海軍基地での……①
晩餐会はつつがなく終わった。
困ったのは、サラが余計なことを吹き込むのでルータミナがオレの冒険譚を聞きたがったことぐらいだ。総じて和やかで楽しい晩餐会だったと言える。
けど、それは給仕をしている屋敷の使用人達には特別なことだったらしい。
どうやら、お祖母さまはお気に入りの侍女以外は人を寄せ付けず、レイモンド達とも、めったに顔を合わせなかったようなのだ。ましてや、他の客がいる晩餐会に出席するのことなど考えれれない事態なのだそうだ。
そのせいか、使用人達がオレを見る目には恭順を通り越して、もはや崇拝の念さえ感じられた。
またさらに、お祖母さまがオレを溺愛する様子は、日ごろ仕える者達だけでなく晩餐会の出席者の度肝を抜いたようだ。
オレの言動とお祖母さまの性格から考えて、このような展開になるとは誰も予想していなかったのに違いない。あの事情通ぶっているクレイをして驚かせたのだから、よっぽどのことだ。
けど、たった一人だけ、こうなることを予測していたと思われる人物がいた。
そう、レイモンドだ。他の面々が一様に驚いている中、レイモンドだけは口元が笑っていた。おそらく、長年の交流と観察で、お祖母さまが強がった態度とは裏腹に息子や孫娘の行方や安否をかなり案じていたことを見抜いていたのだろう。
やはり、油断のならない人物だと思う。
さて、晩餐会が終わると、どっと疲れが出たオレは早々と就寝することにした。お祖母さまが一緒の部屋で寝たいと言ったけれど、疲労困憊を理由に辞退すると、ショックを受けた顔をしたが、渋々納得してくれた。意外と簡単に折れたのは、たぶん可愛い孫娘のわがままを何でも聞いてあげることに意義を見出したのだろう。
うん、かなり甘々だ……。
そして、その翌日は晩餐会の折に何気ない会話からノーマン提督と約束した海軍基地の視察を行うこととなった。ぜひ、自分の艦隊や部下達を見て欲しいとの話だった。
急に決まったことなのに、海軍を上げてオレを歓迎してくれて、驚く半面ちょっと嬉しかった。けど、集まった連中の暑苦しさと男臭さにオレは思わず閉口する。
何故だろう……男だった傭兵時代は気にならなかったが、今は何だか近寄りたくない。というかムキムキな筋肉が気持ち悪いぞ。
実際、彼ら帝国海軍陸戦隊の方々の風体や言動は、海賊っぽいのではなく、ほとんど海賊のように見えた。クレイの説明によると、元々がノーマン提督の先祖は海賊であり、帝国の発行する私掠免許状を得てエントランド連合王国船籍を襲っていたらしい。
けど、戦時になると海軍力増強のため海軍に臨時雇いされ、平時になるとお払い箱になって 海賊になるという暮らしを繰り返していたようだ。
帝国海軍の前身は、正にそのような連中によって成り立っていると言って良かった。
実際、海で働こうと思う男の選択肢としては、商船の水夫か、海賊か、海軍の軍人の三択ぐらいしかなかったのは事実だ。
なので、現在の海軍の陸戦隊の中には元海賊だった者も少なくない。つまり、オレの目に連中が海賊と映るのは、あながち見当外れではなかったのだ。
一方、ノーマンの先祖は、戦火が長く続くと海賊を取り仕切る才幹と豪胆な武威を買われ、正規の軍人となり数々の武功を上げた。特に、今の代のノーマン提督は見かけによらず知略があり、若い内から海軍の中で頭角を現し、ついには現在の地位にまで上り詰めたのだという。
なかなかの切れ者というの世間の評判だが、オレにはとてもそうは見えなかった。
どう見ても、『俺様と拳で語ろうぜ!』の脳筋おっさんだもの。
ちなみにウェステリオ伯爵令嬢(ノーマンは婿養子!)だった今は亡きルータミナのお母さんは、海賊に襲われていたところ、ノーマンに助けられ一目惚れして求婚したのだそうだ。
ルータミナのお母さんの方がだ。とにかく、ルータミナを見れば、彼女のお母さんがいかに美人だったか想像に難くない。
いったい、このおっさんのどこが良くて惚れたのか、オレにはかなり謎なんだけど……。
ホント、男女の縁って摩訶不思議だ。
「さあ、お前ら。皇女殿下に俺達の強さを見せてやれ!」
ノーマンがどら声を上げると、隊員たちが車座になって、演習場に闘技場のようなスペースを設け始める。
「殿下はこちらに……」
何事かと思っていると、決して脳筋に見えない理知的なノーマンの副官に特等席へと案内される。
どうやら、即席の武闘大会を始めるらしい。
普通、たおやかな皇女殿下に血生臭い闘いを見せつけるなんて、ノーマンの感覚は絶対にずれてると思ったけど、オレも普通の皇女ではないので、正直ワクワクしてたりするのは内緒だ。
「いいか、殿下にいいところを見せろよ。俺様に恥をかかせるんじゃねえぞ」
「おおッ!」
ノーマンの煽り文句に、隊員全員が野太い声を揃える。
「一番勝負。アイラン、バッシュ、前に出やがれ」
名を呼ばれた二人が勢い良く立ち上がって前に出る。周りが囃し立てるが、二人は静かに向き合って互いを睨みつけた。
一切、武器や防具は着けていない。素手で殴り合うつもりなのか?
「おう、さっさと始めろ!」
ノーマンの号令で、二人は矢のように走り出し、真っ向から激突した。
この章で、ついにアリスリーゼ編が終わります(予定)
な、長かった……(>_<)
次は、いよいよ帰路です。やっと3分の2が終わる……だ、大丈夫か私w
いつ完結するんだ、これ。




