停戦会議へ……③
誤字報告ありがとうございます。
とても助かっていますので、これからもよろしくお願いします。
「どうかしましたか、リデル」
「オレの剣を……」
馬車の扉を開け放ち、身を乗り出してヒューに声をかけると、ヒューはオレが言い終える前に自分の愛馬に括りつけていたテリオネシスの剣を外して、オレの方へ向ける。
「投げますよ」
「うん、頼む」
オレ達が乗る馬車に速度を合わせたヒューは、タイミング良くテリオネシスの剣を投げて寄越した。
オレが両手でキャッチし馬車の中に取り込み、いつでも抜ける態勢を整えると、ネヴィア聖神官は驚いて目を丸くする。
「いったい何事ですか、リデルさん?」
「……何かが来た。それしかわからない」
「え? 何かですと」
オレの曖昧な言葉にネヴィア聖神官は訝し気な表情をする。
「ヒュー!」
外にいるヒューにもう一度、声をかける。
「ここにいます」
ヒューは馬車のすぐ横を並走し、オレの指示を待っていた。
「霧が出てきた」
「霧……確かに前方は白い霧に包まれているようですね」
先ほどの霧雨はすでに止んでおり、いつの間にか白い霧が行く手を塞いでいた。
「こんな町中に急に濃い霧が出てくるなんて、どう見ても怪しいと思わないか」
「リデルの言う通りですね」
ゾルダート教の導師が怪異を使うことは、俺自身が散々痛い目に遭っているので、身に染みてわかっている。
勘違いでなければ、このあと面倒なことが起こるに違いなかった。
ちなみに今回の行軍の隊列は、前衛に教皇領から随伴してきた聖神官護衛用の神殿騎士、続いてネヴィア聖神官の乗る馬車、それに随行する神官たちを乗せた馬車、後衛に中央大神殿の神殿騎士という陣形となっている。
ネヴィア聖神官の馬車には聖神官本人とその秘書官、そしてオレとソフィアが同乗していた。
「ネヴィア聖神官猊下、申し訳ありません。霧のため視界が不良なので馬車を止めさせていただいてよろしいですか?」
進行方向を見つめながら御者が申し訳なさそうに申し出ると、聖神官がオレの方を見たので、大きく頷いて見せる。
「ああ、構わない。君の判断に任せよう」
「かしこまりました」
ネヴィア聖神官の許可を得て、御者はゆっくりと速度を落とし始めた。
気が付けば、前方を進む護衛の神殿騎士団は、すでに霧に包まれ見えなくなっている。互いに掛け合っている声の様子から、どうやら彼らも急な霧に戸惑い、進みを止めているようだ。
「まったく珍しいですね。この地で、このような天候とは」
聖神官も不安そうに馬車の窓から周囲を見回す。
「ヒュー、完全に止まったら馬車から離れないでくれ」
「了解です、リデル」
オレは周囲を警戒しながら、テリオネシスの剣を無意識にぎゅっと握っていた。
やがて、辺り一面が霧に包まれるのに合わせるように馬車が止まる。すると前方や後方で、何かが倒れる音や金属が擦れる擦過音が聞こえた。
「ヒュー、何か聞こえないか……って、おいヒュー大丈夫か!」
物音のことを話そうとヒューを見ると、馬上で苦し気な表情をするヒューに気が付く。
「だ、大丈夫です……が、急に耐えきれないような睡魔が襲ってきています」
「睡魔だって?」
その言葉に慌てて振り向くと、馬車の中にいるネヴィア聖神官、秘書官はもとよりソフィアまで倒れ込んで眠っていた。
「しまった、この霧のせいか」
「リデル……あ、貴女も気を付け……」
抵抗していたヒューも、がくりと馬上に倒れ伏した。
ヒューまでも寝ちまうとは……。
ゾルダート教の連中の仕業に間違いない。
けど、どうやらオレには効かないみたいだ。
致死性の毒じゃないから、普通に効果を及ぼすかと思ったけど、大丈夫らしい。
酒を飲んだら眠くなるのに……実に不思議だ。
それにしても、いったい奴らの目的は何なんだ?
ネヴィア聖神官の暗殺か?
もしかしたら、例の皇帝への退位の件がどこかで漏れたのだろうか。
ネヴィア聖神官が亡き者になれば、皇帝退位は免れるし、停戦会議はお流れになって内戦は続行するかもだけど、アリシアが得になるとは限らない。
アルセムが参戦して戦力は拮抗しているし、教導騎士団の存在も不確定要素だ。
う~む、よくわからん。
敵の意図が読めないと、どう対応していいか見当もつかない。
いったい、どうしたものか?
オレが頭の中で試行錯誤していると、何者かが近づいてくる足音がした。
よし、よくわからんけど、こうなったら……。
「オレも寝た振りしよう」
オレは剣を抜ける状態のまま、ばたりと倒れ込んで眠った振りをした。
◇
しばらく待っていると、馬車の扉が音もなく開いた。
薄目で見てみると、泣き笑いのような奇妙な面を付けた灰色の神官服を着た連中が数人、馬車の中を覗き込んでいる。
「ぐっすり寝てます」
「見ればわかる。時間が無い、手筈どおりやるぞ」
「了解です」
上官らしい怒った顔の面の男が部下たちに指図すると、連中は馬車に乗り込んで来た。
「神官服の女以外、全員殺せ。とくに爺は確実に止めをさせ。神聖魔法で治られたら敵わんからな」
「神官服の女は二人いますが、どっちです?」
「ちっこい方だ」
むぅ、悪かったな、ちっこくて。
「何で、こっちは殺さないのですか?」
「殺しても死なんらしい。縛って連れて来いとの話だ」
「そ、そんな人間いるんですか? それにこの娘、めちゃくちゃ綺麗ですよ」
「いい加減にしろ。とっとと仕事をこなせ」
「わ、わかりました」
部下の泣き顔面の男は、恐る恐るオレに手をかけようと近づく。
次の瞬間、オレはテリオネシスの剣を抜きながら、剣の柄で泣き男の顎を打ち抜いた。
「ぶげっ……!」
ごめんよ、ネヴィア聖神官たちを助けなきゃいけないんでね。
「おい、おま……ふがっ」
泣き男は、そのまま気絶し吹き飛んで、上官の顔めがけてぶつかって行った。
オレはそれを尻目に見ながら、聖神官やソフィアを刺そうと乗り込んで来ていた男たちを次々に叩き伏せる。
一呼吸の間に仮面の男たちは、すべて無力化していた。
急激に寒くなりましたね。
コロナ禍も酷くなってきました。
皆様方もお気を付けください。
まあ、気を付けていてもなるときにはなりますかからね。
私も基礎疾患があるので、気を付けます。
あと、感想……いつも待ってます。よろしくお願いします。
か、会議までが長い……w




