停戦会議へ……④
いつも誤字報告ありがとうございます。
とても助かっています。
無いように気を付けますが、これからもよろしくお願いします。
「ふう、一応何とかなったか」
仮面の連中を馬車の外へ叩き出して振り返ると、ネヴィア聖神官たちはぐっすりと眠ったままだった。ソフィアの神官服の上からもわかる豊かな胸が規則正しく上下に揺れているのを確認してオレは、ほっとする。
霧の作用が睡眠で良かったよ。
これが致死性の毒だったら、オレ以外生き残っていなかったもしれない。
少なくとも連中の目的が全員皆殺しでなくて助かった。
「とりあえず、外の様子を見るか」
オレは周囲を確認するために馬車の外へ出てみた。
相変わらず、外は一面濃霧だった。
並走していたヒューの姿さえ見つけることができないぐらいだ。
「襲ってきた連中を確認す……」
その刹那、白い霧を切り裂いて何かがオレめがけて斬りかかってきた。
オレは、とっさにテリオネシスの剣で受ける。
キンッ。
金属がぶつかり合う甲高い音が鳴るが、相手はすぐに剣を引いたのか姿が見えない。
どうやら霧に紛れて攻撃したきたらしい。
「まあ、そうだよな。ここまで仕掛けをして、あんな連中の襲撃だけで終わりなんてお粗末すぎるもんね」
オレは剣を構えると周囲に気を配る。
辺り一面、白一色。
どこから斬りかかってくるかは見当もつかない。
来る……!
背後から、いきなりオレの頭めがけて斬撃が飛んだが、オレは後ろも振り向かずに両手を上に上げ、それを受け止めた。
次の瞬間、オレはすかさず前方に数歩進むと、振り向きざまに剣を横なぎに払う。残念ながらその刃先は霧を切っただけで相手には届かない。
そこからは、見えない相手の斬撃をオレが受け、隙あらば斬りかかるが空を切る……その繰り返しだ。
いやあ、師匠との修練がこんなところで役に立つとは思わなかった。闇夜での対人戦闘を想定して、目隠しして戦闘訓練を繰り返したからね、この状況を学習済みだ。
黒が白に変わっただけと言っていい。
けど、それにしても霧の中の奴、相当の遣い手だ。
オレの手応えでは、確実に何度かは致命傷を与えてもおかしく無いはずなのに、ことごとく避けられている。
こんな状況とはいえ、師匠との鍛錬で成長した今のオレと対等に戦えるなんて、いったいどんな奴なんだろう。
(どうやら、お困りのようですが、お手伝いしましょうカ?)
不意に、頭に中に聞きなれた声が響き、オレはビクッとする。
思わず反応してしまい、危うく敵の攻撃を避けそこなうところだ。
「お、驚かすな、トルペン。近くにいるのか?」
(はい、馬車の上におりますデス)
チラリと見ると馬車の上にぼんやり青い人影が見える。
「じゃあ、この霧なんとか出来るか」
(お安い御用デス)
その言葉が聞こえた後、馬車の上の青い人影が何やら呪文を唱え始める。
が、次の瞬間、そこを中心に渦を巻くように突風が吹いた。
それは猛烈な勢いで、辺りの白い霧を次々と吹き飛ばしていった。
「わわ……っ」
ついでにオレの神官服も風で吹き上げられ、慌てて押さえたけど、あられもない恰好になってしまう。
誰にも見られなくて良かった。
って、目の前の奴に見られたかも。
恥ずかしくなったオレは、今まで戦ってきた相手の方へ目を向ける。
「は?」
そこには想像を超える相手がいた。
「な、何だ、これ?」
オレの戦っていたのは人間ではなかった。
いや、生き物と言えるのかどうか微妙だ。
霧が晴れたそこにいたのは、白くて細い棒状の身体に長い手足が付いた人型の魔物。かろうじて頭の部分が膨らんでいるので、そこが頭だとわかる。言ってみれば棒人間みたいな奴だった。
なるほど。さっきから、攻撃が当たらないわけだ。
骨格しかない身体の上、見ていると手足がびょ~んと伸びるみたいなので、オレは見当違いのところを斬っていたようだ。
「アアアア……?」
突然、霧が晴れたせいで棒お化けの奴も戸惑っているようだ。
命令通り攻撃を続行するか否かで迷っているのだろう。
けど、そんな隙オレが見逃すわけがない。
一足飛びに詰め寄ると袈裟懸けに奴を切って捨てる。
姿が見えれば、こんな奴、脅威でも何でもない。
哀れ、棒お化けは上下に両断されると地面にガラガラと転がり落ち、動きを止めた。
そして、しゅうしゅうと音を立てて煙を放つと、やがて霧のように消える。
「トルペン、ありがとう。助かったよ」
オレは剣を納めるとトルペンに礼を言う。
「どういたしましてデス。あと、霧も晴れてきたようデスネ」
言われて周囲を見渡すと霧がどんどん晴れていくようだ。
襲撃が失敗に終わり、術を解いたのかもしれない。
「しまった、やられた」
気が付くと襲撃者の神官服の男達の姿がどこにも見えなくなっていた。
そうか、さっきの棒お化けはあいつらを回収するための囮だったのか。
まんまとしてやられた。
(では、残念ですが、我輩はこれで……)
「え? トルペンどっか行くの?」
オレが地団駄踏んでいると、トルペンの声が聞こえた。
「はい、他にやることがありますノデ……。ピンチになったら、また呼んでくださいネ。それでは、また停戦会議ニテ」
「そうか……今回は助かったよ。じゃ、また後で」
オレはすっと消えたトルペンを見送ったあと馬車に戻ると、ちょうど聖神官たちが目覚めるところだった。
「おや、リデルさん。私たちはいったい……?」
どうやら、自分たちが眠っていたという意識は無いようだ。
「たった今、襲撃を撃退したところさ。残念ながら、襲った連中は取り逃がしたけど」
「な、何ですと」
驚くネヴィア聖神官に事の次第を説明する。
「…………そうですか。リデルさんのおかげで命拾いしたようですね」
「ありがとうございます、リデル様」
一歩間違えば殺されていたネヴィア聖神官やソフィアは心から感謝してくれたけど、一緒にいる秘書官は半信半疑の面持ちだ。
まあ、襲撃のことはオレが主張しているだけで、トルペン以外に目撃者がいない状況だし、結局何の被害も出ていない上、犯人も捕まっていないから虚言と疑われても仕方がないかも。
ん、待てよ?
もし、襲撃が成功していて馬車のみんなが殺されオレも連れ去られていたら、聖神官殺しの犯人はオレになっていたのではないだろうか?
そうなれば、停戦会議は流れ、オレも聖神官殺しの重犯罪者として世界中からお尋ね者として追われる身になっていたかもしれない。
特に身内を殺された教皇領とアルセム王国はオレをきっと許さないに違いなかった。
考えただけで、ぞっとする結末だ。
白い霧の効果がオレに及ばなくて本当に良かったと思う。
「大丈夫でしたか、リデル?」
「うん、何とかね」
意識を取り戻したヒューが心配そうに聞いてきたので、オレは大丈夫だと笑顔を見せる。
最後まで意識のあったヒューは事の重大さに、当然気付いていた。襲撃の事実を証言すると言っていたけど、無理やり止めさせる。
オレとしては事を荒立てたくなかったし、信じくれる人がいればそれで満足だったからだ。
それにしても、最初は護衛だなんて思ってたけど、こうしてネヴィア聖神官を守ることが出来たことに、オレは自分自身の幸運に感謝した。
気が付けば、1月も半ば。
なかなか、停戦会議にたどり着けません(>_<)
ど、どうしよう……。
しかも、見たい冬アニメが目白押しで時間がない(←おい)
が、頑張ります!