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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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偽皇女……⑥

「まったく、これ以上の茶番には付き合ってられないわね」 


 そう呟くと、膝を折っていたガートルード嬢が不意に立ち上がった。

 脇に控えていた従者二人もそれに倣う。


「何だと!?」


 隣にいるケルヴィンが目を剥いて驚いている。


 それはそうだ。

 貴人の前で許しも無く立ち上がるなど言語道断の所業であるからだ。叱責はもとより制裁を与えられても文句の言えない暴挙と言っていい。


「何と失礼な振る舞いではないか」


「やはり、平民は礼儀をわきまえておらんな」


「バール商会め、増長するにもほどがある」


「衛兵は何をしている。即刻、捕縛しないか」


 案の定、参列者の口から疑問の声や容赦の無い罵声が聞こえてくる。


 そして、それらの声に促されるまでもなく、謁見者の不審な挙動に玉座の両脇に控えていた衛兵が飛び出してきて、彼女らの退路を断つように遠巻きに取り囲んだ。

 けど、そのような状況にも関わらず、当の本人達は何処吹く風で佇んだままでいる。


「ガートルード、このような仕儀に出たことに申し開きはあるか?」


 衛兵の行動を確認したケルヴィンさんは、射殺すような視線でガートルード嬢を睨み、詰問した。


「別に何も」


 彼女の返答はあっけらかんとしていた。


「貴様、侮辱するにも……」


 普段、冷静沈着を装い、大物ぶっているケルヴィンさんが隠し切れない怒りのせいで顔を歪めていた。

 おそらく、権威ある謁見の儀式を台無しにされて怒り心頭に発したのだろう。


 けど、あたしは逆に冷静になる。

 この場で、彼女がこんな振る舞いに出たのには、きっと理由がある筈だ。先ほどの印象から見て、自分は他者より賢く、優れた人間であるというプライドに満ち溢れていたので、その彼女が無意味な行動を取るとは思えなかったのだ。


「ケルヴィンさん、相手の意図が読めない内は……」


「ええい、衛兵たち。いったい、何をしている。さっさとこの狼藉者どもを捕らえるのだ」


 あたしが「様子を見た方が」と提案する前に、ケルヴィンさんの堪忍袋の緒が切れた。


「あら、私を捕まえるですって?」


 ケルヴィンの指示を受けた衛兵達が囲みを狭くして捕縛しようと試みるのを見て、ガートルード嬢はせせら笑った。


「アレクサンドラ、ワトスン。相手をしてあげなさい。多少、手加減しても良くてよ」


 ガートルード嬢が後ろに控えていた二人の従者にそう命じると、従者達は主を守るように彼女の前後に立ち、衛兵達に相対した。


 そして、今までガートルード嬢の陰に隠れてよく見えていなかった従者達に視線を向けたあたしは思わず声を上げそうになる。

 

 そこに、見知った顔が見えたからだ。





「イクス様……」


 あたしは、恩人であり想い人でもある人の名を呟いた。


 もし、リデルと出会わなかったら、あたしは今もその人の元にいただろう。

 あたしが生きて来られたのは、間違いなくイクス様のおかげだ。


 それなのに、あたしはイクス様よりリデルと一緒にいることを選んでしまった。

 本当なら、裏切り者のあたしを憎んでも当たり前だったのに、イクス様は苦笑しながら送り出してくれたのだ。

 あたしは、そんな優しいイクス様に、今も尊敬と感謝の念を抱いている。


 リデルには申し訳ないけど、仮に敵同士となってもイクス様とは戦えないだろう。

 それほど恩義のある方であり、大切に思っている方なのだ。


 いや、待って。

 

 ユク、しっかりなさい。


 よく見るのよ…………あの人はイクス様じゃない。



 冷静になって、目を凝らすとその人物は明らかに女性の体型をしていた。


 イクス様なら女装も変化魔法もお手の物だけど、あたしにはわかる。

 あれは絶対にイクス様じゃない……なら、あれは……。


 そうだ、そう言えばイクス様に聞いたことがある、双子の妹がいるって。

 確か、エクシィさんと言う名だった筈だ。 


 じゃあ、あれはイクス様の妹さん? 



 イクス様の妹ともう一人は礼装用の上着を脱ぎ捨てると、その下に動きやすい簡素な防具を身に纏っていた。

 二人とも小柄で、とても屈強な衛兵達に太刀打ちできるように見えなかったけれど、イクス様の妹やその関係者なら衛兵などでは対抗できないに決まっている。


「ケルヴィンさん、止めてください。危険です」


「大丈夫だ、すぐに終わる。それにこうなったのは自業自得だ」


 あたしの制止の意味を誤解したケルヴィンさんが余裕そうに答える。

 けれど次の瞬間、驚愕の色に染まった。


 あたしの危惧したとおり、エクシィさんは押し寄せる衛兵達を素手で、あっという間になぎ倒してしまったのだ。

 まるで、リデルを連想させる戦い方だった。


 もう一人の方も……こちらも女の子のようだけど、一歩も動かないまま何か詠唱すると、押し寄せていた衛兵達を一瞬で壁まで吹き飛ばしていた。


 この謁見の間には魔法封じの術式が施されていると聞いていたけど、全く効果を発揮していない。おそらく、その術式を打ち破るほどの高位の術者なのだろう。


 驚きを隠せないあたし達に向き直ると、ガードルード嬢は鼻で笑って言った。


「ちゃんと手加減させたことを感謝なさい……それにしても貴女、上手く化けたものね、偽皇女さん」


起承転結で言えば、「帝都帰還編」は「転」に相当するでしょうか。

いよいよ後半戦ですねw (おいおい……)


台風や地震の被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

幸い、私の住んでいる場所では被害がありませんでしたが、明日はわが身と思っています。

何もできませんが、皆様の平穏を心よりお祈りします。


いつどんなことがあるかわからない世の中です。

私もどうなるかわかりませんが、書ける間は頑張って書いていきますので、これからもよろしくお願いします。


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