膠着……⑦
◇
オレは朝が苦手だ。
目が覚めても、しばらくぼんやりしている。
起きたとたん、きびきび動ける人間をオレは尊敬するね。
その能力、ぜひオレに教えて欲しい。
「リデルさま~、朝食の用意ができたそうですよ!」
「ぐう……」
オレを呼びに来たイエナちゃんに返事を返すが、残念。言葉になっていない。
「あれ、まだ起きてないんですか? ずいぶん前に一度起こして差し上げたのに」
ごめん、イエナちゃん。
君の優しい起こし方ではオレを覚醒させるには至らないのだよ。
クレイなんかは、オレが丸まったシーツごと勢いよく引っ張って、オレを回転させながらベッドの下へ叩き落としたものだ。
それでも枕に抱き着いて寝ているオレに対し、窓を開け放って冷たい朝の風を入れながら、オレが寒さで震えるまで放置する鬼畜な起こし方をしていたっけ。
「ほらほら、起きてください。パティオ様を待たせることになってしまいますよ」
そう、最近は朝食をパティオとヒュー、それとイエナちゃんと一緒に取っているのだ。
ソフィアは例のごとく市中の探索に出ている。無理しないように言ってはあるけど。
「うう~っ、わかった……」
うつ伏せに寝ているオレは身体を起こそうとするが、お尻だけぴょこんと上がる。
あるぇ~、枕から顔が離れないぞ。
何の呪いだ?
「り・で・る・さま~?」
やばい、イエナちゃんの目が三角になってる。すぐ、起きなきゃ。
無理やり身体を起こし、イエナちゃんに手伝われながら、オレはのろのろと着替えを始めた。
「リデル様、おはようございます! ご機嫌はいかがでございましょうか?」
朝から暑苦しい一団の登場に、たった今食べたものが消化不良を起こしそうだ。
オレは恒例となりつつあるパティオ達との朝の会食を終え、神官見習いになったラドベルクの娘のイエナちゃんに食後のお茶を給仕してもらっていた。
「お、おはよう、ドイル隊長。体調は、まあまあかな」
オレは、今日の天気にように晴々とした表情の神殿騎士団ドイル隊長に警戒しながら答える。
「それは上々ですな。ところで……」
ほら、来た。
「今から我々と朝の修練を……」
「きょ、今日は今から予定があるんだ……ね、パティオ大神官」
ドイル隊長が用件を言う前に、オレは慌ててパティオに話を振る。
「え? …………ええ、そうでしたね」
オレの表情を察してパティオは話を合わせてくれる。
ありがとう、パティオ。恩に着るよ。
実はドイル隊長以下神殿騎士団の連中、あの一戦から毎朝オレを朝の修練とやらに誘ってくるのだ。最初は楽しかったけど、戦闘狂を自負するオレも、こう毎日だとさすがに堪える。
いい加減、勘弁してほしい。
何か、小さいころ近所の悪ガキ共に「リデルちゃん、遊ぼ!」と毎日誘われた記憶が蘇ってくるぞ。
「むむっ、本当ですか、パティオ様」
ドイル隊長は未練がましくパティオに尋ねる。
「ええ、本当ですよ、ドイル。本日は例の方がお見えになる予定ですから」
「ああ、本部の……」
ドイル隊長は得心したように頷く。
どうやら、本当に予定があったようだ。
「パティオ、例の方って言うのは?」
暑苦しい一団がオレとの修練を渋々諦めて退出して行ったのを見送り、オレはパティオに質問する。ちなみにヒューはオレの身代わりになってドイル隊長に連れ去られて行った……ごめんヒュー、君の尊い犠牲は忘れないよ。
「ネヴィア聖神官が中央大神殿より、お越しになられるのです」
「聖神官?」
確か、帝国を統べる帝国四官の一人で神殿のトップだと記憶してるけど、今までは皇帝が不在のため、空位だったはずだ。
「アリシアが皇帝に即位したから、新しい聖神官が赴任して来るってこと?」
オレが疑問を呈するとパティオはにこりと微笑む。
「よく勉強なさっていますね。聖神官は帝国にある神殿の最上位の職階であることに間違いありません。また、現在は不在であることも」
一応、皇女候補生時代に勉強したからね。
「ですが、今日おいでになるのは帝国ではなく教皇領の聖神官なのです」
「教皇領……ね」
教皇領にも聖神官っているんだ……知らなかった。
不味いぞ、授業で習ったはずだけど、全く覚えていないや。教皇領がイオラ―ト教の総本山であることだけは知っているけど。
オレの目が泳いだことに、パティオは気付かない振りをして話を続けてくれる。
「リデル様はよくご存じと思いますが、神官見習いのイエナもいますから、おさらいしましょう」
「そ、そうだね」
「ありがとうございます、パティオ大神官様」
イエナは目をキラキラさせながら、麗しい上司を見つめる。
「神殿関係者以外の方は、よく勘違いなさいますが、神殿は帝国の組織であり皇帝の支配下にあります」
「え、そうなの?」
てっきり、教皇の支配下にあって帝国から独立しているのかと思ってた。
「ですので、神殿の運営資金は寄進以外に帝国からも出ていますし、職階の任命権も皇帝陛下が握っておられます」
それなら帝国の組織とパティオが言うのも頷ける。
「ただ、任命された者を承認するのは教皇の権限ですので、皇帝の意のままにならないのが実情と言えます。ちなみに聖神官については任命するのにも教皇の推薦が必要なので、帝国から独立しているという考えも、あながち的外れでないかもしれませんね」
う~ん、言ってることは何となくわかったけど、複雑すぎてオレの理解を超えそうだ。
「なので、帝国の組織である故に皇帝が崩御されると聖神官も失職する訳です」
ああ、そうか。独立してたら、皇帝が死んでも聖神官を辞める必要なんてないもんね。
「じゃあ、今日来る聖神官は?」
「はい、先ほども申しましたが、教皇領に四人しかいない聖神官の一人、 西方管区長ネヴィア・ラサビュート聖神官様です」
なるほど、教皇領からはるばる帝都へやって来るってことか。
ん、帝国の聖神官として赴任して来ないと言うなら……。
「いったい何しに帝都まで来るんだ?」
オレの問いかけにパティオは答える。
「目的は、たぶん二つあると推測しています。一つは、この内戦の調停をどちらかの陣営から依頼されたのではとないかと」
確かに、内戦の調停を教皇が行うことは過去にもよくある話だったと記憶してる。
「もう一つは?」
それに対しパティオは困惑した顔で続けた。
「おそらく……私が聖神官に相応しい人物か試験に来るのだと……」
遅れて申し訳ありません。寒暖差にやられていますw
皆様もお気をつけてくださいね(>_<)
お絵描き能力向上プロジェクトは、着々と進行中です。
いつか、お披露目出来ればと思ってます(←口先だけ?)




