師匠と弟子の間に……⑦
(ああ、なるほど。ようやくリデル様の疑念の意味がわかりました。申し訳ありません、どうやら誤解を招く言い方をしてしまったようですね)
「誤解?」
(ええ、『転移魔法』と口にしていましたが、実のところ『魔法』ではないのです。あれは、私たち古代竜の固有の転移能力なのです)
「固有の能力? じゃあ、術者しか使えないって言うのは……」
(はい、自分自身の能力でありますから、当然他者にはかけられません)
「でも、それなら何で『魔法』だなんて言ったんだ?」
(それはそのぉ……人間形態でいる時、私めは『大魔法使い』でありますので『転移魔法』と言った方がしっくりくると思ったもので……)
トルペンの言い訳が、実に子供じみたものだったので、オレはため息をつく。
「あの力が魔法ではなく、竜固有の能力であることはわかった。けど、それじゃ何でユクに転移魔法をかけるって話になるんだ? 他人には使えないはずだろ」
(ええ、そうです、他人には無理です。しかし、ユクになら可能なのです。あの子は私の娘ですし、密かに観察したところ、転移能力が備わっていることも確認できていましたから)
「え! ユクにも転移能力があるの?」
(ええ、そうです。無論、あの子はまだ、その事実に気付いていませんし、気付いたとしても、すぐに使えたりはしません。けれど、私が手助けすれば、強制的に転移は可能です)
驚いた。
ユクに読心能力だけでなく転移能力まであるとは……。
反則過ぎるぞ、古代竜の一族。
ま、オレ自身も反則過ぎて、他人のことをとやかく言えないけど。
「とりあえず、トルペンの言い分はわかった。あんたがそこまで言うなら、おそらく本当のことだと思う。けど、それなら何故、あの時そうしなかったんだ。そうすれば、今こんなに苦しむ羽目になっていなかったのに」
(はい、今は激しく後悔していますが、あの場でその選択は出来ませんでした。ぶっつけ本番でもありましたし、敵の不思議な術のせいで私自身が人間形態の解除を押しとどめるのに必死の状態でしたから)
トルペンの心の声には自責の念が色濃く出ていた。
(何よりも、あのような不安定な状況でユクを危険に晒すような真似を極力避けたかったのです)
うん、その気持ちは痛いほどわかる。
絶対にユクの安全が最優先だ。
事実、万全の状態のトルペンでさえ、時たま転移に失敗するって聞いていたから、ユクに転移魔法を使うというのはかなりリスクの高い選択と言って良かった。
それに、仮に成功したとしても、頼る者もいない状態でユクを宮殿の外へ跳ばすというのも心配すぎて二の足を踏むのもわかる。
「まあ、とにかく『転移魔法』については、誤解だったと理解できたよ。それに、トルペンの取った選択も全然間違ってないと思う。もし、オレがトルペンと同じ立場だったとしても、きっと同じ選択を選んでいたに違いないさ」
(本当ですか?)
「うん、本当だよ。ユクを助け出せなかったことを、ずいぶんと悔いているようだけど、あの場合トルペンだけでも脱出できたのは不幸中の幸いさ。下手したら、二人とも捕まっていた可能性だってあったんだから。トルペンのおかげで、こうして貴重な情報も得られたし、身体が復調したら協力だってしてもらえるんだろう」
(ええ、もちろんです。すでに身体はほぼ復元できていますから、いつでもリデル様のお役に立てます。ただ、難を言えば人間形態にはなれないことと、空間障壁が使えないので戦闘力が半減している点ぐらいです)
それって、かなりの確率でお役に立てないように思えるけど。
その竜の図体だけでも、めちゃくちゃ目立つし、人間に擬態できない上に頼みの戦闘力が半減じゃ、正直一緒に行動するのも難しいように感じる。
「焦る気持ちもわかるけど、まずは体調を万全にしようよ」
落ち込んでいた(と思われる)トルペンが俄然やる気を見せたので、オレは無茶しないように釘を刺した。
「……リデル、だいじょぶ?」
「何がだい、ノルティ?」
ちょうど、オレとトルペンの会話に間が空いた瞬間、ノルティが呟きとも取れる質問を投げかける。
「あれから、ずいぶん経った。クレイ……心配してる?」
しまった。
トルペンから情報を得るのに夢中で、すっかり忘れていたよ。
突然、目の前から消えたから、きっとクレイの奴、今ごろ半狂乱になってオレを探しているかもしれない。ホント申し訳ないことをした。早く安否を知らせてやらないと……。
と、思ったけども、もうこれだけ待たせているんだ、少しぐらい遅くなっても、それほど差はないかな。
クレイ、ごめん。あと一つだけどうしても聞きたいことがあるから、もうちょっと待っててくれ。
「なあトルペン、サウルスさんの部屋とこのイスケルド城を繋げている、あのタペストリーのような神具はいったい何なんだ?」
また韓国の方から、翻訳したいので許可して欲しいというメールが来ました。
うかつに返信すると、向こうの良いように解釈されるという話も聞いているので、そのままにしてあります。どうしたものでしょうか、困ったことです。
実際、『いつ可』が韓国や中国で無許可で翻訳されていることは、薄々気がついていました。
困ったことだと思いながらも手が打てていません、
誰かがそれで利益を得ていたり、我が物顔で著作権を主張したりしなければいいなと心配はしています。
ホント、どうしたものかと考えると頭が痛いです(>_<)




