停戦……⑥
「おや、どうかしたのかい?」
オレが固まったのを見て、イクスが不思議そうにする。
ネフィリカはともかくオーリエとは、イクスもオレの皇女候補時代に黒猫に化けている時に会っているはずだが、さすがに覚えていないらしい。
いや、それとも忘れている振りをしているだけなのか? 基本的にイクスのことは疑ってかかった方が賢明だ。
「リデル様」
イクスを無視してソフィアが期待に満ちた顔でオレに問う。
「これは逆にチャンスではありませんか? 皇宮内のお二人に何らかの方法で協力を頼めればクレイ様奪還は成ったも同然のように思えますが……」
たしかに協力を頼めれば……だけど。
「どうだろう、それは無理なんじゃないかな」
「え、それは連絡を取るのが無理ということでしょうか。それなら、私が一命に変えても……」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「そういう意味ではない?」
ソフィアは怪訝そうな顔をするけど、オレとしては確信がある。
「うん、二人の立場や性格的に難しいと思うんだ。ね、そうだろ。ヒュー?」
オレと同じように難しげな表情をしているヒューに話題を振る。
「ええ、私もリデルと同じく期待できないと思います。二人はよく言えば真面目で理を重んじるタイプです。が、悪く言えば融通の利かない頑固者です」
うん、確実にヒューもそのタイプだよね。面と向かっては言わないけど。
「ええ、確かにお二人ともそういった面はおありかと思いますが……」
まだ納得してないソフィアにオレが補足する。
「ネフィリカもオーリエもオレが頼めば、きっと便宜を図ってくれようとすると思う。けど、皇宮の警備という仕事を放棄までして協力するようなことは絶対にしない。受けた仕事をきっちりこなすのが彼女達の信条だと思うんだ」
ネフィリカには傭兵として『契約を守る』という職業倫理、オーリエには『約束は必ず守る』という性格的なものというか自分に科した騎士の誓い的なみたいなものを感じる。
その違いはあるけど、どちらにしても情に流されて仕事をないがしろにして協力してくれるとは、到底思えなかった。
「だから、イクスの言う通り警備は強化され奪還計画は困難になったと考えていい。むしろ知り合いなだけに無体な真似は出来なくなった分、より困難になったと言える」
ネフィリカのアルサノーク傭兵団の構成人員は、オレ達のせいで『流浪の民』から出ているからソフィアの身内と言ってよかったし、裏切り者として手配されているオレやソフィアに協力してくれるとは考えにくい。
やはり、クレイ奪還計画は最初から練り直さなくてはならないようだ。
「そんな……」
期待した分、当てが外れてソフィアは、がっくりと落ち込んだ。
「はは……結局、僕の言った通りという訳だね。けどさ、君の当初の計画のように極力、警備人員を殺さないようにっていう縛りがなけりゃ、何とでもなるよ」
「どういう意味……だ?」
「全員皆殺しにするなら、何も悩む必要はないってことさ。君たちが侵入する前に全部片付けておけば関係ないでしょ」
まるで簡単なことのように「皆殺し」を提案してくるイクスにオレは愕然とした。
確かに奴の能力なら、それくらい容易いことかもしれないが、そういった発想が出てくること自体が信じられない。
最近、親し気に話してくるんで忘れていたけど、こいつはやっぱり敵で人間ではない生き物だと実感し、背筋が寒くなった。
「……却下だ。それと、この際お前との協力関係もこれまでにしたい。今まで、いろいろありがとう。感謝してる」
「ちょ、ちょっと待ってよ。何なの、いきなり……」
「皇宮への侵入は諦めて別の方策を考えようと思う。それならイクスの協力も必要ないし、これ以上イクスに迷惑もかけられないからな。ちょうどキリが良いと思ってさ」
「いやいや、全然別に迷惑と思ってないから、引き続き協力し合おうよ……」
イクスは情けない声を出して、協力続行を懇願する。
ソフィアはイクスとの手切れに絶対賛成の顔をしているが、ヒューは違ったようだ。
「ここでイクスを切るのは早計かと思います」
「ヒュー様?」
ソフィアは恨めし気な表情でヒューを睨んだ。
「今後の方策次第ですが、皇宮に侵入する可能性は皆無ではありません。その時点で有利に物事を進めるためにも、彼を味方につけたままにしておくのは得策だと思います」
むむ……ヒューが言うと、やっぱり説得力が違う。
一理あるように思えてくる。
本心では、この恐ろしい生き物と距離を置きたいと気持ちでいっぱいだったが、ヒューの意見も尤もに聞こえた。
しかもヒューは意味ありげな視線をオレに向けてくる。
ん? ここでは……というよりイクスの前では話せないことなのだろうか。
「お前、いけ好かない弱虫だと思ってたけど、意外といい奴だったんだな」
イクスはヒューの言葉尻に乗っかると捲し立てた。
「ね、リデル。この騎士の彼もこう言ってるんだ。も少しの間、仲良くしようよ。決して、君の損にはならないから。何ならクレイ君の居場所を突き止めてくるから……」
「それ、ホントだな!」
「えっ……うん、本当だよ……」
「わかった。それなら、しばらく協力関係は続けよう。けど、クレイの居場所、必ず突き止めてくれよ」
ちょっと言い過ぎたという顔をしたイクスに念を押す。
「……了解。だから、今後もよろしくね、リデル」
イクスは、にんまりと笑みを浮かべた。
すみません。今回も短めでした。
たぶん、お察しだと思いますが、絶賛体調不良中ですw
風邪というより花粉症かもしれません。
鼻と目がぐしゅぐしゅです(>_<)
皆様も急に寒くなりましたので、お気を付けください。
あと、新作短編(過去作をリニューアルしたものですが)を投稿しましたので、よろしければお読みいただけると嬉しいです。1000字以内なので、すぐ読み終わりますので……。
ちなみに「なろうラジオ大賞2」応募作品です。
「伝説の狭間に」https://ncode.syosetu.com/n3947gq/