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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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別離……⑪

「ですが、ユク様のことは、アリシア皇女は一言も触れてはいませんでした。あくまで、宰相補の件だけが条件となっています。その意図はわかりませんが、ならば我々がユク様の安全を保証すればトルペン様の協力が仰げるのではないかと判断した次第です」


 ラディクの言うことは本当だろう。

 ガートルードがトルペンを必要としているのは間違いないことだ。だから、そうした条件を提示してくるのは当然と言えた。ただ、謁見の間で対峙したユクの身柄に言及しないことは、とても不自然に感じる。

 もしかしたら、ガートルードの目的はオレからユクを引き離すことにあったのではないだろうか。ユクのことを持ち出さずトルペンの帰参を条件に交渉のテーブルに付くことを示唆すれば、ラディクがこう動くと見通していたのに違いない。


 何故、そんなことをするのか?

 今になってオレはガートルードの真意が、ようやく理解できたような気がする。


 ガートルードはオレから友人や協力者を取り上げ、孤立無援にするつもりなのだ。いかにオレの戦闘力が高くても一人では何も出来ないし、仲間や協力者がいなければ帝国を揺るがす存在足りえない。

 そう考えたに違いない。

 だから、中央大神殿であんなに簡単にオレの逃亡を許したのだろう。


 でもそれは、あんまりな話だ。

 オレはガートルードに対抗しようなんて露ほども思っていない。

 オレが皇女で自分に課せられた使命だったなら、オレは持てる力を全て捧げるつもりだった。周囲の期待やアリスリーゼ行きから得た経験からも、オレはそういう決意を持って帝都に帰還したのだ。


 けど、お前は本物の皇女ではない、偽者だと血統裁判で証明された。なら、その重責はオレのものではなくガートルードのものだ。オレは自分に正当な権利のないものを主張する気など、さらさらなかった。

 ただ、ユクやクレイ、ヒュー達と政治から離れてのんびりと暮らしたかっただけなのだ。


 それなのにガートルード、あんたはその全てをオレから取り上げないと気が済まないのか?

 それほどまでにオレを憎んでいるのか?


 オレの心は重く暗く閉ざされた気分だった。


「リデル、リデル。大丈夫ですか?」


 物思いに沈んでいたオレをユクが心配そうに覗き込んでいる。


「ああ、大丈夫だよ、ユク」


 オレは……この優しくて、今まで幸に恵まれて来なかった少女を護らなければならない。

 ここで我を通してユクを連れて行けば、彼女に必ず災いが訪れるだろう。

 その確信がオレにはあった。

 死が二人を分かつような最悪のシナリオを回避するには、選択は一つしかない。


「ユク……君はここに残ってくれ」


「リデル、あたしはやっぱり……」


「いや、足手まといでも迷惑でもない。一緒にいられたら、オレだって嬉しい。けど、君のことを大切に思ったら、そうするしかないんだ」


 わかって欲しいと目で訴えると、ユクはしばらく黙ってオレを見つめた後、潤んだ瞳でゆっくりと頷いた。


「それがリデルの願いなら……」





「じゃあ、みんな。今まで、いろいろありがとう」


 オレは見送りの面々に別れを告げる。


 結局、オレはガートルードの思惑通り、一人で『流浪の民』の拠点から出立することになった。クレイ、ヒュー、ユクは先の経緯いきさつの通りに、ソフィア達一族の者はラディクのめいに従い、オレと袂を分かつこととなった。


 ちなみに、素直に受け入れたように見せかけたシンシアは、密かに一族を抜けてオレに付いていこうとしたのが発覚し、取り押さえられていた。

 ソフィアに懇願され、オレが説得に乗り出すと、シンシアはいつものような皮肉交じりな態度は見せず、力なくうなだれ「役立たずで申し訳ありません」と、謝るので思わず涙ぐんで抱きしめてしまったよ。

 ユクと共にオレにとって大切な友人であるシンシアとの別れは身を切るより辛い気持ちだ。


 また、大神殿にいるラドベルク親娘には、引き続きアエルの護衛をお願いする手紙を書いた。

 せっかくオレのために帝都まで来てくれたのに、こんなことになって心苦しいが、二人のためには、しばらく大神殿に身を寄せていた方が良いことは明白だった。

 せめてもの償いにと、イエナが神殿で学ぶ機会を与えてもらえるようにパティオ大神官にお願いしておいたから、二人にとっても悪くない結果だと思いたい。

 おそらく、ラドベルクは納得しないだろうが、その時すでにオレは旅の空の下だ。ちょっと卑怯な手だが、ラドベルクとイエナのためだと無理やり納得する。


 そして、一番厄介だったのは、もちろんノルティだった。

 絶対に付いて来ると聞かなかったのだ。

 オレがいかに言葉を尽そうとも、全く通じず拒否され続けた。


 最後は涙目で「絶対駄目?」と上目遣いで訴えてきたので、「絶対駄目だ」と答えると「わ~ん、リデルの馬鹿ぁ!」と泣き喚きながら部屋に閉じこもって、出て来なくなってしまった。


 そんな訳で、今オレを見送りに来ているのは、閉じこもりのノルティを除いたヒュー、ユク、トルペン、シンシア、ソフィアの五人だ。


 クレイは姿を現さなかった。

 たぶん、クレイなりの矜持なのだろう。それとも悲しい別れを見たくなかったのか。

 よくわからないけど、正直オレもその方が気が楽だったから気にしないことにした。


 きっと、またすぐに会えるさ。


 オレは、見送りの一人ひとりと別れの言葉を交わすと、泣きそうなのを悟られないように元気な振りをして出発した。


リデル一人旅です。

この後にエピローグを入れて、一旦第三部を終えるという選択肢もありましたが、引き続き続けることにしました。よろしくお願いします。


あと、本来ここで書くことではないのかもしれませんが、京都アニメーションで被害に遭われた方々に心よりお悔やみとお見舞い申し上げます。

私が深夜帯アニメにはまったのは2012年の『氷菓』を昨年亡くなった友人に進められてからです。(なので、残念ですがけいおんもハルヒも見てません)その時、日本のアニメはこんなに美しいんだと感動したのを覚えています。それ以降、大好きな製作スタジオになり、ずっと追いかけてきたのに……とても残念でなりません。

怪我をされた方の一刻も早いご回復と亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。

そして、このようなことが二度と起きないことを心から願います。

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