内戦、再び……③
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「いやあ、これはこれは……。さすがはアーキス将軍。ここまで戦況をひっくり返すとはね。いや、イーディス(ガートルード)の策が嵌ったというべきか……」
イクスは帝都外縁で繰り広げられるアリスリーゼ討伐軍・カイロニア軍とライノニア・フォルムス連合軍との戦闘を眺めながら、感心したように感想を述べた。
「近衛軍が帝都籠城を持ち堪えたのが大きいでしょうね」
ヒューも熱を帯びた瞳で戦場を見つめる。
あの後、オレたちはアリスリーゼ討伐軍から離れ、行動を別にした。ガートルードの軍に力を貸すことに躊躇を感じたのと、自分たちの行動が制限されることを嫌ったからだ。
実際、討伐軍と行動を共にした方が、いろいろ便利な面も多かったのだけど、帝都でどうせ別れることが決まっていて利用するのは、オレとしてはどうにも気が引けたのだ。
なので、ヒューにもオレたちと一旦別れることを提案したのだが、逆に討伐軍から抜ける選択をして、オレを驚かせた。
オレが止めるのも聞かず、オレたちを残して先行したアーキス将軍に追いついたヒューは直談判を行い、許可を得たらしい。
よく通ったもんだ。これから戦闘という時に、皇帝直属の高名な騎士が軍を離れるなんて士気に関わる案件だろうに。
オレの名を出さないよう、お願いしてあったので、突然のヒューの申し出にアーキスのおっさんも、さぞかし面食らったに違いない。
けど、あの義理堅いヒューが周りの誹りを受けてでも軍から離れる覚悟したのだから、アーキス将軍も薄々感づいたのだと思う。
だから、ヒューの無茶な提案を飲んだ気がしてならない。
まったく、あのおっさんもオレに甘々なんだから。
まあ、こうしてヒューと行動を共に出来るようになったのだから、感謝はすれども文句を言う筋合いではないけど。
とにかく、戻ってきたヒューと共に、討伐軍に付かず離れずの距離で帝都を目指し、一昨日ようやく帝都に到着した次第だ。
一方、アーキス将軍のアリスリーゼ討伐軍はカイロニア軍と帝都近郊で合流し、帝都の間近まで迫った。それに対し、帝都を包囲していたライノニア・フォルムス連合軍は囲みを解いて、討伐軍に相対するように軍を展開した。
そして、つい先ほど両軍は激突し、最初は数に勝る連合軍が戦況を優位に進めていたが、それは防御戦に秀でたアーキスお得意の釣り戦法で、連合軍の足並みが崩れるのを見計らい、帝都を守っていた近衛軍が突撃を行った。
帝都に対する抑えの部隊もいたのだが、不可解なほど易々と防御陣を突破され、連合軍は後背を突かれた格好となり混乱を極めた。
すぐに挟撃の不利を悟った連合軍は撤退を試みる。ライノニア軍の指揮官である猛将グルラン将軍の苛烈な突破攻撃により、かろうじて連合軍は撤退に成功するが、グルラン将軍は激戦の中、戦死してしまった。
現在、討伐軍・カイロニア軍は追撃は行わず近衛軍と集結中であり、連合軍は撤退中という状況にある。
「どうしました、リデル。浮かない顔ですが?」
オレが悲痛な表情で黙っているのに気付き、ヒューが心配して声をかけて来る。
「うん……」
黙したままのオレの視線の先を見てヒューもやるせない表情になる。
撤退中のフォルムス帝国軍が撤退を有利に運ぶために、帝都周辺にある貧民街に火を放ったのだ。帝都を守る立場のアーキス達に鎮火を強制し、追撃を断念させる意図らしい。
ここからでも、逃げ惑う住民の姿が目に入る。
「酷いことをしますね。市民を巻き込むなんて」
ヒューが憤慨するとイクスは興味無さげに反論する。
「仕方ないんじゃない、戦争なんだし……」
「いえ、戦争にも守らなければならないルールがあるのです」
むっとしたヒューが言い返す。
「戦いを起こす側の詭弁だね、それは」
「イクス、君は……」
「二人とも、止めてくれ! 争いは、もうたくさんだ」
思わず声を荒げて叫んでしまう。
「リデル……すみません」
ヒューは声を落とすが、イクスは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「争いが飯のタネである傭兵の君が、よく言うね。矛盾してない?」
イクスの言い分はわかる。オレだって、そう思う。
けど、これ以上見たくなかった。
「何とかしたい……」
絞り出すように言葉が出る。
オレは皇帝でも皇女でもない。
今は何の立場も責任もない身だ。
出来ることなんて、たかが知れてる。
けど、このまま戦争が続いて多くの人が死ぬのは嫌だ。
「なあ、ヒュー、ソフィア…………イクス。今のオレに何か出来ることはないのか?」
オレの真剣な眼差しに、ヒューは宥めるように言った。
「リデル、気持ちはわかりますが、気に病まないことです。我々に出来ることは、そう多くないのですから」
「そうかな? リデルは一時的にでも皇女の身分でいたんだし、アリスリーゼになんて行ってないで、真面目に帝国のために手を打つことだって出来たかもしれないじゃないか。責任の一端はあると思うな」
のほほんと言ったイクスの言葉にオレは愕然とする。
いろいろ尤もな理由をつけて、アリスリーゼ行きを正当化したけど、本当はただの逃げだったことをオレはよくわかっていた。
そのことが原因の一つと考えると目の前が暗くなる。
「ば、馬鹿言わないでください!」
いきなり、ソフィアが大声で叫ぶ。
「リデル様に非なんて、ある訳ないじゃないですか! 仮に帝都に残っていたとしても血統裁判で負けて、今と同じ状況になっていたに違いありません」
怖がっていたイクスに対し、顔を真っ赤にして糾弾する。
「私もソフィアの意見に同意します」
ヒューも賛同しイクスを睨むと、イクスはにこりと笑って答える。
「うん、僕もそう思うよ。イーディスは用意周到だからね。同じ結果になったと思う」
悪びれもせず、しれっと意見をひっくり返したイクスにヒューもソフィアも呆気にとられる。
「それよりさ、これからどうするんだい?」
イクスの質問に、はっと我に返ったソフィアが口を開く。
「では、中央大神殿に参りましょう」
淡白な戦争シーンでごめんなさいw
最近、ある作品を読んで、自分の文章力の低さを痛感し、凹んでます(>_<)
書きたい場面を上手く表現できないのは、もどかしいですね。
皆さん、どうやって勉強してるのだろうと、時々思います。