その後の顛末……⑦
オレ自身、皇女で無くなったことを残念に思う気持ちがある一方、肩の荷が下りた気持ちになっているのも事実としてある。
ましてや、帝国の全ての責任を担う皇帝だ。オレだって後顧の憂いが無かったとしたら、間違いなく逃げ出しているに違いない。
思うに、オレも親父も絶対権力に魅力より重荷を感じる性格なのだろう。オレを後押ししてくれたみんなには悪いが、なりたがっているガートルードに任せた方がオレより適任だと思うし、しっかり責任を負ってくれそうな気がする。
「で、デイルの奴が逃げ出したんだから、俺っちだって、とんずらしても構わねえと思って表舞台から姿を消したって次第さ。若い頃、デイルと一緒にあちらこちらを旅したことを思い出したのと、ちょっと鍛え甲斐のある奴を弟子にしたからな。諸国を巡るのも悪くないと思ったんだ」
当時を思い出したのか、ユーリスの顔が綻ぶ。
「え~っ、師匠のせいで修業時代、何度もひどい目に遭ったってヒューが嘆いていたぞ」
「でも、楽しそうに話してただろ?」
「……そりゃあ、そうだけど」
師匠の無茶ぶりや非常識さを話すヒューは言葉とは裏腹にどこか楽しそうだった。
「ところでさ、こんな帝国の極秘中の極秘のこと、オレになんかにペラペラ喋って大丈夫なの?」
オレとしては大いに助かったけど、守秘義務とかないんだろうかと心配になる。
「契約条項にあった気がするが、まあ……あれだ。俺っち以外の当事者がみんな死んじまってるし、お前さんはデイルの子供だから関係者といえば関係者だから問題ないだろう」
ずいぶん荒っぽい理屈だけど、確かにデュラント三世も親父も母さんもダンフォード宰相さえも亡くなっている現状ではオレに黙っていても意味をなさないのかもしれない。
「まあ、オレとしては当時の事情が知れて助かったから、感謝するよ。おかげで今まで謎だったことが、ずいぶん解明できた気がするし、母さんのエピソードが聞けて素直に嬉しかったよ」
本当に心からそう思っていたけど、ふと一つ気になっていたことを思い出し、ユーリスに確かめてみることにした。
「ありがとね、ししょ……ユーリスさん。でも、最後に一つだけ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「構わんよ。ここまで話したんだ。俺っちが答えられることなら、何でも答えてやるさ」
「あのさ……親父が母さんのことが好きで皇帝にわがままを通したのは、よくわかったけど、肝心の母さんの気持ちはどうだったんだ? まさか無理やり結婚させられたんじゃないよね」
さっき垣間見た昔の様子だと、母さんも満更じゃなさそうには見えたけど、すぐ結婚って雰囲気でもなかった気もした。
「さあ、二人の間のことは、さすがの俺っちもよくわからねえな。ただ、端から見てすげえ仲良さそうに見えたぜ」
それにさ……とユーリスは目を伏せて続けた。
「命と引き換えにする覚悟でお前さんを産んだんだからな……」
オレは最初、ユーリスの言葉を単純にオレを産んだために母さんが亡くなったという意味に捉えていた。
けど、ユーリスが「しまった」という表情を一瞬だけ浮かべ、すっと視線を逸らしたのをオレは見逃さなかった。
何となく訳ありのような感じがしたし、ユーリスは口をつぐんだままだ。今までの会話からも、ユーリスという人物が言葉を飾らない真っすぐな性格であることが分かっていたので、オレは率直に尋ねてみた。
「ユーリスさん、今まずいこと言ったって顔しましたよね。何か隠してること、あるんですか?」
「……いや、その……だな」
「母さんがオレを産むときに何かあったんですか? 『命と引き換えにする覚悟』って、どういう意味なんですか?」
オレの矢継ぎ早の質問にユーリスは天井を見上げて嘆息すると、諦めたようにオレへと向き直った。
母さんが実は病弱でオレを産むのが困難な身体だった、そんな風な答を考えて、ユーリスの返事を待っていると、いきなり突拍子もない質問をされる。
「ところで、お前さん。好きな男はいるかい? そうだな……そいつの子供を産みたいって思うほどの相手だぜ」
不意打ちの問いに、一瞬クレイの顔が浮かぶが、オレは全力で否定する。
「はぁ? な、何言ってんだよ、あんた……ク、クレイは親友だから好きなことは好きだけど、そう言った意味じゃないから……」
オレの慌てふためく様を見ながら、ユーリスは沈痛な面持ちで言葉を紡ぐ。
「悪いことは言わん。相手の幸せを考えるなら、そいつのことは諦めた方がいい」
その台詞で火照っていた頬が、すーっと醒めたのが自分でも分かった。
「どういう意味だ、それは」
自然と声が低くなり、視線も冷たいものになる。
「そのままの言葉通りだ……と言っても、とても納得はできないだろうな」
頭を掻きながら、ユーリスは重い口を開く。
「まさか、本当にこんな日が来るとはなぁ……実はロニーナに娘が年頃になったら伝えて欲しいと頼まれてたんだ。きっと、デイルは伝えあぐねるだろうから、俺っちにお願いしたいってな」
母さんからの伝言だって?
「そんなこと、万が一にも起こらないからと安請け合いしたのが運の尽きだな。デイルの奴も死んじまったし。仕方ねえから、約束を果たすとするか……いいか、ロニーナからも言われてるんで確認するが、この先の話を聞きたいか?」
ここまで意味深な話を聞かされて最後まで聞かないって選択はありえない。
「頼む、聞かせてくれ」
「じゃあ、まず最初に言っておく。お前さんは『不老不死』だ」
「は?」
空耳だろうか、変な単語が聞こえたような……。
あれ? なかなか終わらないやw
もしかしたら、章名を変更するかもしれません(汗)。
急に寒くなったせいか、昨晩から少し風邪気味です。
日曜はゆっくりしたいところです。
皆様もお身体に気を付けてくださいね(>_<)




