帰路……③
「ば、馬鹿なこと言うな。ヒューはそんな意味で言ったんじゃないから」
「なら、どんな意味だ?」
「え……それは」
「クレイ、リデルをからかうのはお止しなさい。君だって、私と同じでリデルが皇女でなかったとしても彼女を護ろうとするでしょう」
いや、ヒューそれは違う。
クレイは一族の掟で皇女であるオレを護っているに過ぎないんだ。もしくは死んだ親父との約束を履行するためだ。
だから、オレがもし皇女でなかったとしたら、今みたいにオレのこと大事にしてくれるわけないし、ひょっとしたら、オレの前から消えるかもしれない。
そもそも、しがらみが嫌で一族から飛び出したクレイだから、そうなるに決まってる。
「俺は……」
案の定、クレイは口ごもる。
ほら、やっぱりだ。
「クレイ?」
「……ちょっと気になることがあるんで、先の様子を見てくる」
ヒューが怪訝そうに声をかけると、クレイは急に思い立ったかのように馬を走らせ、オレ達を残して先行し始めた。
「いったい、どうしたんでしょう、クレイは?」
「さあ、奴の考えなんてオレにはわからないよ」
見送るヒューが不思議そうに聞いてきたけど、オレの返事はそっけないものとなった。ヒューには申し訳なかったけど、奴の真意が透けて見えて何も語りたくなかったのだ。
それからしばらくは、ヒューと並んで馬を走らせた。会話も弾まず途中からは、お互い無言になり、ひたすら先を急ぐ道程となった。
やがて、少し先にある村の入り口まで進むと、クレイが馬を休ませながらオレ達を待っているのが見えた。
「クレイ、突然だったので驚きました。気になることは、どうなりましたか?」
「……悪いな、俺の取り越し苦労だったようだ。それよりも……」
ヒューが声をかけるとクレイは、はぐらかすように別の話題を振った。
どうやら、いつものクレイに戻っていたようなので、オレも知らん顔をして会話に加わる。
「ホント、クレイがいない方が、ここまで順調に来れたよ。ね、ヒュー」
「いないからかどうかは、わかりませんが順調でしたね」
「ほらね」
「何だと!」
当たり障りの無い会話を繰り返す。何となくだけど、先ほどの話を蒸し返さないように気をつけた。オレにとってもクレイにとっても、もう一度取り上げたい話題ではなかったのだ。
◇
それからの道中も順調を極めた。
カンディアには立ち寄ったが、オスフェルト伯爵に見つかると面倒なので、旅支度を整えると、早々に出立した。カンディアの治安は一段と悪くなっていたが、武闘大会の影響がまだ残っていて、傭兵達に活気があるように思えた。
たぶん、これからアリスリーゼからの勧誘もあるだろうから、傭兵達の動揺も少しは沈静化するに違いないだろう。
シトリカでも雨季が終わってピレゼウ河の水量が落ち着いていたので、今度はすぐに渡ることが出来た。なので、滞在期間はわずか一泊となった。
オレの面が割れている上に目立つ事この上ないので、泊まった部屋以外はずっとフードを被らざるえなくて、かなり面倒だったからだ。
そして、ジュバラク。
事件の黒幕だったのに結局お咎めなしとなった、男爵の祐筆であるダレンが上手くやっているようで、街は活気を取り戻していた。例の騒動を起こしたバカ息子の噂も街で全く聞かなかったので、大人しく幽閉されているらしい。
実際、あの馬鹿がいなければ、ダレンの行政能力は高かったので上手くいくのは当たり前だったのかもしれない。
最初は、前に泊まって感じが良かった『陽だまりの猫亭』で一泊し、ゼノール男爵とその後継者の孫娘に会っていこうと思ったのだけど、男爵の具合が思わしくないとの話だったので止めにした。
無理に会うほどの必要もなかったし、病気の男爵にいらない気苦労をかけるのも偲びなかったからだ。
その代わり、メイエの住むアトリ村で一泊することにした。
メイエは、薬草を買うためにジュバラクに向おうとしてオレ達と出会った美しい村娘だ。あの一件では怖い思いをさせたので、男爵に頼んでいろいろ便宜を図ってもらったが、その後どうなったか心配していたのだ。
彼女を訪ねると元気になった母親が出迎えてくれて、メイエと共に大歓迎された。神殿でもらった薬が目を見張る効果だったそうで、日常生活には支障がないほど回復したとの話だ。
「全てリデルさんのおかげです。何とお礼を言っていいか……」
「いや、メイエの日ごろの行いが良かったから神様が助けてくれたんだよ」
メイエが感極まって泣きそうになりながら言うので、思わずオレもうるっときたけど、冷静を装って答える。
「もちろん、神様にも感謝いたしますけど、まずはリデルさんにお礼が言いたいのです」
そう言うとメイエ母娘は深々とオレに頭を下げ、「本当にありがとうございます」と涙声で話した。
メイエ一家との邂逅は、終始なごやかな雰囲気で行われ、オレの溜まった旅の疲れが、かなり癒される結果となり、寄って良かったとつくづく思った。
翌朝、メイエ達に別れを告げジュバラクから出立すると、オレ達は一路帝都へと向った。
ジュバラクを発てば帝都までは、あとわずかの距離を残すのみだ。
帝都で待っている懐かしい面々とも、もうすぐ会える。
オレは無意識に浮かれていた。
クレイやヒューも少しばかり気が緩んでいたと思う。
だから、普段慌てることのないソフィアが血相を変えて、オレ達に会うために息せき切って現れた時に、オレは不思議そうに口を開いた。
「あれ? ソフィアどうしたの? そんなに息せき切って。帝都に先行したんじゃ……」
「リデル様……」
ソフィアは周囲を憚って声のトーンを落とす。
オレが近づいて耳を傾けると、ソフィアは沈痛な表情で言った。
「帝都に皇女が現れました……リデル様以外の……」
帰りは一瞬でしたねw
ほら、順調に行ったじゃないですか。
約束はちゃんと守りましたからね(^・^)
えと……残念なお知らせです。
ずっと体調不良で続きが書けていません(>_<)
夏バテか夏風邪か熱中症か……。
なので、しばらく更新がストップするかもです。
ごめんなさい。
なるべく早く復活するつもりですが、しばらくお待ちください。
皆さんも、お気をつけて……。




