別離……②
そう、オレ達は中央大神殿の『血統裁判』と並行して、別の計画を実行に移していたのだ。
それがどうやら上手くいったらしい。
オレはその報告に歓喜し詳細を尋ねようとしたが、ソフィアが開け放った扉の外に、その姿が目に入るやいなや神速の速さで間合いを詰めると、相手をひしと抱きしめた。
「お帰り、ユク。無事で……本当に無事で良かった」
「ただいまです、リデル。心配かけて、ごめんなさい。でも、リデルが元気そうで安心しました」
別の計画とは、ガートルード陣営の主要メンバーが中央大神殿に集中する隙を狙って、トルペンが手薄な皇宮に転移して、囚われているユク達を救出するという計画だった。
ガートルードの側近がいなければ、皇宮にトルペンに対抗できる人物は皆無に等しいし、魔法結界が機能していない皇宮に転移することは造作も無いとの話だ。
「オレは、いたって元気だよ。それより、ごめん。オレのせいでユクを辛い目にあわせちゃって……」
ユクを抱きしめながら耳元で囁くと、くすぐったそうにしながらユクは答える。
「全然、平気です。言ったでしょう、リデルの役に立てるなら、どんな苦労も厭わないって」
「それはそうだけど……」
「それにリデルなら、必ず助けてくれると信じてましたし……」
「ユク……」
オレが感極まっていると「こほん」と咳払いがしたので、そちらに目を向けると、じと目でオレ達を見る人物が一人。
「感動の再会は素晴らしいですが、誰か忘れてはいませんか?」
呆れて見ていたのは、ユクと一緒に囚われていたシンシアだ。
心なしか拗ねているように見えなくもない。
「もちろん、忘れちゃいないさ」
そう言って、ユクを抱きしめている左手の反対の手を広げてシンシアを誘う。
「べ、別に私はそんなつもりで言ったわけでは……」
顔を赤くして躊躇っているシンシアに目力で有無を言わせない。
「し、仕方ありませんね……わがままな主人の命令では」
口では、そう言いながらもシンシアは少し嬉しそうにオレにそっと抱きついた。
「シンシア、ありがとう。ユクの力になってくれて。怖い目には遭わなかった?」
「大丈夫です。相手からしたら、私は取るに足らない侍女の一人に過ぎませんでしたから」
そう謙遜するシンシアを引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
「そんなことない。感謝してる」
重要視されないと言うことは、逆に酷いことをされる可能性もあったのだ。本当は、きっと心細かったのに違いない。
二人を抱きしめながら、普段あまり信心深くないオレも二人の無事を神に感謝した。
「どうですカ?リデルさん。我輩の獅子奮迅の活躍ぶりハ」
感動の対面がひと段落したころ、今回の件の立役者であるトルペン(子供バージョン)がドヤ顔で現れた。
その声を聞いて我に返ったのか、ユクとシンシアがオレから、すっと離れる。
残念……抱き心地が最高だったのに、トルペンの奴め。
「まあ、確かにトルペンの言う通りかな。今回については、すごく感謝してるさ。あんたのおかげで二人を無事助け出すことができたんだから」
「トルペン先生デス」
「ああ、トルペン先生のおかげだ」
「当然デスネ。天才魔法使いの我輩にかかれば、あれくらい朝飯前デス」
その割には、ガートルードの側近達の動向をずいぶん気にしていたようだけど。
「それに結界のない皇宮など、我輩にとって出入りし放題の他人の庭みたいなものですカラ」
他人の庭には勝手に入っちゃ駄目だろ。
「でも、出入りはそうだろうけど、あの広い皇宮でよくユクの居場所を特定できたな」
「見くびってもらっては困りマス。ユクさんには絶対に外れないマーキングをつけていますから、どこにいようと見つけ出すことは可能で……」
言いかけたトルペンが不意に黙り込んだのは、ユクが凄い形相で奴を睨んでいたからだ。
へえ、ユクもそんな表情できるんだ……まあ、ユクはトルペンにだけ特別厳しいからな。
それにユクの気持ちもわかる。
いつでも見つけられるっていうのは、一日中監視されているのに等しい。年頃の娘としては、絶対に止めて欲しい事柄に違いないだろう。
トルペンの親心もわからないでもないが、こういう時のオレは可愛い女の子の味方だ。
「トルペン、今回は助かったけど、そういうのは嫌われるから止めた方がいいぞ」
(少なくとも本人には秘密にしとけよ)
オレはトルペンに近づくと言葉では嗜めながら、小声で忠告する。
オレとしては、せっかくめぐり合えた親娘なのだから、ぜひ仲良くしてもらいたいものだと常々思っていた。
当初に比べればマシになったが、それでも仲良しとは到底言えないレベルなので、今回の救出劇でトルペンの評価が、かなり上昇するだろうと踏んでいたけど、今のでご破算になったかもしれない。
全く、間が悪いというか運が悪いというか。
まあ、トルペンだから仕方が無いか……。
「ユクさん……我輩が悪かったデス」
トルペンが泣きそうな声でユクの機嫌を取ろうするけど、全く持って成功していない。
そこにあるのは、帝国の宰相補でもなければ大魔法使いでもない、ただの情けない父親の姿だった。
一週間ぶりのご無沙汰で、ごめんなさい。
すっかり日常生活は元に戻りました。
ただ、無理がきかず、早めの就寝を心がけていますので、今までのような執筆環境にありません。
しばらくは週一更新が続きそうです。
それと6月に二度目の入院をしそうなので、またお休みするかもしれません。
ご理解願います。




