内戦、再び……⑥
血統裁判に重大な間違いがあったって?
それが本当なら大問題だ。
もしも結果に絡むようなものだったら、今後の状況に大きな影響を及ぼしかねない。
「いったい、どんな過誤があったというのです。よもや結果が翻るようなことに?」
「いえ、残念ながら結果自体に変更は無いと思われます」
パティオの報告に色めきだったヒューに、即座にパティオは否定する。
変更は無い…………ということは、オレが皇女でないことに変わりはないってことか。
「そうなんだ……重大な過誤って言うから結果に問題があったのかと思ったよ」
「申し訳ありません、リデル様。思わせぶりな発言をしてしまって……ただ、気になる点があったのも事実です。場合によっては、結果に影響を及ぼす可能性も無くはないのですが……」
どうにも要領を得ない返答だ。
いったい、どういう間違いだったんだろう。
「パティオ。もったい付けないで教えてくれ」
「ええ、そのつもりなのですが、そのためにも……あら、ちょうどいらっしゃったようですね」
オレがたまりかねて詰め寄ると、扉の外へ意識を向けたパティオが声をかける。
「どうぞ、お入りください。リデル様がお待ちかねです」
パティオの声掛けに反応して扉が開くと、そこに懐かしい人物が顔を覗かせた。
「アエル……」
「りでる、久シブリ。元気シテタ?」
部屋に入ってきたのは、高位の神官服に例の帽子を被ったアエルと、彼女と同様に神官服を着たジルコークだった。
「オレは元気だよ。アエルの方こそ、どう?」
「あえるモ元気。皆ニ良クシテ、モラッテル」
「それなら良かった。大神殿に連れて来たのはオレだから、ずっと気になってたんだ」
「りでるノ、オカゲ。あえる、毎日タノシイ」
アエルの雰囲気と、後ろに控えるジルコークの頷く様子から、本当に良くしてもらっているらしい。巻き込んだ張本人のオレとしては正直ほっとした。
けど、それよりもオレにはアエルに言わなくちゃいけないことがあった。
「アエル……この間はごめん。何の説明も無いまま、帝都から出て行って。言い訳になるけど、その余裕が無くてさ……」
「りでる……あえるノ方コソ、ゴメンナサイ。あえるノ裁定ノセイデ、りでる困ッタト聞イタ……」
アエルが申し訳なさそうに声を落とし、頭の目玉もしおしおと、うなだれる。
「ち、違うよ、アエル! 君は立派に自分の仕事をこなしただけなんだから。全然、気に病む必要は無いんだ」
「デモ……」
「少しよろしいですか、リデル様」
オレが声を大にして、アエルの仕事ぶりを評価していると、横合いからパティオが会話に割り込んでくる。
「実は、その立派な仕事について、リデル様にお話ししなければならないことがあるのです」
「どういうこと?」
不穏な台詞と改まった表情を見せるパティオに、オレも怪訝気な顔でパティオの方へ向き直った。
「ところで、リデル様。突然、話は変わりますが、ここに控えているのは私の身の回りの世話をしてくれている助神官のハガレヌと申す者です」
ホント、突然だな。何か意図でもあるのだろうか?
唐突に話を切り替えて、パティオは脇に控えていた若い少年……いや青年になりつつある神官をオレたちに紹介する。
「初めましてリデル様、ルーウィック様、そしてソフィア様。わたくしはハガレヌと申します。無知蒙昧な若輩者ですが、今後はよしなにお取り計らい願えればと存じます」
人懐っこそうに微笑むハガレヌ助神官はなかなかの美形だ。きっと、パティオのお気に入りに違いない。
あれ? でも、この顔どこかで見たことがあるような……。
「さて、リデル様。彼を見て何か気が付くことはありませんか?」
「彼のことで? そうだなぁ……」
いきなりの質問にオレは面食らった。
確かにどこかで見覚えがあるような気がするけど、すぐには思い出せない。
う~んと唸っていると、オレの困り具合を楽しそうに見ているパティオの笑顔と爽やかに微笑むハガレヌ君の笑顔が重なる。
あれ、この二人。よく見ると男女と年齢の違いはあるけど、すごくよく似ているぞ。
どう見ても近親者に思える。年の離れた弟って線か……いや、待てよ。パティオって年齢不詳だから……まさか、子供っていうことも……。
「もしかして、彼はパティオのむす……いや、弟君かな?」
途中まで言いかけたが、尋常でない殺気を感じてオレは慌てて言い直す。
「ご名答です、リデル様。彼は私の弟なのです」
「そ、そうなんだ……」
いやいや、今無理やり言い直させたよね。
それじゃ、ご名答も何もあったもんじゃないと思うけど。
「さて、普通なら誰しもが、そう思ところなのですが……」
それのどこが普通かは、よく分からないけど……とオレが密かに思っていると、パティオは不意にアエルに話を向ける。
「アエル様、確認しますが、私とこのハガレヌの間柄はどう見えますか?」
「パティオ、同ジコト何度モ聞ク意味、ヨク分カラナイ。ケド、モ一度言ウ。パティオとハガレヌは親子、間違イナイ」
アエルの返答に、パティオは勢いよくオレに振り返り「この通りなのです」とドヤ顔を見せる。
え? 今の何なの?
これが重大な過誤?
パティオとハガレヌ君が親子に見えるって、割と有りだと思うんだけど。
オレがパティオの主張を理解出来ずに途方に暮れていると、横からソフィアが助け船を出す。
「あの……パティオ様。もしかして、今のはアエル様が『姉弟』を『親子』と誤認している言いたいのでしょうか?」
「ええ、まさしくソフィアの言う通りです。重大な過誤というのは、アエル様が姉弟を親子と言い間違えるどころではなく、血の構成が似ている者なら全て親子と表現してしまうという事実が判明したことです」
シリアスな場面がパティオ様のせいでギャグになってしまったw(けど、けっこう好き)
果たして、「血統裁判」の真の結果とは……。