思わぬ再会……⑧
その言葉を発したきり、アエルは口をつぐむ。
しばらくの間、沈黙が部屋を包み込むが、オレは焦れて問いかけずにはいられなかった。
「アエル……どうなんだ? 黙ってないで結果を教えてくれ」
儀式の最中に話しかけるのは無作法だったらしく、ジルコークさんに非難の目を向けられるが、それよりも答えが知りたかった。
「コノ剣ノ持チ主ト、りでるハ…………」
オレはごくりと唾を飲み込む。
「……多クノ部分デ著シク似タ血ノ構成ヲシテイル。血脈ハ繋ガッテイルト見テ間違イナイ」
「それじゃ……」
「親子ト考エテ問題ナイ」
よ、良かった。
自分でも、ほっとして気が抜けたのがわかる。
もしかしたら、ガートルードが本当の親父の子で、どこかでオレと入れ替わってしまったんじゃないかと密かに心配していたのだ。
その悩みが一気に解消したので、すーっと心が軽くなったような気がする。これで血統裁判にも自信を持って臨める。
「タダ……」
え? まだ何かあるの?
アエルの言葉は終わりではなかった。
「りでるノ血、トテモ変」
「変?」
「残リノ半分ノ血ガ、ヨク判ラナイ。コンナコト初メテ……りでる、イッタイ何者?」
何者って言われても。
「オレはリデル。普通の人間の女の子だよ」
オレが、そう答えるとアエルの目玉が訝しげにオレを見下ろす。
「それはちょっと無理があると思うぞ」
クレイが後ろで、ポツリとこぼすとジルコークさんも大きく頷いている。
失敬な、オレは年頃のいたいけな少女に過ぎないのに。
ただ……、
人より、ほんの少し力持ちで、
人より、ほんの少し素早くて、
人より、ほんの少し傷の治りが早くて、頑丈なだけなのだ。
「何だよ、みんな」
オレが考えていることがわかるのか、クレイ達は白々しい目でオレを見ていた。
「と、とにかくだ。これで一応、親子に間違いないと確証が取れたんだ。ここは喜ぶべきところだろう」
みんなの不審な目で機嫌を悪くしたオレにクレイが取り成すように建設的な意見を述べる。
「そ、そうだな。これで血統裁判も安心して行えるってもんだ」
オレも少し機嫌を直して、クレイの意見に乗っかる。
「じゃ、前祝いといこう。アエル達の歓迎会を兼ねて、夕食は豪華にいこうじゃないか」
「それ、いいね。是非、やろう」
その提案にオレが異論を唱える余地もない。
ただ、オレの血に納得がいかないのか、考え込むように目玉を斜めに傾けているアエルが、印象に残った。
◇
「遅れて、すいませ~ん。ネルダ興行から酌婦として呼ばれた者ですけどぉ」
「おお、待ちかねたよ。お客さんは、すでに集まってるんだ。来ないんじゃないかと、心配したよ」
「ごめんなさい。前のお客が放してくれなくってぇ」
「そいつは大人気だね。そういや、初めて見る顔だ。っていうか、すげえ美人だな。それに綺麗な銀髪してる。正直、俺も個人的に、お相手をお願いしたいくらいだぜ」
「もう、お世辞が上手いんだから……で、お席はこの奥なの?」
「ん? ああ、そうだ。今夜は神殿絡みのお偉いさんが来てるようでね。粗相なく頼むよ」
「任せといて、こう見えても、あたしは百戦錬磨だから」
「可愛い顔して、よく言うな。そうだ、ところで、お前なんて名だい?」
「あたしはラヅリだよ。よろしくね、お兄さん」
その言葉に相好を崩す、ホテル『白き角』の宴会係のお兄さんにウィンクを投げて、オレは宴会場に向った。
え、お前は誰だって?
銀髪のかつらを被り、身体の一部を嵩上げしたリデルちゃんでした――。
わ、悪かったな、色気が足りなくて。これでも、精一杯盛ってんだからな。
くうっ、言ってて悲しくなってきた……。
そんなことは、さておき、今からアエル達の歓迎会が始まるのだ。
クレイの思いつきで、急遽決まった歓迎会だったけれど、せっかくだから、ラドベルク達も一緒に歓迎しようということになり、会場選びに四苦八苦することになった。
と言うのも、クレイ絡みのゴルドー商会関連を使うとバール商会に感づかれる可能性があったので、宗教関係者が極秘でよく使う『白き角』を会場として選んだ。
ここなら、口も堅いし、神殿側として印象付けたいアエルやラドベルクを歓迎するには持ってこいの場所と言えた。
問題はオレとクレイの二人だったのだけど、クレイが火急の際に対応するために留守番を買って出てくれたので、オレだけ変装して会場入りすることになったのだ。
で、冒頭の件になったってわけ。
え、意外に演技が上手いって?
当たり前さ、これでもシトリカじゃ、一座の看板女優を張ってたんだからな。
「失礼しま~す。ネルダ興行から派遣された酌婦のラヅリで~す」
会場の扉を開けながら、オレが挨拶すると中にいる人々の動きが一斉に固まった。
そして次の瞬間、感激する者・目を疑う者・痛い子を見る目の者、いろいろな視線がオレに集まる。
な、何だよ! オレが色っぽい格好したら、そんなに変なのかよ。
それとも、ちょっとだけ盛ったのが不自然だったか?
すこぶる不機嫌になりながら、オレは歓迎会の会場に足を踏み入れた。
オレの気持ちとは裏腹に歓迎会は盛大に盛り上がった。
特に、お互いお酒の飲めないノルティとイエナは急速に仲良くなったようだ。
ノルティは年下のイエナにお姉さんぶれるの嬉しいらしく、また頭の良いイエナは何でも知ってるノルティの博識ぶりに感動していた。
オレは、その姿を見て微笑ましく思いながら、無口になりがちなラドベルクとアエルの間を行き来して場を盛り上げた。
ちゃんと、酌婦としての仕事もこなしていたのだ。
そして、歓迎会は年少組(オレも含む)が、お眠になるまで続けられた。
今回は、きりの良いところまで書いたので、少し長めです。
今日、法務局へ行って相続の手続きを済ませました。
自分でやったので、行政書士に頼む分のお金が浮いたので、ちょっと嬉しかったです。
ただ、改めてネットの凄さを実感しました。ネットで調べて雛形や必要書類を確認して行ったので、そんんなに難しくなかったです。
さて、いよいよ次章は『血統裁判』です、お楽しみに。




