再び村へ……③
◇◆◇◆
村長との取引は、どうにか成立した。
最終的な結論としては、アエルの山荘を襲った盗賊団(傭兵団)を村長に引渡し、彼らの刑罰に関しては村長の裁量に委ねることとした。実際、村長は村の代表として領主に代わって村内の犯罪を裁く権利を持つので、一応は順当な結果と言えた。
もっとも、村長の息子を含む犯罪集団なので、どういう罪状になるかはオレ達の関知することではなかった。が、その代わりに村長は門番さんの埋葬等の費用や山荘襲撃に対する賠償金をアエル側に支払うことを確約してくれた。
他方、それとは別に『開かずの間の宝物』についても、金銭での譲渡が決定されることになった。
これで、一応の決着はついたのだが、問題になったのは村長が白金貨と開かずの間の宝との交換に固執したことだった。
まあ気持ちはわかる。お金を渡したのに、お宝も持ち逃げされたとしたら、目も当てられないからな。
ちゃんと目録も作ってあるそうなので、中身の確認はしっかりするとの話だ。
後で、こっそりサラに注意しておかないとね……サラのことだ、ひょっとしたら幾つかくすねているかもしれない。
ちなみに、あと問題として残っていたのは、あのお宝を白金貨と交換するために、どうやって村まで運ぶかだった。
けっこうな量なので、馬車で運ぶのも厄介だったし、村長としても出来れば自分の屋敷に置きたくないようなのだ。
それと言うのも、わざわざ人気のない山荘に隠していたのは、どうやら他の村人達に知られたくない事情があるのと、不意に村へ訪れる国の徴税官に対する備えのつもりであったらしい。
何かの拍子で宝物の所有がわかると、いろいろと厄介なのだと村長は意味ありげな顔をする。
だったら、そのままアエルに預けておけば良いと思うのだけど、それは絶対にできない相談だと言い張る。アエル達だったら、預け料を支払えば、きちんと責任を持って保管してくれるのに……。
クレイが笑って言うには、自分に後ろめたいことがある人間は他人を簡単には信用したりしないのだそうだ。
オレにはぴんと来なかったが、村長が苦笑したので、相通じるところがあったのだろう。
ところが、この問題は意外な人物からの提案で決着がつくことになった。
「え? 一緒にアリスリーゼに行きたいだって?」
「ええ、差し支えなければ、このまま護衛契約を継続していただきたいと思います」
アエルご一行様……というかジルコークが、あの山荘を捨てオレ達と一緒にアリスリーゼへ向かいたいと言い出したのだ。
「前にもお話しましたが、皇女様がご帰還になった今が『血統裁定官』復活の好機なのです。アエル様のために一刻も早く北方大神殿に向かい、善後策を協議せねばならぬのです」
そういや、そんなこと言ってたっけね。
でも、ジルコークさんに悪くて言えないけど、それ期待薄なんだよねぇ。
「それにアエル様が、リデル殿をいたく気に入り、ぜひご一緒したいと仰せなのです」
うん、なんとなく懐かれているのは、わかってた。
どうも既視感があると思ったら、アエルってどことなくノルティに似ている気がする。
ノルティ……今頃、どうしてるかな?
きっとトルペンの奴にくっついて、ろくでもない研究を続けているに違いない。もう、ずいぶん会っていない気分になって、ちょっと寂しくなったのは秘密だ。
とにかく、アエル達があの山荘を手放すことを決めたので、クレイは早速それを村長に売りつけることにしたらしい。
ホント、容赦のない奴だ。
実際のところ、敷地や建物は確かに広いが、辺鄙な場所にある上に家屋もかなり傷んでいるので資産価値は低い。
なので、ジルコークさんも放置で構わないと言ってくれたのだが、せっかくなのでクレイが村長に相談(あくまで相談)したところ、さっきの取引金額に多少上乗せすることで折り合いがついたそうだ。
そんなわけで、開かずの間は山荘ごと村長が所有することになったため、宝の山の移動はしなくてよくなったので、難問は一挙に解決した。
オレ的にはあの温泉がちょっと心残りだったけど、この場所に再び来る可能性は、ほとんどないので泣く泣く諦めることにする。
でも待てよ。
よく考えてみたら、村長の奴、別にあんな風に事を荒立てなければ、直にアエル達一行はここを出て行ったかもしれないので、今回のように大枚をはたかなくても、あの山荘を確保できたんじゃなかろうか。
村長……ホントお疲れ!
オレは心の中で不運な村長さんにエールを送った。
まあ、自業自得なんだけどね。
◇
出発の準備は大急ぎで行われた。
村長との話し合いは平和的(?)に終わったが、強引な面も否めなかったので、何か不測の事態が起こる前に速やかに村から出る必要があったからだ。
特に後半、やけに素直に応じる村長が、とても不気味に思えたし、このまま何事もなく旅立てるか正直、不安も感じていた。
契約が成立し、約束の白金貨はすでにジルコークに支払われ、代わりに捕まえていた傭兵団は村長側に引き渡し済みだ。
再び、戦いを挑んでくる可能性は低かったけれど、どのような手を打ってくるかわからない現状、出来るだけ早く出立することが望ましかった。
ただ、急な決定にも関わらず、皇女帰還の報を聞いた時点でアリスリーゼ行きを想定していたジルコークのおかげで、思っていた以上の早さで準備は整うことになったのが唯一の救いだったと言っていい。
インフルが、ひたひたと足音を立てて忍び寄ってくる今日この頃、皆さんはいかがお過ごしですか?
私は体調、下降気味ですが一応元気です。
お天気も崩れそうなので、寒さには気をつけたいです!
山奥の村の話も、もうちょっとで終わりそうですね。
次はアリスリーゼ編か……。