その後の顛末……③
「も、もしかして、オレの母さんが何かしたの?」
「何かどころじゃねえんだが、話を進めるぞ」
「うん、続けて」
何だか無性に嫌な予感がしてならないのは気のせいだと信じよう。
「フォルムス軍は当初、司令官暗殺の混乱と内応者の手引きでメルヴェ砦を一気に陥落させる予定でいたようなんだ。だが、奇襲の露見とデイルの素早い対応で計画の変更を余儀なくされた。そこで、攻城兵器を用いた正攻法で強襲することに方針を変更したんだ。気長に包囲戦を行えば、兵の損害は抑えられたが、援軍が来る前に砦を落とさなきゃならなかったんで苦肉の選択だな。実際、悠長に包囲戦を行っている時間が無かったのも事実だったしな」
砦と名付けられてはいるが、実際のところメルヴェ砦は堅固な城砦に等しい構造で、かなりの戦力差があっても長期間持ちこたえられるように築かれていた。
まあ、侵攻軍の最初の一撃を受け止めるための砦だ。それなりの防御力を有しているのは当然だけどね。
しかも、救援に来る援軍についても普通ならフォルムス侵攻の報を受けてから編成し進発するところを、さきほどの話の通り、別の反乱鎮圧のためにすぐに動ける状態にあったこともフォルムス側の計算違いの原因となっていた。
つまり、フォルムス軍が砦攻めだけに専念できる時間は、そう多くなかったわけだ。
「要は、時間稼ぎをしてりゃいいだけで、デイルとしちゃあ頭を悩ませる必要が無く防戦だけに集中すれば良かったのさ」
ユーリスはそういうが、夢で見た親父の様子じゃ、けっこう思い悩む性質に見えたから、気楽に考えることなんかできずに胃痛で苦しんでいたに違いない。
「敵が破城槌を投入してきたこともあり、デイルは護衛として連れて来ていた近衛軍の一隊を中核に砦内の精鋭を集めて打って出ることに決めた。敵の目的を頓挫させ、味方の士気を高めることが狙いだな。まあ、敵の横っ面を引っぱ叩いて、一目散に砦へ逃げ込むという厭らしい戦法って訳だ」
ユーリスは悪童めいた表情をすると
「もちろん、俺っちも志願して攻撃部隊に加わったんだ」と得意げに言った。
あの……ユーリスの任務って、一応親父の護衛役じゃなかったっけ。
いいのか、そんなに自由気ままで……。
「いやあ、鬱憤も溜まってたんで思い切り暴れ回っちまった。挙句に破城槌にも火を放って攻城戦を台無しにしてやったもんさ。ただ……」
ユーリスは頭を掻きながら神妙な口調で話す。
「ちいとばかり暴れ過ぎて、引き際を読み損ねて包囲されちまってさ……こりゃあ、ちょっとヤバイかなって冷や汗をかいていたら、いきなり黒いつむじ風のように突っ込んで来る奴がいたんだ……それが……」
「それが?」
「お前の母ちゃんだ」
うん、予感はしてた。
「最初は俺っちも味方も、そして敵もいったい何が起こったのか理解できなかった。とにかく、いきなり俺っちを包囲していた敵の一団が、それこそ文字通り吹き飛んだんだ」
うっ……なんとなくわかった気がする。
「飛び込んで来たのは、もちろんお察しのとおりロニーナの嬢ちゃんだったが、敵も味方も我が目を疑っていたぜ。なんせ、可愛らしい少女が侍女の姿で、左右の手にそれぞれ剣を握って突っ込んで来たんだからな」
うわあ、目に浮かぶ……って言うか、まんまオレの姿かも。
「しかも握っている剣が短剣なんかじゃなく、膂力のある大男が振るうような両手剣を、それも一本ならともかく二本とも軽々振り回していたんで、みな白昼夢を見ているのかと思ったそうだぜ」
うん、それは確実にオレの上をいってる。
さすがのオレもテリオネシスの剣クラスを二本も振り回せない。
どんだけ無茶苦茶なんだ、オレの母さんは……。
「だが、ロニーナが左右の大剣を振るうたびに敵兵が蹴散らされていくんで、さすがに現実と認識せざる得なかったのさ。恐ろしいことにロニーナが通った後にぽっかりと空間ができるんだぜ。……敵は元より味方も恐慌をきたして逃げ出すほどの驚愕の事態さ。衝撃が収まるまでの間、戦闘が一時中断したほどだぜ。おかげで、俺っちは逃げ出すことが出来たんだが」
それは両軍とも、ご愁傷様としか言いようがない。
けど、それでユーリスが助かったのだから、結果オーライだろう。
「どうもな。ロニーナの嬢ちゃん、最初はデイルと一緒に防壁の上から戦況を見守っていたんだが、俺っちが窮地に陥ると見るや、近くにあった武威を示すために飾られていた大剣を引っ剥がすと、そのまま防壁から飛び降りて包囲網に突っ込んで行ったらしい」
クレイからオレは考え無しの行動をし過ぎるってよく言われたけど、ここまで酷くないぞ。
ま、待てよ。もしかしてオレの行動パターンって母さんの血が成せる業なのか?
そうだとしたら………………オレ、全然悪く無いじゃん。
オレが現実逃避をしていると、ユーリスは苦笑いしながら続ける。
「とにかく、フォルムス軍はその一戦で、強襲に二の足を踏むようになったのさ。砦側がとんでもない魔物を兵器として飼っていて、迂闊に攻めると甚大な被害を受けると思ったらしい。一方、味方の方も攻撃に加わっていた近衛隊が精神的に大ダメージを受けて恐慌に陥ってた。まあ、あんなの間近で見たら、士気が保てないだろうさ」
そう言えば、トルペンが昔、ドラゴン形態で母さんとガチで殴り合ってボコボコにされたと言ってたから、敵軍を蹴散らすぐらいの芸当は当然なのかもしれない。
「俺っちも一対一で戦った時、軽くひねられたが、まさか軍隊相手にあそこまで圧倒するとはさすがに思わなかったがな。ホント、とんでもない女だぜ」
「ご、ごめん……」
思わず、母さんに成り代わり謝ってしまった。
急激なアクセス数減少に焦っています(゜o゜)
最近、好調だったので驚きです。
さては、アーススター効果が切れたのかもw
まあ、数字は気にしないで更新頑張ります!