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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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レイモンド邸にて……⑧

 アリシア皇女が次の皇帝……女帝になるというシナリオはケルヴィンが臣民最高位の帝国宰相になるという野望には不可欠なものだ。

 けれど、それをケルヴィン自らが主導で推し進めるのには無理があった。そもそも、それが行える地位や立場にもなかったし、内乱に乗じて強行するにはあまりに魂胆が透けて見えた。

 かえって敵を増やすことにつながり、今いる支持者の離反を招く恐れもある。


 もちろん、オレ自身がそれを表明するのも駄目だ。


 平民上がりの皇女が急に即位を口にするなど不自然もいいところだし、何よりオレ自身にメリットがない、と世間は見るだろう。

 皇女になれただけでも、たいした幸運だというのに、さらに公子と結婚すれば次期皇帝の生母になれるのだ。何の才幹もない元平民階級の娘にとって、これ以上の栄華は考えられない。

 なのに、あえて火中の栗を拾うような真似をするとなると、その不自然さに必ずケルヴィンの示唆が疑われるだろう。

 しかも、現在のオレの皇女としての立場は両公国の思惑による不安定なバランスの上に成り立っているところがあるので、両陣営を敵に回すには、早急に地盤を固める必要があった。


 それが帝国参事会の議題に上がった近衛軍の統合と今回のアリスリーゼ行きの目的と言えた。それほど、オレの即位のタイミングは難しさを要するのだ。


 でも、帝国に純然たる影響力を持つレリオネラ皇太后の言葉ならどうだろう。

 両公子の継承を認めないこと公にしている彼女なら、そう発言するのはさも当然と思うだろうし、皇太后と言う政治的な重みもある。

 また、現帝国政府ケルヴィンが、その意向に従うのは別段不自然ではないし、両公国の怒りの矛先がケルヴィンやオレにではなくレリオネラ皇太后に向けられるのも都合の良い結果だ。


 まさしくケルヴィンの描いた図面通りの展開となるわけだ。

 もし、本当にここまで考えて、オレのアリスリーゼ行きを決めたのなら、あの男の狡賢さには舌を巻く思いだ。


「アリシアちゃん、聞いてる? それで良いでしょう」


「え、はい。お祖母さまの仰せの通りにします」


 確かに、あの二人のどちらかと結婚させられるより、お祖母さまの提案に乗った方がはるかにマシだ。

  なので、お祖母さまの提案はケルヴィンだけでなく、オレとしても願ったり叶ったりの話と言って良かったのだ。  


「レリオネラ様。ご歓談の途中、大変申し訳ありません。お食事の用意が……」


 侍女が夕食の時間をおそるおそる告げに来る。

 

 きっと、前に機嫌を損ねたことがあるのだろう。逆鱗に触れないように及び腰だったが、今のお祖母さまは、孫に好かれる優しいお祖母ちゃんモードなので、危険はない。


「あら、もうそんな時間なの。アリシアちゃんとのお話が楽しくて時間を忘れていたわ。残念だけど、ここまでにしましょう」


「はい、お祖母さま」


 こうして、オレとレリオネラ皇太后の初顔合わせは無事に終了した。



 その夜の夕食は賑やかなものとなった。


 オレを歓迎するために、急遽晩餐会が開かれたからだ。ただ、招待客はオレの正体を知っている者に限られたから参加者はごく少数になる。

 レリオネラ皇太后、レイモンドとサラ親娘、ノーマン提督とルータミナ神殿長親娘、そしてオレ達だ。


 今夜のルータミナは神殿長の肩書きではなく、ウェステリオ伯爵令嬢として出席しているので、華やかなドレスを身に纏っていた。

 よく似合っていて、年齢より若く見えて可愛い。


 ノーマン提督の方は、海軍の正装を着用していたが、どこか着慣れていない雰囲気だった。どう考えても煌びやかな軍服より、皮鎧のような防具の方が似合っていた。

 

 しかし、こうして二人が並んでいるのを見ると、ホント親娘に見えない。

 まさに美女と野獣だ。


「レリオネラ皇太后殿下、今日はお招きに預かりまして、ありがとうございます。アリシア皇女殿下、アリスリーゼへご帰還おめでとうございます」


 親しげな様子でルータミナがドレスの裾をつまんで礼をすると、お祖母さまの表情が柔らかくなる。


 やっぱり、身内と言うか親しい者には優しいようだ。


「こ、皇太后殿下、お久振りでございます」


 一方、父親の方はと言うと、無骨な身体を精一杯縮こませて、借りてきた猫のように大人しくしていた。


「二人とも大儀です。これからもアリシアのこと、よろしく頼みますね」


 お祖母さまに挨拶を済ませると、一同は席に着いた。


「それでは、アリシア皇女殿下のアリスリーゼご帰還を祝しまして、ささやかではございますが、宴を設けさていただきました。時間の許す限り、お料理とお話を楽しんでいただければと思います」


 レイモンドが開会の儀を述べる。


「まず、始めにレリオネラ様からお言葉を……」


「わたくしより、アリシアちゃ……アリシアに話させてあげて、今日はこの娘が主役なのですから」 


「お祖母さま……」


 急に振られても困ります……と言いたかったけど、にこにこと頷かれてしまっては断れない。


 仕方ない、なるようになれだ。


「本日はオ……私のためにこのような宴を催していただき、ありがとうございます。今後はアリスリーゼの発展に微力ではありますが、ここにいる皆様方と頑張っていきたいと思います。どうかよろしくお願いします」


 どうだ? 問題なく言えたかな。


 しめしめ、クレイとヒューの目が点になっているから成功だろう。

 お祖母さまも満足そうだ。


 オレだってやる時はやるのだ。


やっとレイモンド屋敷が終わった……(>_<)


次章で、たぶんアリスリーゼを後にする予定です(たぶん)


毎日、暑いですね~。梅雨はどこへ行ったのだろうか?

 

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