思いがけない結果……⑦
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「さて、先ほど私は御子の存在を証言できる人間が生き残っていると話しました。その者は産まれた御子のお世話をしていた侍女のコルタと申す者です。大変、有能な侍女であったようで御子の失踪後もメルトリューゼ家で引き続き働いていたと聞いています。現在は高齢を理由に職を辞していましたが、メルトリューゼ子爵領に存命でいるところをフォルムス帝国軍が身柄を確保しました」
「そのコルタという侍女の存在が、ぜひ報告したい事柄であると?」
ネヴィア聖神官が、やや期待はずれな面持ちでリシュエットに聞き直す。
「ええ、その通りです」
答えるリシュエットは自信ありげな表情だ。
「侍女のコルタはデュラント神帝がフォステーヌの出産のために帝都から、わざわざ呼び寄せた人物なのです。しかも……」
リシュエットはアリシア皇帝に向き直って言葉を続けた。
「元々は帝都の皇宮でデュラント四世……アイル皇子付きの侍女だった人物です」
産まれた皇子を皇后が育てることは、めったにない。
選ばれた乳母や皇子付きの侍女たちによって育てられることが多いのだ。
つまり、そのコルタという侍女はアイル皇子の身近にいた人間ということになる。
実は本物のアイル皇子のことは、あまりよく知られていない。
と言うのも病弱のため皇宮から、ほとんど出ることがなかったからだ。
それどころか、ごく限られた人物しか会うことができず、皇宮でも謎の存在だったらしい。
オレの親父が皇子の身代わりになってもバレなかったのも、顔がそっくりだったせいもあるが、そういう背景があったことも大きいようだ。
「彼女から聞いた当時のアイル皇子に関する証言は、大変興味深いものでした。例えば、世間一般によく知られている、アイル皇子は産まれた時から病弱であったという話は正しくないそうです。熱はよく出しましたが、元気いっぱいで少しやんちゃなところのある御子だったそうです」
それは意外な話だ。
オレもそうだけど、誰もがアイル皇子はずっと病弱だったと信じ込んでいた。
だから、ライル・カイル公子が跡目を巡って世継ぎ争いをし、オレの親父が活躍した際には、その美丈夫ぶりに世間を驚かせたものだと思っていた。
「アイル皇子は7歳で刻血の儀をつつがなく行い、晴れて帝室の一員と認められました。このまま順調に成長していくものと周囲は信じて疑いませんでした。ところが10歳を迎えたある日、アイル皇子は突然、病魔に襲われたのです」
その話はクレイから聞いた覚えがある。
何でも生死を彷徨う大病を患って、大がかりな魔法治療が行われたという話だ。
そういう治療が行われた際、血の構成が変わることがあると血統裁判でクレイが熱弁を奮っていたっけ。
なんだか、ずいぶん昔の話のように思える。
おっと、リシュエットの話の続きを聞かなきゃ。
「その病は生死にかかわるもので、当時の宮廷医術師達が総力を挙げて治療を行いましたが、治癒することは叶いませんでした。このままでは、世継ぎである皇子の命が危うい。進退窮まったデュラント神帝はある決断をしました」
「決断……ですか?」
聖神官が訝し気な顔でリシュエットを見つめる。
「はい、神帝は帝国の秘宝である『イオの聖石』を使用することを決めたのです」
せ、聖石だって?
確かに奇跡を起こせる『聖石』なら皇子を助けることが出来たかもしれない。
「し、神帝は『聖石』を使われたのですか?」
「ええ、皇子の命を救うため、神帝は貴重な『聖石』を惜しげもなく使用なさいました。けれど……ここにお集まりの方ならご存じでしょうが、『聖石』は絶対ではありません。『聖石』の質によって効果に隔たりがあるのも事実です」
それもトルペンに聞いたことがある。
確か『聖石』ごとに起こせる奇跡の大きさや回数が異なっているそうだ。
しかも、一度使ってみないと『聖石』の質がわからず、願いが叶わなかったり、思った効果が得られないこともあるらしい。
例えば、ランクの低い『聖石』に『世界最強』を願い、願いの回数を無駄にするとかだ。
正直に言えば、あの迷宮の『聖石』にオレが叫んだ大それた願いは叶わなかった公算が高い。
そして、強くなったと思い込んで武闘大会でボロ負けした姿が目に浮かぶほどだ。
「結論から申せば、『聖石』の力でアイル皇子は生き延びました。けれど、死ななかっただけです。いや、死ねなくなったのです、致死の病を抱えたまま……」
リシュエットの言葉に一同が息をのんだのがわかった。
「生き永らえたアイル皇子はベッドから起き上がることもできず寝たきりとなりました。その日からコルタ達侍女の毎日の仕事は皇子の介護となったそうです。そして、偽物のアイル皇子が現れ、数々の武勲を立て救国の英雄となっていく間も彼女達の仕事は続きました。けれど、偽皇子が国民の歓喜の声を浴びながら新皇帝に即位した日、唐突にコルタ達の役目は終了したのだそうです」
聖神官を始めとする参加者が唖然としている中、アリシア皇帝だけが無表情のままリシュエットを睨みつけていた。
「本物のアイル皇子がどうなったかはコルタ自身は知らないそうです。むしろ知ってはならないと思っていたようです。また、帝国の闇を知ってしまった自分や他の侍女達の身の危険を感じていたこともあり、デュラント神帝からのメルトリューゼ行きの誘いに一も二もなく応じたのだとコルタは話してくれました。あ、そうそう……」
リシュエットは思い出したように付け加えた。
「アリシア陛下は血統裁判でアイル皇子を慕う侍女が自分の母親だとお話しされたそうですね。その話をコルタにしたところ、確かに該当する侍女がいたそうです。献身的ですが、どこか病的で気味の悪い娘だったようです……それに根も葉もない話ではありますが、邪教を信奉しているらしいという噂が仲間内で話題になったとか」
リシュエットは一息つくと、声を失った一同を見回したあと、アリシア皇帝の鋭い視線に立ち向かうように前を向くと言った。
「最後にコルタは私に言いました。『あの状態のアイル皇子が子を為せるとは到底信じられません』と。アリシア皇帝陛下、アイル皇子の娘だと仰る貴女様は…………いったいどなた様なのですか?」
リシュエットさんのターン、終了ですw
さて、皇帝の反撃はあるのか……(>_<)
ウマ娘にはまってます。
だ、大丈夫、まだ課金してないから(;一_一)(←時間の問題)