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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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アリスリーゼ政庁舎……②

 通された応接室は、先ほどの来賓用の控え室に比べれば、いくぶんか質素であった。もちろん、来賓室に比べればの話で、たぶん調度品の金額を聞いたら目を剥くほどの値段に違いないだろう。

 いつもなら何か壊さないか心配になるところだけど、さすがに武装は先ほどの来賓室に留め置かれたので、出っ張ったもの等もないから不可抗力で壊すことないと信じたい。

 ちなみに今日のヒューの装備は例の甲冑モードではなく護衛としての最低限の防具を身に着けていた。いつもの完全武装で政庁舎に赴くのはさすがに不味いだろうと判断したためだ。


 今回は、クレイがレイモンドと面識のあることを考慮して、使節団の代表という立場をとり、オレとヒューが護衛、ソフィアは侍女という設定となっている。

 本当は、オレも侍女にした方が目立たなくて良かったのだろうけど、大剣を持っている上にこの容姿で、その設定には無理があった。

 なので、要人警護には美醜も大きな選定基準になることも多いということで、護衛という設定が妥当という結果になったのだ。


 実のところ、オレとしてはテリオネシスの剣さえ持つことができれば、どんな設定でも構わなかった。というのも、イクスとの件以来、あいつの身体に傷をつけられるこの剣を手元に置くように心がけていたからだ。

 次に会った時は、ユクには悪いけど今度こそ決着をつけようと思ってる。それほど、あいつの実力は危険過ぎたし、オレを嫁にするためにクレイを殺すなどと平気で言うあいつを放っておくことはできなかった。


「……オレが絶対守って見せるさ」


「ん、リデル。何か、言ったか?」


 オレの独り言をクレイが聞きとがめる。


「え? ううん、何でもないよ……それより誰か来たみたいだ」


 オレは慌てて誤魔化すと同時に、扉のノックに注意を促した。 



「レイモンド様がおいでになりました」


 職員の声が聞こえ、扉が開くと一人の男がすっと部屋に入って来た。


 レイモンド代理統治官だ。

 

 けど、オレはその容姿に少しばかり拍子抜けする。

 やり手の政治家で、稀代の政商と聞いていたので、どれほどの人物か期待していたのだけど、入ってきたのは何の変哲も無い痩せ気味のおじさんだったのだ。

 髪は短髪で、優しい顔立ちに目は糸目、印象の薄いぱっとしない風体に見えた。


 とても強いカリスマのある大商人には思えなかった。どちらかというと風采の上がらない小役人といった感じだ。


「やあ、クレイ君。久しぶりだね、お父上は元気かね」


 オレの感想をよそにレイモンド統治官は親しげにクレイに話しかけた。


「お久しぶりです、レイモンド統治官。ただ、家を出た身ですので、その話はご遠慮願いたい」


 クレイが冷めた表情で反論し、交渉の幕が上がった。


「おやおや、クレイ君は相変わらず、つれないねぇ。前に会った時は、あんなに小さくて可愛らしかったのに……。あの時も僕が大事な一人娘を君にやるから婿においでと誘ったら「めんどくさいから、やだ」の一言でばっさり切り捨てるんだもの。おじさん、傷ついちゃったなあ」


「レイモンド……統治官。俺……私は仕事でここへ来たのです。昔話をしに来たわけではありませんので」


 クレイが己を自制するかのようにゆっくりと話すと、レイモンドはニコニコしながら言葉を返す。


「もちろん、わかってるさ。でも、お気に入りだった子が久しぶりに僕を訪ねてきてくれたんだよ。少しぐらい楽しんだって神様は許してくれるさ」


「私が許しませんから」


「ええっ、何でなの? それにクレイ君、顔がちょっと怖いよ。でも、その怒った顔も相変わらず素敵だねぇ。まさにクールビューティって感じかな。ホント、男にしておくには、もったいないよ」


「あんたこそ、相変わらず頭が膿んでるだろ。いいかげん、おかしなことばかりほざいてると、その口を塞ぐぞ」


 あ、やばい。クレイがキレた。


「あれれ? クレイ君、確か君は話し合いにきたのじゃなかったっけ? それとも喧嘩売りにきたのかい?」


「もちろん、話し合いのためだ。だから、あんたが売らなきゃ俺だって買ったりしない」


 敬語もぶっ飛んで、いきなり喧嘩腰だ。


「へぇ、いきなり言うじゃないか。でも、そうこなくっちゃ面白くない。猫を被った君と話しても、ぜんぜん楽しくないからねぇ」


 こ、この人、物事の尺度を面白いか面白くないかで決めるタイプの人間だ。


「しかし、それにしても意外だったよ」


 憮然とした顔のクレイにレイモンドは糸目をさらに細くして言った。


「皇帝の番犬になるのを嫌がって家を飛び出した君が、誰かさんのペットに成り下がっているとはね」


「レイモンド!」


「ク、クレイ様」


 クレイが怒りを堪えきれずに立ち上がってレイモンドを睨みつけると、慌てたソフィアが遮るようにクレイの前に立つ。


 す、凄い。何が凄いって、普段は斜に構えて本音を見せないクレイの感情をこうも簡単に引き出せるなんて。


「おいおい、そんなにいきり立つなって。使節団の団長自らが交渉を決裂させてどうする」


 口調を変え、くくっと笑うレイモンドは、やはり評判どおり喰えないおっさんだった。


「それより、クレイ。お前がペットに甘んじるほど大切なご主人様を紹介してくれないのか?」


 レイモンド代理統治官は、細い目を少しだけ開いて、オレの方をチラリと見た。


怒涛のように四月が過ぎていきます。

寒暖差のせいで、まわりに風邪引きさんが多いです。

読者の皆様もお気をつけくださいね。

私は恒例の「新作書きたい病」にかかっていますw

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