幕間
「ガートルード様、例の娘が『流浪の民』の一族の拠点から立ち退きました」
彼女の個人的な侍女であるプリスが恭しく女主人に報告すると、彼女の主人は整った眉を顰めると口を開いた。
「プリス、何度言ったらわかりますの。私のことは『皇女殿下』もしくは『アリシア様』とお呼びなさい」
「も、申し訳ありません」
「いいから、話の続きをなさい」
プリスが蒼白になって頭を下げると、ガートルードは先を促した。
「はい、例の娘は独りで旅立ちました。誰一人付き従う者はおりません。また、主要な関係者と後で合流する気配もありません」
「そう……」
ガートルードの口角がわずかに上がる。
「計画は上手くいったようね」
「殿下、今後はいかがいたしましょうか?」
ご主人様の機嫌が良くなったのを感じ、プリスはほっとしながら慎重にお伺いを立てる。
「そうね。予定通り引き続き監視を続けなさい。何か異変があれば、すぐに私へ知らせるように」
「はい、畏まりました」
一礼するとプリスは足早に立ち去った。
それを見送ったガートルードは苦笑いしながら、対面に座る同盟者であり護衛でもある友人に尋ねる。
「……私が怖いのかしらね、アレクサンドラ?」
「さあ、あたしにはよくわからないな。でもさ、イーディス。なんで、あたしとあの娘を戦わせてくれないんだ? このままじゃ、欲求不満になるぞ」
ガートルードとプリスの会話を興味なさげに流して聞いていたアレクサンドラは、不意に問われて思わず自分の不満を口にする。
「エクシィ……いえアレクサンドラ。その名をここで口にしないように言ってあったでしょ」
「あ、ごめん。でも、あたし面倒なのは苦手なんだ。全然、覚えられないし」
「だから、普段は寡黙でいるようにお願いしたでしょ」
「まあ、宮廷すずめとは話が合わないから、その設定は助かってるけどさ」
でもさ、とイクスに似た顔を綻ばせてエクシィーことアレクサンドラは言う。
「お前、リデルって娘にシトリカで会ったんだろ。どうだった? 強いのか?」
「貴女の興味はそれしかないのかしら」
「だって、兄貴と互角で戦えるって聞いたぞ。あたし、そいつと戦えるのを楽しみにして帝都へ来たんだ」
「残念ながら、しばらく貴女との対戦は無理そうね」
「え~っ、つまんないぞ。う~ん……よし、そうだ。ハーマリーナ、あたしと模擬戦しようぜ! 怪我させないようにするからさ」
「ココデハ『ワトスン』デス、アレクサンドラ。他人ノイル場所で間違エナイヨウニ……。ソレト、格闘戦デハ貴女ニハ敵ワナイノガ事実。ヤル意味ナイ」
「ぶ~っ、暇だ! 誰かと戦いたいよ。どこかに強い奴いないかなぁ」
ぶうたれるアレクサンドラにガートルードはため息をつくと、ワトスンと二人で皇帝即位ための計画を真剣に協議するのだった。
短くてすみません。
幕間です。
ガートルード側の視点となります。
次章から新章です。




