思いがけない結果……②
誤字報告、ありがとうございます!
とても助かります。
気を付けているつもりですが、けっこうあって
驚いています。申し訳ありません。
これからも、誤字報告よろしくお願いします。
「そういうわけで、ライル公の言う私の『専横』は、いささか的外れなのではないかと思う」
アリシア皇帝がそう結論付けると、すかさずライル公爵は二の矢を放った。
「……では陛下、次にお答えいただきたいのは、我々との事前協議もなしに何故、皇帝即位をいきなり執り行ったかでございます」
おお、ライル公爵もなかなかどうして……形勢、不利と見るや攻め方を変えてきたぞ。
カイル公爵と遣り合った先ほどの熱を帯びた態度は、すっかり影をひそめ今度は打って変ったような冷静さで発言する。
さっきのあれも演技なのだとしたら、議論を戦わせることに長けているのかもしれない。やはり公国を一つにまとめ上げ、内戦を主導してきた人物だ、一筋縄ではいかないようだ。
「アリシア陛下もデュラント三世の残されたご神託は無論ご存じのことと思います。それを敢えて無視し、即位を強行したのは三世陛下に対する不敬の極みと言えるのではありませんか?」
ライル公は舌鋒も鋭く皇帝を糾弾する。
デュラント三世の神託というのは例のアレだ。『アリシア皇女に選ばれて結婚した相手が次の皇帝となる』とかいう迷惑千万な三世の残した遺言のことだ。
まあ、その企図については血統裁判の時にカイロニアのリセオット内政官が解説してくれたように、オレが皇女であったなら必要な措置だったと言える。
「無論、忘れてはおらぬさ。しかしな、ライル・エドワースよ。帝室典範には『帝位は皇帝の血統に属する長子が、これを継承する。また帝位継承に性別の差異を認めず』と記されておる。帝位継承権一位のわたしが即位することには何ら問題もない」
アリシア皇帝はライル公の糾弾には全く動じず、淡々と答えた。
同じ内容の話をオレも皇女時代にケルヴィンから聞いた覚えがある。
帝位継承を定める帝室典範においてアリシア皇女の皇帝即位は何ら問題はなく、むしろ正しい継承と言って間違いなかった。
「そもそもの話。あの信託は誰とは言わぬが、帝位継承者である皇女が皇帝の血を引いていないことを想定して作られたものだ。正真正銘、皇帝の血を引いている私が帝位継承者の場合、無意味なものと言ってよいであろう」
「無意味と仰るか?」
アリシア皇帝は何を今さらという口調で話したが、ライル公爵は皇帝の言葉尻を捉えた。
「アリシア陛下は三世陛下の遺したお言葉を無意味と断じられるか。しかも、あの御遺言はナウル教皇により御神託として明文化されております。二重の不敬と受け取られても致し方ありませんぞ。そうではありませんか、ネヴィア聖神官? 」
勢いを得たライル公はネヴィア聖神官に同意を求める。
「確かに教皇聖下が下された『御神託』を反故にするというのはイオラート信徒としては由々しき仕儀ですな」
ネヴィア聖神官も現状の皇帝優位を覆すためか、さりげなく皇帝批判を匂わせている。
失言とまでは言えないが、どう挽回するかアリシア皇帝の返答が見ものだ。
「これは異なことを申しますな」
アリシア皇帝は慌てる素振りも見せず、反論に転じる。
「異なことですと?」
「ええ、不敬なのは私ではなく両公爵であろうに」
「我らが不敬を働いたと?」
飛び火したカイル公爵が怪訝そうな顔になる。
「思い返していただきたい。教皇が明文化した三世の御神託を最初に反故としたのは、いったい誰なのかということを……」
アリシアの反論に、この場に参加する者たちの頭に疑問符が浮かぶ。
「……それが両公爵だと? 陛下、ご説明願えますか?」
「ええ、良いでしょう」
イフネルが代表して質問するとアリシア皇帝は快く引き受ける。
「思い出していただきたい。デュラント四世と思われていたあの偽皇帝と皇女が遭難した際、生死がはっきりしないにも関わらず、両公爵は帝国での主導権を握るべく内戦を引き起こした。そしてその挙句、それぞれが独断で皇帝に即位したと私は聞き及んでいる」
アリシア皇帝の発言に両公爵は顔色を失う。
「残念ながら、教皇は言うに及ばず、諸外国や国内からも支持を得られず、皇帝を僭称することは、すぐに諦めたそうだが、即位したことは事実。もしや、その時のことをお二人はもうお忘れか? それこそが三世の御神託を反故にした不敬ではないか。私の即位をとやかく言う前に、過去の自分達を振り返ることをお勧めする」
アリシア皇帝はライル、カイル両公爵を交互に見比べながら皮肉めいた笑みを浮かべる。
「そ、それは皇帝が不在では帝国が不安定になると思ってだね……」
「そうだとも、状況が……そう、状況が変わったのだよ。あくまで皇帝と皇女がいることが前提であったから……」
カイル、ライル両公爵は過去の失態を暴かれた形にしどろもどろとなる。
「ほう、皇帝不在で帝国が不安定? 状況が変わった? それは私が即位した時点と、どこが違うのかね。お二人が不敬でないなら、私も当然不敬とは見なされないでしょう。そうですね、ネヴィア聖神官?」
「陛下の仰る通りですな」
ネヴィア聖神官は驚きの表情でアリシア皇帝を見ていたが、その眼には賞賛の色が見て取れた。
ネ、ネヴィア聖神官、感心している場合じゃないよ。
このままじゃ、皇帝陣営有利で押し切られちゃうって。
「どうだ、ライル・エドワース。潔く負けを認めたらどうか。さすれば、ライノニアは存続させてやってもよい。幾ばくかの領地の没収と賠償金を覚悟せねばならんが……」
アリシア皇帝はライル公爵に降伏を進めたあと、フォルムス帝国・アルセム王国の代表者に目を向ける。
「本来なら、帝国を侵犯したその方達の国に賠償金を要求したいところだが、今回は不問にしよう。ライノニアに乗せられた面が大きいからな。逆にライノニアより賠償金を得られたら、その中から撤兵にかかった資金を工面してもよいとさえ考えている。今ならそれで手を打つことも可能だぞ。ぜひ熟考をお願いしたい」
両国全権大使は、相手の考えを読もうとするかのように、互いの顔を見合わせながら口を噤んだ。
何だか、あっという間に2月が終わりそうで驚いています。
今月はいろいろあって、目まぐるしい月でした。
完結が見えてきたので、次回作の構想を練ってます。
並行して書き溜めようと思っていますが、なかなか上手くいきません(>_<)
ラブコメ・SF・ハイファン・現代ファンタジー、BL(笑)の5作品で悩んでます。
どうしようかなぁ……。