襲撃の顛末……④
「っ……いてて……」
「お、気が付いたみたいだな」
右手と左手にそれぞれ団長と村長の息子君を無造作に持ち上げて運んでいるオレに、目を覚ました団長はぎょっとした顔でオレを見る。
「手足は縛っているけど、あんまり暴れないでくれよ。もう少しで下ろすから」
「……ああ、大人しくする」
意外に神妙な態度にオレは拍子抜けした。
「そうしてくれると助かる。でも、あんた、運がいいよ。他の奴らは骨折したり、大怪我したりしてるけど、あんたはかすり傷程度で済んでるから」
体付きから考えて、やはり他の連中と違って鍛え方が違うのだろう。
「いや、俺の運は最悪だ」
けど、オレの言葉に対し、団長は自嘲気味に否定する。
「まさか、あんたが……『白き戦姫』が一枚かんでいるのを知っていたら、こんな仕事請け負わなかったのにな」
オ、オレの前で、その名前を出すな! と叫びだしたいところを必死に我慢する。
「それにしても、あんたホントに別嬪だったんだな。街じゃ、あんたの素顔が別嬪かどうかで賭けする連中が多くいたが、俺は不細工の方に分があると思っていたから、もし賭けが成立してたら大損してるところだ」
そりゃ、どうも……って言うか、そんな賭けまで横行してたのか。
まったく油断ならない。
「だが、あんたがこんな所にいるとは、さすがの俺も思わなかった。あれだけの成績を残したんだ。オストフェルト伯か、もしくは別の貴族の正規軍に取り立てられていると信じ込んでいたよ」
まあ、普通はそう考えるのが自然だろう。
「こっちにも、いろいろと事情があってね」
口を濁すと、団長の目が細くなる。
「そいつは羨ましいこった。こっちは、戦争が減って食い扶持を稼ぐのに四苦八苦してるっていうのに、選り好みできる余裕があるとはね」
こんな仕事を請け負っているのだから、苦しい台所事情なのだろう。
そうか、オストフェルト伯爵が心配していたことが、現実に起こっているのだと実感する。
「まあ、戦争で死ぬのも犯罪で処刑されて死ぬのも、同じ死ぬのに変わりはないさ」
団長は、最後に諦観したように言うと口を閉ざした。
オレ達は傭兵団の連中を一部屋に閉じ込めると、とりあえずクレイに監視をお願いした。
エルトヴァイトとマルシェラは屋敷内の片づけを、厨房のキャスビーはオレ達が夕食を食べていないことを知ったジルコークが簡単な食事を作らせている。
オレはと言うと、ヒュー達も直に到着するだろうから、それまでにジルコークから詳しい事情を聞くことにした。
部屋には、オレとジルコーク、それに当のアエルが残っている。もっとも、会話は例のごとくオレとジルコークに終始することになったけれど。
「まず、最初に聞きたいのは、彼女は何者なんだ。貴族って言うのは嘘なんだろう?」
「そうですな、男爵の遠縁というのは偽りですが、貴族に列せられていることは事実です。ただし、公にはなっていませんし、帝国の貴族血統目録にも載っておりません」
「公になっていない? どういう意味?」
オレが疑問を投げかけるとジルコークは「少し長くなりますが」と説明を始めた。
「実は、アエル様は『呪われし血の一族』として名高いアールミン一族の末裔に当たります。しかも、その中でも『真理を見抜く者』と謳われる家系に属してます」
ジルコークは至極、真剣な顔付きでそう話す。
オレが笑い出すか怒り出すことを警戒しているようにも見えた。
もし、オレが自分の身の周りで起きた数々の事件に出会っていなかったら、そういう反応を見せたかもしれない。
何故なら、アールミン一族というのは、人を凌駕する種族、すなわち神族・魔族・竜族の中の魔族の……しかも上位種である吸血鬼の王族に相当する一族のことだったからだ。
オレも皇女教育の一環で習ったけど、それは歴史の授業ではなく、伝承や御伽噺という教養として習った訳で、普通の人なら本当にそんなものが存在するとは思わないだろう。
けど、実際に古龍であるトルペン先生に出会ったり、聖石の奇跡を体現しているオレにとって、それは極めて有りえる話だと思えた。
オレの反応を窺っていたジルコークは、ほっとした顔で話を続ける。
「荒唐無稽な話で信じられないとは思いますが、これは事実なのです」
「いや、信じるよ」
荒唐無稽を地で行っているオレとしては、信じなかったら自分自身はどうなのかということになりかねない。
ましてや、さっきのアエルのあの姿を見れば信じざる得ないというのが、本音だ。
「ありがとうございます。そこを理解していただけると助かります。ただ、最初に誤解を解いておきたい事柄がありますので、お聞き届けください」
「誤解?」
オレが疑問符を浮かべると、ジルコークはニコニコしながら座っているアエルを優しげに見つめながら、言葉を続ける。
「はい、まず正しておきたいのは、吸血鬼が恐ろしい存在であるという間違った認識です。伝説や御伽噺の中で吸血鬼は人間の生き血を啜る悪い怪物のように描かれていますが、実際は違うのです」
確かに血を吸う化け物として恐れられており、特に美しい少女を襲うというのは物語の定番となっているので、恐怖の対象としてのイメージが定着している。
けれど、ジルコークが言うには、それがそもそも間違っているのだそうだ。
「吸血鬼が……いえ『呪われし血の一族』が血を吸うのは、血液自体を生きる糧としているわけでも血を好んで飲んでいるわけでもありません。血の中に含まれている『オド』と呼ばれている魔法物質を取り込んでいるのです」
へぇ、血の中にそんなものが含まれているなんて初耳だ。
「しかも、正常な人間なら体内で醸成され循環している『オド』が収まりきれず、対外へと溢れ出しており、それがその人の生気を形成しているのです。気が合わないとか覇王の気とか言ったものは、このことに起因すると言われています」
もしかして、よく強い奴に相対したときに相手から気を感じるのも、それのせいなのだろうか?
「そして、彼ら『呪われし血の一族』が物語のように直接、吸血行為を行うことは稀で、溢れた『オド』を空気のように吸って生きていることがほとんどなのです。全くの無害とは言いませんが、多くの血の一族達は争いを好まない温和な性格をしており、人間と共存してきたのです」
アエルとジルコークの関係性を見ると、あながち嘘ともオレには思えなかった。
あまり気にしてはいなかったのですが、「なろう」には作品の評価制度があります。
文章評価:ストーリー評価 というものです。
先日、気になって調べたところ、ストーリーに「1」を付けている方が3人いらっしゃいました。
お一方は、あちこちで「1」をつけている方だったので仕方ありませんが、残りのお二人は他作品には「4」や「5」をつけている方でした。
わざわざ「1」をつけるのですから、よほど気に入らなかったのでしょう。
単に趣味が合わなかっただけかもしれませんが、あえて「1」をつけたメッセージ性に、いろいろ考えさせられました。
今さらストーリーも作風も変えられませんが、今後とも一人でも多くの方に楽しんでいただけるよう精進していきたいと思います。




