再会……③
「おやおや、ノーマンではないですか。珍しいですね、こんな時間にここへ来るなんて」
レイモンドの顔見知りのようで、親しげに話しかける。
「おうよ、いつもなら女のところに、しけこ込んでいる時間なんだが、手前んとこの跳ねっ返り娘が、今日ここに来ると面白いもんが見られるってんで、わざわざ顔出したんじゃねえか」
うわぁ、悪人顔の通り口も悪いぞ、このおっさん。
人相と相まって、山賊にしか見えない……いや、海が近いから海賊か。
「よお、おっさん。やっと来たね。来ないんじゃないかと冷や冷やしたよ」
「悪いな、あいつんとこ寄ったら神官連中が、ぎゃーぎゃーうるさくてな。ちっと遅れちまったぜ……で、サラ坊、面白いもんってどれだ?」
「あんたの目の前をご覧よ」
「ん……」
今、確かに神官連中って言ったよね。
と言うことは、もしかしてこの海賊おっさんは……。
「ひゅう、こいつは驚いた。形は小さいが、とてつもねえ別嬪さんだな」
オレを見るなり、その男の目の色が変わりオレに詰め寄った。
「おい、あんた俺様の子、産んでくれ!」
ばきっ!
やべ……あまりの発言に反射的に殴っちまった。
けど、オレの一発を腹に受けた海賊おっさんは、驚いたことに倒れてはいなかったのだ。
手加減したとはいえ、オレの一撃を受けて立っていられる人間は、そうはいない。
そう考えると、この海賊風味のおっさんが、なかなかの戦闘力を秘めているのは確実だ。
「……っ、いってえな。すげえ拳だぜ。可愛い顔して、えげつない威力だな」
「そういうあんたも、たいしたもんだと思うよ」
「ふふ……ますます気に入ったぜ。あんたは俺様の正妻にしてやる。それなら文句ねえだろう」
いやいや文句大有りだって。
「ノーマン、お控えなさい。君が口説いている少女は我々の主に連なる御方なのだよ」
見かねたレイモンドが苦笑いしながら助け舟を出してくれる。
「は?」
一瞬では理解できなかったようで、おっさんは間の抜けた声を上げる。
「だから、こちらにおられる御方はアリスリーゼの正統なる支配者アリシア皇女殿下なのですよ」
「な、何だと!」
今度は、はっきり理解したようだ。そして、慌てて膝を折って頭を下げる。
「こ、こいつは、ご無礼いたしました」
「いいって、今さら取り繕わなくても。そんなことより、あんたはいったい何者なんだ?」
でかい図体を目一杯小さくさせて、謝罪の意を示すおっさんに尋ねてみると、奴は顔を上げて神妙そうに答えた。
「ノーマン・ウェステリオと申します、殿下。帝国海軍の司令長官を拝命しております」
え? このおっさんが海軍司令だって?
確かアリスリーゼには帝国海軍の根拠地があるって聞いていたけど。
しかも、皇帝が行方不明になり内戦が勃発した折、アリスリーゼが皇女直轄領を理由にカイロニア公国・ライノニア公国双方に与せず中立を宣言すると、帝国海軍もそれに同調し中立を宣言した筈だ。
だから、今回の旅の目的は皇女直轄領アリスリーゼを支配下に置くことと、旗色を明らかにしない帝国海軍を掌握することにあるって、ケルヴィンからさんざん言われてきたんだっけ。
なので、海賊おっさん、もといノーマン海軍司令とここで会えたのは非常に幸運だったと言っていい。たぶん、これもサラの差し金だと思うのだけど、彼女の目的が何なのか相変わらず思惑は読めなかった。
「サラ坊、酷いじゃないか。殿下が来るなら、先に言っとけよ。知らないもんだから、本気で口説いちまったじゃないか」
「へえ、さすがのあんたも皇女殿下様は口説かないんだ。そいつは驚きだ」
「お前なぁ、俺様を何だと思ってやがる。破天荒の俺様でも、そこまで節操なしじゃねえっての」
いやいや、初対面の少女、それも外見が年齢より幼く見える女の子に、本気で求婚する奴が節操があるとは、とても思えないぞ。
貴族でなければ間違いなく捕まるぞ……あ、一応こいつも貴族なのか。
「そういや、ノーマン帝国海軍司令……」
「ノーマンで結構です、殿下」
「じゃ、ノーマン提督。ひょっとしたら、ルータミナ神殿長は貴方の娘さんなの?」
気になっていたことを質問する。
「ええ、その通りでございます。はて、うちの娘にお会いになったんで?」
「うん、北方大神殿に用があってね。とても綺麗で気立ての優しい娘さんだよね」
「もったいないお言葉です。あれは幼い頃から今は亡き皇妃殿下に憧れていたんで、皇女殿下の帰還を人一倍嬉しがっておりましたので、殿下にお目にかかれて喜んだことでしょう」
「ああ、とても喜んでくれて、オレも嬉しかった」
それにしても……。
あの華奢で美しいルータミナが、この海賊親父の血を引いているとは、とうてい思えないな。よっぽど、お母さんが綺麗な人だったんだろう。
母似で良かったね、ルータミナ。
でも待てよ、さっきオレを正妻にすると何とかほざいていたから、ルータミナのお母さんはすでに他界しているのかもしれない。自分より年上の女性を娘と呼ぶのはさすがに勘弁してもらいたい。
けれども、これでルータミナが北方大神殿の神殿長に抜擢された理由がわかった。海軍司令の娘だったら、名誉職の大神官にもってこいと言えるだろう。
木曜日からまた風邪で寝込んでます。
転勤のせいで心身ともに弱ってるみたいです。
もしかしたら、水曜日の更新はお休みするかもしれません。
ごめんなさい。
皆様も体調にお気をつけくださいね。