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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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偽皇女……⑤

「それでは謁見の儀を始めたいと思いますが……殿下、よろしいでしょうか?」


 あたしの左に控えているケルヴィンさんが恭しく尋ねる。


 ちなみに階の上の玉座にいるのは、あたしとケルヴィンさんだけで、シンシアさんは一段降りた脇の位置であたしのことを見守ってくれていた。

 参列者達は左右の壁沿いに立ち、入り口からきざはしまでは赤い絨毯が真っ直ぐ敷かれている。おそらく謁見者がそこを歩くのだろう。


「構いません」


 台本どおりに、あたしが答えるとケルヴィンさんは正面に向き直ると声を上げた。決して大きな声でなかったが、静かな謁見の間の端まで響く。


「これより謁見の儀を執り行う。儀典官、謁見者をここへ!」


 ケルヴィンさんの宣言で、儀典官が謁見の間の両開きの扉の左右に立つ衛兵に声をかけると、両者は壁のように大きな扉をゆっくり開け始める。

 完全に開かれるのを確認すると、儀典官が声を張り上げた。


「バール商会のガートルード・バールウェイ他二名がまかり越してございます。何卒、謁見の栄をお与えくださりますよう願いたてまつります」


 その台詞に、あたしが鷹揚に首を縦に振ると、儀典官は扉の外に控えている謁見者に告げる。


「殿下がお許しになられました。そのまま、殿下の御前に……」


 儀典官に促されると、ガートルード嬢を含む三人は頭を下げたまま、謁見の間の中央をゆっくりと進む。


 すると、彼女らが通り過ぎた後の左右の参列者から静かなどよめきが起こった。


 あたしにだけは、ケルヴィンさんの小さな舌打ちが聞こえたけど、それより何故みんなが動揺してるのかの方が気になって仕方が無い。

 そう思っている内にガートルード嬢一行は、あたしのいる玉座の手前まで進むと、膝を折って皇女に対する礼を示した。


 ここからでは、俯いているせいで、顔がよく見えない。

 ふと、胸騒ぎを感じたが、ケルヴィンの書いた筋書き通りに事を運ぶしか選択の余地はなかった。


「おもてをあげなさい」


 あたしの正面の階の下で、こうべを垂れているガートルード嬢に意を決して、顔をあげるように声をかけた。


 それ応じて、ガートルード嬢がゆっくりと面を上げる。


(リデルに似てる……)


 第一印象はそれだった。


 皆が驚くのも無理は無い。ガートルード嬢は、目の前にいる皇女殿下……リデルによく似ていたのだから。


(いや、違う……似てはいるけど、リデルの方がずっと綺麗だ)


 間違ってもあたしの贔屓目ではなく、客観的にそう思えたのだ。


 顔の造りは確かに似ていたが、どこか酷薄そうな表情が垣間見え、人を見下してるような印象を受けた。現に皇女の御前と言うのに、尊敬の念はまったく見受けられない。


 性格的に難が有りそうなのが、何となくわかった。

 あたしの直感が、このとは仲良くなれそうにないと訴えている。


 けど、この際あたしの私情はどうでもいいことだ。今のあたしは皇女としてこの場にいるのであって、リデルにお願いされたこの役目を確実にこなすことが最優先なのだ。


「直答を許します」


 あたしが気を取り直して台本にあった言葉をかけると、ガートルード嬢は躊躇することなく返答する。


「皇女殿下、バール商会クレヴァンス・バールウェイが娘、ガートルードでございます。お初にお目もじつかまつります」


 にこやかに笑うガートルード嬢の言葉は、あたしの頭に入らなかった。

 何故なら、彼女にあたしの例の力が全く通用しなかったからだ。


 そんな馬鹿な。

 今まで、思念が読めなかった人なんて、ほとんどいなかったのに。


 読みにくい体質の人や外国人のように読んでも意味がわからない場合はあっても、全く読めないということはめったになかった。

 そんな稀有な例は、それこそリデルぐらいだったのだけれど、このリデルによく似たガートルードという娘も同様に読むことが出来なかったのだ。


 何者なの、この……絶対、普通じゃない。

 一緒にいると何か良くないことが起こりそうな予感が……。


「殿下……謁見者がお言葉をお待ちしています」


 あたしがパニックに陥っていると、ケルヴィンさんが横合いから怪訝そうに声をかけてくる。


 え……ああ、そうだ。とにかく台本どおり進めなきゃ。

 確か、公の場で皇女がバール商会の功績を認める……それが今回の謁見の趣旨だった筈だ。


 詮索したい気持ちを押しとどめて、あたしは決まっていた台詞を告げる。


「バール商会の帝国に対する功績、多大と耳にしています。今後も忠勤に励むよう願います」


「有り難きお言葉、光栄に存じます」


「謁見、大儀でした。後ほど、儀典省から感状を送らせましょう」


「恐悦至極でございます」


 良かった。これで、謁見の儀は終わりだ。

 後は、あたしが退出すれば全てのプログラムは終了する。

 そうすれば、この苦行からやっと開放されるのだ。いろいろ疑問は残るけど、後でシンシアさんに相談しよう。


 あたしが、そう安心して退出しようとした刹那、事態は急を告げる。


 謁見の儀は、まだ終わりではなかったのだ。


また台風でしたね。

今年は台風が多いような……(>_<)。

皆様にも大過なければ良いのですが。


ただ、夜の気温が下がって寝やすくなったのが嬉しいです。

もう9月ですものね~w

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