動乱のはじまり……⑥
そうなるとクレイだけでなくソフィアの身も危ないってことだ。
「良かった。ソフィアがここまで無事に来られて……」
「いえ、申し訳ありません。リデル様の居場所を突き止めるために泳がせていたのだと思います。私の不始末でリデル様まで危険な目に遭わせる羽目になってしまって……」
「全然、気にすることないよ。前から歓迎されないお客様は度々、訪れてたから……ね、師匠」
「ああ、たいした人気だったな。いっそ観光名所にでもなるかい?」
「え~っ願い下げだよ、あんな連中……あ、それより師匠」
師匠のからかいを受け流して、オレは真顔で話す。
「急で悪いんだけど、ここを出なくちゃならなくなったんだ。その……だから、修業はもう終わりにしたいと思ってる」
「別にそれは構わねえぜ。言ったって、もうお前さんに教えることなんて、ありゃあしないからな。それより何があったんだ、詳しく話してみな」
「うん、ソフィアが命懸けで知らせてくれたんだけど……」
オレはソフィアから聞いた帝都の状況を話した。
「なるほど、そういうことかい。なら、止やしねえよ。行って、親友を助けてきな」
「ありがとう、師匠……師匠はどうするの?」
「俺っちは気ままな一人旅を続けるさ」
「そう……ごめん、師匠。今まで楽しかったし、勉強になったよ」
「よせやい。お前がそんなんじゃ、調子が狂っちまう」
オレがしんみり言うと、師匠は照れ臭そうにそっぽを向いた。
「……そうだ、ソフィア」
師匠の顔を見たら急に思い出した。
「クレイのことはわかったけど、ヒューはどうなったんだ?」
確かオレが帝都から出る時は『天隷の騎士』の叙勲の件で揉めていたっけ。
「ご安心ください。ルーウィック様は、あの後に叙勲局との話し合いも無事に終わり、引き続き騎士として叙勲されることになりました」
そうか、オレのせいで騎士爵が剥奪されたんじゃ顔向け出来ないところだった。
「ただ、クレイ様がユク様を連れて逃げ出す際、自分も付いていくと一悶着あったそうです。クレイ様が説得して何とか思いとどまらせたようですが……」
皇女候補生だった頃、ヒューとユクは仲良しさんだったし、一時はユクの護衛をお願いしてたこともあったからな。
「『天隷の騎士』は皇帝にのみ従う騎士です。そして、現在の皇帝はアリシア様です。ルーウィック様はアリシア皇帝に従わざる得ないのです」
ヒューとしては不本意だろうけど、それが『天隷の騎士』の役目だから仕方ない。
ん、待てよ?
「じゃあ、『天隷の騎士』である師匠もガートルードに従うってことになるのか?」
驚いて師匠を見ると、ユーリス師匠は苦笑いする。
「今まで『天隷の騎士』を返上しなかったのは、デュラント四世が公式には行方知れずで亡くなったかどうか不明だったからさ。リデルにデイルが亡くなったと聞いたから、もう未練はねえ」
そして、師匠は寂しそうに笑った。
「俺っちの主はデイルだけさ」
「し、師匠……」
不覚にも涙が出そうになり、視線を外す。
「リデル様、クレイ様に付いていくことを断念したルーウィック様は、その後アリシア皇帝に願い出て、アーキス将軍の軍に同行していると聞きました。少しでもクレイ様達に近づき、力になりたいとお考えのようです」
ソフィアがヒューの状況を補足してくれる。
「そうか、ヒューもアリスリーゼに向かってるのか」
上手くすればヒューにも会えるかもしれない。
「リデル、アリスリーゼに向かうんなら、あいつに伝言、頼まれちゃあくれねえか」
「いいよ、師匠の頼みなら」
「もし、あいつが俺っちのために騎士を辞めねえって言うんなら、お門違いだと引っぱたいてやって欲しいんだ」
それ、伝言じゃなっくて実力行使じゃ……。
でも、義理堅いヒューのことだ。師匠の推薦で叙勲した騎士を自分から辞退するとは思えない。
「自分の意志に逆らってまで騎士を続けるな、そいつは『天隷の騎士』のじゃねえって言ってやってくれ」
「でも、それじゃ。ヒューの奴、騎士辞めちゃうかもしれないぜ」
自惚れじゃなくて、ヒューはそれぐらいオレのこと大事に思ってくれている。
何でそこまでしてくれるのか、正直謎だけど。
嬉しくないって言ったら嘘にになるけど、今のオレはヒューのために何もしてあげられないのが心苦しい。
オレの苦渋する表情を見て師匠は笑って肩を叩く。
「嬢ちゃんが悩まなくていい。こいつはあいつの問題だ」
「それはそうだけど……責任を感じる」
「何だい、あいつのことがそんなに心配かい。主にそんなに思われちゃあ、あいつも騎士冥利に尽きるってもんだ」
「な、何言ってんだよ……」
オレが顔を赤くすると師匠は声を上げて笑った。
◇
「それはそうと、ユクが脱出したならトルペンはどうしたんだ……そのノルティも」
「はい、トルペン様はクレイ様からの連絡で、時同じくして帝都を脱出しました。ノルティ様も御一緒の様子です。ただ行方については不明ですが……」
「そうか、無事なら良かった。オーリエとアレイラは?」
「お二人とも、今までと変わらずです」
オーリエはデイブレイクの、アレイラはケルヴィンの下にいるってことか。
とりあえずは安心と言っていいか。
「……シンシアはどうなった?」
「…………」
ソフィアが答えない。
「ソフィア……」
オレは自分の声が震えているのがわかった。
「教えてくれ、ソフィア。シンシアは……」
「わかりません……一緒に逃亡したのですが、途中ではぐれてしまって……」
シンシアが行方不明……。
「シ、シンシア……」
「落ち着いてください、リデル様。シンシアは強い娘です。一族の中でも優秀と言ってよいでしょう。必ず、生きています」
ソフィアの強い口調で、オレは自分でわからないほど取り乱していたことに気付いた。
「ああ、そうだな。シンシアなら大丈夫だよね」
「はい、きっと大丈夫です。それよりリデル様、一刻も早いご出立を……」
「わかったよ、ソフィア」
オレは気の迷いを振り払うと旅支度を始めた。
久しぶりの更新です。
ご心配をおかけしてすみません。
ちょっとパソコンの無い環境にいまして……w
あ、コロナ関連ではないので、ご心配なく。
いよいよリデルが動き出しました。
完結まで、まだまだ時間はかかりますが、着実に進んでいます。
これからも、よろしくお願いします。