再び村へ……④
ジルコークが退去のために用意した馬車は二台。一台は貴族がよく使っている箱型のもの……いわゆる箱馬車で、少し古びてはいるが高級感あふれる立派なものだった。
もう一台は大型の荷馬車で、雨風が防げるように幌がついた、よく見かける商人達も使う普通の馬車だ。
箱馬車にはアエルと侍女のマルシェラが乗り込み、御者はジルコークが務めた。荷馬車の方は料理長のキャスビーが御者となり、必要最低限な家財や衣装を詰め込んでいる。本来は門番のラスバルが御者を兼任していたのだけど、不幸にも亡くなってしまったので、ジルコークやキャスビーが替わりを務めることになったようだ。ちなみにエルトヴァイトは自前の馬を所有していたので、アエル達の馬車に併走し護衛に勤しむらしい。
これに、サラの馬車、オレ・クレイ・ヒューの馬が加わるので、けっこうな大所帯だ。帝都を出たときはクレイとオレの二人きり(ソフィアは先行していたので)だったことを思えば、ずいぶん人数が増えたものだと思う。
それだけいろいろなことがあったのだと、しみじみと感傷に耽ってしまう。もっともクレイに言わせれば、それもこれもオレが面倒ごとに首を突っ込む悪い癖のせいで、運命とか偶然で片付けられる問題ではないと嘆かれた。
ご、ごめんよ。厄介ごとを呼び込む性格で……。
とにかく、この陣容で山荘を出発し、警戒しながら例の村を抜けアリスリーゼを目指すことになった。実のところ、アエル一行と行動を共にすることにクレイが反対するのではないかと密かに心配していたのだけれど、意外に簡単に了承したので不思議に思って聞いてみる。
「アエルと一緒にいると、中央大神殿の追及があると思うけど構わないの?」
「お、お前なに言ってるんだ?」
クレイは心底、呆れ果てたようにオレを見る。
「ちなみに聞くが、中央大神殿のトップは誰だ?」
「え? え~と……」
オレの返答にクレイは盛大に溜息をつく。
「お前、帝都から出るとき、誰から親書を預かった?」
「え、ああ、パティオ大神官か」
「そうだよ! 中央大神殿の実質的な最高権力者のパティオに願い事のできる立場のお前が何で中央大神殿を恐れる必要があるんだ?」
そ、そうなの?
「でもでも、末端の人はそんなこと知らないし……」
「そのための親書だろう。それに、この辺りはもう北方大神殿の領域だ。心配には及ばないさ」
なるほど。神殿の脅威はないから、アエルの同行を許したのか。
「大体だな。どう見たって箱馬車に乗っているアエルの方が貴族のお嬢様で、お前は護衛の傭兵にしか見えないからな。これ以上、他人を欺く偽装はないだろうさ」
「はは……そりゃそうだ」
ぐぬぬ、ホントのことだけど、何かむかつく。どうせお嬢様というかお姫様らしくなくて悪かったな。
よっぽど、偶然を装ってぶん殴ってやろうかと思ったけど、今回の交渉で悪役を演じてまで成功させたので、大目に見てやることにした。
「ところでクレイ、オレが言うのも何だけど、アリスリーゼにアエル達と一緒に入って大丈夫なの?」
少し気になったのでクレイの真意を確かめる。
「それは問題ないと思うぞ。アエル達は北方大神殿に向かうはずだし、俺達は(皇女直轄領代理統治官の)レイモンドに会う予定だろ。目的の場所が違うから、アリスリーゼに入れば、自ずと別れることになるだろうから」
「それはそうだと思うけど……サラ達はどうすんだよ」
「サラか……確かアリスリーゼが故郷って言ってたから実家にでも戻るだろうさ。それに、そもそもあいつの正体は……」
「リデル嬢!」
クレイが何か言いかけたのを遮ってエルトヴァイトがオレに話しかけてくる。オレとクレイが馬を並べて話し込んでいるところに無理矢理、割り込んできたようだ。
「どうかしましたか、エルトヴァイト様?」
話を中断させられて、少しむっとなりながら、お邪魔虫のエルトヴァイトに応じる。
「僕のことは『エル』とお呼びになってください、麗しき人よ」
「はい?」
「向こうのサラと名乗る女性に聞きましたが、今回の交渉はそのクレイという男が成功させたのだとか」
「ええ、そうです。上手くいって良かっ……」
「その男は貴女のような可憐な人にはふさわしくないと思うのです!」
「は?」
何だか、面倒な予感。
「交渉ごとは正々堂々誠意を持って行うべきものです。それを人質を取ったり、弱みに付け込んで脅したり、悪漢の所業に他なりません」
うわあ~、青臭い正論だ。
「麗しい貴女は、この男に騙されているのに違いありません!」
そ、そうか。そういや、エルトヴァイトって、オレが戦っている姿を一度も見てなかったっけ。オレのことを容姿だけ見て誤解しているみたいだな。
「あの~、エルトヴァイト様?」
「ですから、エルとお呼びになってください」
駄目だ、こいつも他人の話を全く聞かないタイプだ。
どうしてオレの周りにはこういう奴ばかり集まってくるんだろう。何かの呪いかと疑いたくなってくる。
「ところで『エル』君」
オレが内心げっそりしていると、横にいるクレイが悪戯っぽい目付きでエルトヴァイトに話しかけた。
一昨日、父親が深夜に救急車で運ばれたので、週末ばたばたしている私ですw
自宅から遠い場所に担ぎ込まれたので、往復も大変です。
大事にはならなかったので、一安心ですが水曜更新は難しいかもしれません。
ごめんなさいです。
ここ最近、せっかくアクセス数が増えていたので、頑張って週二回更新を維持していたのに残念です(>_<)
これからも頑張りますので、よろしくお願いします!