来を決める大切な話し合いが行われる筈ですから……」
「筈……?」
アリシア皇帝は、言葉尻を捉えて立ち止まった。
「どういうことか、ネヴィア聖神官。これはお前が謀ったことであろう、何故仮定の話になるのだ」
「それも含めて、詳しくお話しいたしますので、どうか元の席にご着席ください」
アリシア皇帝は胡散臭そうな目でネヴィア聖神官を睨みつけたが、
「……時間を無駄にしたくない。手短にせよ」
とだけ言うと不承不承、席に座り直した。
「それでは皆様方、停戦会議より少し逸脱しますが停戦にも関わることでもあります。話を続けてもよろしいですかな?」
ネヴィア聖神官は、笑みを浮かべながら参加者一同を見渡した。
皆の反応が気になったオレも、ついでに参加者たちの表情を窺ってみる。
まず教皇側、ネヴィア聖神官は置いておいて、教皇第一主義のハグバート教導騎士団長は教皇やイオラート教に関することではないせいか、さして興味がないようで無口のままでいる。
イフネル正神官は与えられた議事進行を上手く回せず、アリシア皇帝がいつブチ切れるか気が気でない様子だ。
皇帝側に目を移すと、アリシア皇帝は不機嫌そうな表情でオレを睨んでいるし、ケルヴィン宰相は思わぬ展開に落ち着かない感じ。デイブレイク近衛軍司令は好意的な目をオレに向けている。久しぶりに会ったけど、オーリエとは上手くいっているのだろうか。
パティオ大神官もネヴィア聖神官の突然の行動に驚いているらしくハラハラした表情を見せているし、宰相補のフェルナトウさんはよく知らない人だけど、無表情に徹していた。
一方、カイロニア・ライノニア両陣営は帝国参事会で会ったことがある人たちばかりだったけど、オレに対する反応はその時とほぼ同じだ。好意的・否定的・無視……そんな感じに綺麗に分れている。
そして初見のフォルムス帝国、アルセム王国の反応は見事な対極を見せていた。
フォルムス帝国はリシュエットのオレに対する好感度が何故かMAXのため、非常に友好的だ。逆に権威と伝統を重んじるアルセム王国は出自のよくわからないオレに懐疑的な様子だ。
とにかく参加者の面々は様々な思惑を持ちながら、ネヴィア聖神官の次の一言を固唾をのんで見守っている……そういう状況にあった。
ネヴィア聖神官は、その様子をゆっくり眺めてから、おもむろに口を開いた。
「それでは、この件について詳しく事情を知る方をお招きしています。今、お呼びしますので、しばしお待ちくださるよう願います」
ネヴィア聖神官が目配せすると、イフネル正神官は頷いて、すっと立ち上がると背後にある扉へと近づき別部屋に待たせていた人物を会議場に招き入れる。
その人物の姿を一目見た一同から驚きの声が上がった。
新章、突入です。
いよいよ解決編ですw
ネヴィア聖神官のターンが、まだ続きます。
あ、とうとう700万PVを超えました。
これも読んでくださっている読者様のおかげです。
本当にありがとうございましたm(__)m




